5

 ある日、彼の前を真っ白なワンピースに身を包んだ少女が横切る。彼女はその腕に澄み渡る青空の絵を抱えていた。

 遠目に見たそれは彼が探し続けた絵と実によく似ていた。

 慌てて駆け寄り、声をかける。

「ようやく出会えた。僕はこの絵と同じ絵を持つ相手をずっと探していたんだ」

 必死にそう告げる目の前の青年に、少女は哀れむような視線を向けた。そして「貴方の絵と私の絵のどこが似ているの」と、差し出された絵を突き返す。

 震える手ではうまく掴むのことができず、絵は指の間をすり抜けて地面へと落ちた。

 少女は落ちた絵のことなど気にする様子もなくそのまま背を向けて去っていく。

 とても追いかける気にはならなかった。

 彼は足元に落ちた絵を何度も踏みつけた。靴底の泥が絵をさらに醜いものへと変える。ざらざらとしたアスファルトの表面が紙にいくつもの穴を空けた。

 そんなことをしたところで気が晴れるはずはなかった。散々さんざん痛め付けた絵に、彼は今さら手を伸ばす。拾い上げたそれはかろうじて紙としての原型をとどめていたが、もう絵とは呼べない変わり果てた姿となっていた。

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