第6話 引っ越し

 ────三か月後。


 いつも通りの戦場。死体の山に囲まれながら、いつものように死体から魔力を吸収する。この三か月で、想像以上に色々と変わった。


 まず、一人で前線に留まることがかなり板に付いて来た。護衛を雇うことを諦めた例の日から自衛の術を色々と学んできて、魔族相手であれば怪我を負うことも殆ど無くなった。それに従って張り詰めていた緊張が段々と解れてきていて、今では敵と戦っている最中でも落着きを保つことができるようになって来た。

 やっぱり亀の甲より年の功ってことっすね。人間の物事に慣れる能力は凄まじいと思う。


 で、次に、活動場所を変えた。というのも、前の王都付近の場所では色々な人に顔が知られてきて、ですねぇ。まぁ知名度が上がるってのは悪くないのかもしれないけど、職業柄人に好かれることがないのですよ。

 どっかのタイミングで陰口が耳に入ってしまい。想像以上に腹が立って逃げ出して来た。まぁ、元々いつかは場所を変えるつもりでいたから、問題ないんだけどね。


 それに関係するのだが、宿を取るようになった。というのも、移ってきた場所というのがあまり大きな町ではなかったんで。前みたいな大規模な戦場でも顔が割れる程度なんだから、こっちで宿を取らないなんていう行動を取ってたら不審がられるでしょう、ということで。

 腰を下ろして休む時間が出来るというのもありがたい。


 更に、魔法についてだ。元々使える魔法陣は二つあって、その内の片方は少し改造したものだった。それが、ちょっと増えた。加えて魔詞ワードも使えるようになった。というのも、こちらに越してくる前に図書館に忍び込んで、需要がなくて死蔵されていたらしい屍術士ネクロマンサー関連の本を盗み出して来たんでね。

 完全に犯罪だが、まぁ逃げられちゃったからね。てか何なら気付かれすらしなかったからね。バレなきゃ犯罪じゃないとは良く言ったもの。


 最後に、これが一番大きいのだが、戦い方を変えた。というのも、前の戦場では屍術士ネクロマンサーを前面に出してたらえげつない嫌悪の視線を受けましたので。こっちでは基本的に剣を使って戦っている。

 ただ、ステータス吸収の魔法だけは相変わらず続けていた。その魔法のお陰で戦士的な戦いかたが出来てる面もあるしね。なんてったって、技術スキルのない自分にできるのは、ステータスによるゴリ押しだけ。一応長年戦場に入り浸って来た間、色々な人の剣技を見ては来たが、それも見稽古などと呼べる程のものではなかった。

 ということで、現在は脳筋ゴリ押し剣術。


 そして、先程言った魔詞ワードについてだが、実はステータス吸収の魔法が魔詞ワードで使えるようになった。そもそも魔陣シートタイプの魔法にすら存在しなかったステータス吸収だが、ふとした時に呟いた言葉で魔法が発動しまして。

 で、その魔詞ワードというのが「腐敗コラプト」というもの。まさかこれで発動するなんて想像もつきませんで。普通にびっくりしたのは良き思い出。


 基本的に効用は同じなのだが、なぜか死体が腐り落ちて消えるというおまけつき。死体の処理はしやすくなったが、戦闘しながらだと若干使いにくいのが悩みどころ。

 今のところは、魔族を殺してなるべく早く発動することで、戦士系の魔法のように見せているが、それがいつまで通用するかは分からない。一応、技術スキルやら魔法やらという戦闘系の情報に口を出すというのはご法度らしく、屍術士ネクロマンサーだとバレて見下されるなんてことが起こっていない現状、あまり口を挟まれることもなかった。


 まぁ、使いにくいことよりも戦闘中に「腐敗コラプト」なんて技名を言わなきゃならない小っ恥ずかしさの方が辛いんですけどね? どこの中二病かよって話だし。異世界に転移とか言うテンプレ過ぎる超常現象の後だから受け入れられるとか思ってたけど、自分で実演するとなるとやっぱり滅茶苦茶恥ずかしい。

 心が死ぬ。積み重なって行く黒歴史を感じる。


 ともかく、こちらの生活に馴染みつつあるのは事実。前の街での状況を思うと、此方の無関心の如何に心地の良いことか。

 泊っている場所も安宿ではあるものの、休む場所がないままに生活してた頃と比べるとかなり精神的には楽だしね。宿代がある分、金は貯まらないけど。


 山の合間の少し開けた場所────今自分が働いている戦場で、少し離れた場所で同業者が戦っているのを確認しながら、自分も魔族を捌いて行く。


 剣は血を浴び過ぎたのか、叩き付けても首が落とせない程切れ味が鈍って来た。毎日手入れはしてるし、定期的に買い替えてはいるんだけどねぇ。やっぱり武器のコンディションの維持って難しいよねぇ。

 大抵は面倒になって、途中から鈍器を振り回しているだけの人になってるし。それでもゴリ押しで殺せてるからまだ良いんでしょーが。


 まだまだ粗削りの剣ではあるものの、前よりはさまになった気がする。スマホとかないから、動画撮って確かめるとかも出来ないけど。


 魔法とか技術スキルとか、ファンタジー的なものはあるけど、全部戦闘系だからねぇ。本来だったら魔法でカメラの再現とか、いくらでもできそうなのにねぇ。生産系の職業ジョブとかもあれば良いのに。

 そしたら切れ味の鈍らない剣とか作って貰いたいんだけど。


 まぁ、無い物強請りでしかないか。

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