夢日記

彼岸 水

夢日記

 いつからだろうか。私の服の色に青が入るようになったのは。


 赤が好きだった。いや、今も好きだ。なんなら部屋にある物は赤が多い。椅子に掛けてあるストールも、枕カバーも、カーテンも少し赤みがかっている。けれど、クローゼットを開けると青が目立つ。どれも最近買った服ばかりだ。


 青の服の数だけ私がどれだけ夢を見ているのかが分かる。叶わぬものは諦めた方がいいと過去の私が忙しなく警鐘を鳴らしているが、どうしても夢というものはずっと見ていたいものでなかなか手放せそうになかった。

 どんなに鮮やかな夢でも覚めたら忘れてしまう。長い夢も掻い摘んだ部分しか思い出せなくなる。そんなのは悲しいではないか。折角まだ見ることができる夢だ。最後まで、まだもう少し浸っていたっていいだろう。


 ある時を境に文章量が増えていく日記を眺めるのは存外嬉しく、それでいて見返すにはあまりにも内容が熱く溶けているものもあり、当初は困惑していた私であったが、時が経つに連れ熱い筆跡はより鮮やかになり私の脳を焼く。


 さぁもう少しだ。唯の移動手段でしかなかったバスや電車が暈け、夢の始まりを告げる。

 今日の長く短い夢は何を魅せてくれるのだろうか。あぁ、足音が聴こえる。その足音の何倍もある心音を感じ、振り返る。


 ―17時。

「ごめんね。待たせた?」

「いえ。」

「似合っているね。その服。」

「ありがとうございます。」


やはり私は夢を見すぎているのかもしれない。簡単な奴であるのは明白である。


「青が好きなんだよねぇ。」

「ええ。―本当に綺麗な色ですよね。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢日記 彼岸 水 @cluster_amaryllis01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ