第9話 歴史
魔族が強くなってるらしい噂は、戦場からの帰り道に小耳に挟んだものだった。
基本的に命を落としかねない雑兵たちは、仲良かったものが死んでも気分が沈むだけってことで、あまり親しくなることはない。俺の場合も同様で、噂話も基本的には誰かが話しているのを盗み聞きするだけ。その情報源が信頼できるかは分からないけどね。
ただ、魔物が強くなっているというのは、噂だけではなくて自分の感覚としても感じている話だった。というのも、一体一体にかかる時間が以前と比べて長くなってきている。とはいえ、どの魔族も均一に強化されているというよりは、それぞれの個体によって
もしかしたら元から個体ごとに頑強さは違ったのかもしれないけどね。基本的に一体一体にはあんまり時間かけない方式でしか戦ってなかったから何も分からなかった。
そしてもう一つ気になるのは、同じ顔の魔族は強さが大体同程度ということ。ちなみに今戦場で激アツなのは、
何もお召しになってないせいで直視したくない見た目にはなっているものの、鍛え上げられた体のように見える。目が逝っちゃってるけど。魔族だし。……………最近は見るも無残な姿すぎて可哀そうに見えて来た。敵が。
こうやって色々と新事態に出くわすと、魔族って何ぞやっていう根源的過ぎる質問が常に脳裏にチラついてくる訳だが、考えれば考えるほど謎は深まってくばかりなんだよねぇ。
人間の生息可能な範囲が狭すぎて、どこから魔族が発生しているのかとか誰も確認したことがないし。彼らが現れてからもう既に五十年は経っている訳で。そりゃあ、誰も覚えていないよねという。この世界の平均年齢は大体四十歳程度で、それ以上の方は大体女性だし。ってなると、基本的に戦いに出ていたのは男だったので、彼女らは魔族達については何も知らない。因果関係は逆だが。
この世界のどこかを探せば記録は残ってるかもしれない。ただ、インターネットやら何やらがない現状、情報の共有は絶望的で、誰かがその記録を見つけてもそれを広めることは難しかったりする。
話を戻すが、この魔族が強力になっているというのは、この五十年で初めての事態らしく、かなり張り詰めた空気が世間の人々の間で流れていた。
そりゃあそうだろうねぇ。自分の命に関わってくる話な訳ですし。
ただ自分はと言えば、俺がこの世界へと送り込まれてから少し経ち、戦場に慣れてきた辺りで起きた事態だったために、あんまり真剣には危機感を抱けていなかった。
どちらかと言えば、自分達三十五名に合わせて難易度調整が成されたのではないかという、誰かしらの掌の上で踊らされているような、漠然とした不安を感じている方が大きかったり。
俺はこちらの世界に来て、俺らを呼び出した者達────王宮にいた面々の許を早々に逃げ出したので、自分たちが何故ここに呼び出されたのかを直接的に言われたわけではない。まぁ、普通に考えたらこの魔族の殲滅なのでしょうが。
加えて、自分がどのようにしてこの世界に来たのかも知らない。魔法なのかも、それ以外の寄り大きな摂理が働いたのかも、何も分からない。故に、この魔族自体が自分たちを苦しめる者なのか、それともただの偶然の産物にすぎないのかも分からない。
分からない分からないだらけで投げ出したくなるが、人生こんなものなのでしょうね。諦めるよりほかなし、ってことで。
で、その色々と考えることを諦めた末に辿り着くのが、結局は自己防衛の手段を学ぶのが良いということ。
んまぁ、結論としては魔法を頑張りましょうということですね。
色々と変更可能な魔法が使えることを感謝した方が良いのでしょうね。
即物的な欲を言えば、どちらも使えるのが理想だった。それにしても何かしらの短所は存在するんだろうが。
剣の扱いを誰かに師事した方が良いだろうか。自らに教えてくれる程度には暇で、且つ戦には参加していない程にやる気のない人間なぞ、存在するとは思えないけどね。
結局は戦場で剣技の
…………自分の出陣じゃない夜中に、宿を抜け出すというのも悪くはないかもしれない。若干怪しまれるが、夜中にどこかに出掛けるというのはどの雑兵でもあるものだ。溜まりに溜まった物を吐き出さなければならぬのだから。
戦場を隠れて見守って、二時間もしないで帰って来れば、そこまで不審がられはしないだろう。
元々夜中は外で過ごしていた。それでは怪しまれると思ってずっと宿に籠っていたが、別にそこまで両極端になる必要もない。
やっぱ視野が狭くなってるね。気を付けた方が良さそう。昔から前しか見えないって良く言われてたし、自覚はあるつもりだったんだけど。
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