第3話 魔法陣

 さぁ、オッサンと別れたところで、夜の活動が始まる訳ですが。

 夜の活動と言っても、割と地味だったりはする。というのも、基本的にすることは二つしかありませんので。


 一つ目は、剣の扱いの練習。流石に一般高校生が急に剣を握ったところでちゃんと戦える訳がないのでね。貧弱な体でもどうにか敵に対抗するためにも、一旦剣を振る練習はしないとねっていう。


 二つ目は、魔物退治っすね。ただ此方に関しては、別に魔物が森の中にいた所で誰も困らないんで、依頼とかではなくただただ自分で勝手にやってるだけ。加えて別に戦う練習にもなる訳ではないため、屍術士ネクロマンサー的な仕事が主になる。

 つまりは、魔物を倒して、その死体からステータス吸収ですね。


 疲れた状態で戦闘には行きたくないので、取り敢えずは街の外へ。

 この世界の魔物ってのは、地球でのファンタジー的な要素は余りなく、ちょっと狂暴な野生動物程度だったりする。二足歩行で両腕をフル活用してくる魔族と違って、純粋に突進してくる程度なのは、普通にありがたい。何なら、近付いたところで襲い掛かって来ないことも多々あるからね。


 本当は罠とかを仕掛けて仕留めるってのも考えたんだが、何処かの誰かに下手な勘繰りとかを受けても面倒なので、あんまり跡が残るようなことはしていない。

 と言いつつ死体は残しているものの、普通に腐った動物のむくろ程度どこにでもあるのでね。あんま気にしなくてもいいかと。


 数十分歩き続けて、大体街から離れた場所にまで来る。この程度まで来ると、流石に人と出会うこともなくなる。

 ということでね、行きますか。魔物殺し。前の世界だったら完全に動物愛護なんたらでぶっ殺されそうだけど。こっちだったら別にどうだって良いんで。


 てことでウキウキでここまで来たけど、実はこっから先は虚無作業なんだよね。弓持って来てて、動物を遠くから狙って仕留めるだけだし。


 とは言え、獲物が見つかるのは二日に一匹とかだったりするので、やっぱり効率はあまり良くない。戦地で急いで付与する魔法陣よりも格段に質は良いために、一体一体の魔物からの吸収率は良いが、量ではやっぱり比べ物にはならず。

 まぁ、どっちもどっち。だったらどっちかに特化するでもなく、取り敢えずは両方しとくので良い気がしている。


 ここで少しこの世界の仕様の話をしておこうかと。


 まずは、職業ジョブについて。職業ジョブというのは、十五歳の成人と同時に与えられるものであって、”神からの授けもの”であると実しやかに言われている。 

 まぁ、普通に宗教として広まってる時点で『実しやかに語られている』どころじゃないけどね。


 で、その職業ジョブによって使えるようになるものが二つあって、それが魔法と技術スキル


 ただ、その魔法と技術スキルについても、あまりファンタジーっぽくはなかったりする。

 特に技術スキルに関しては、読んで字の如く、ただの”技術”。その技術スキルを持っているからと言って、直ぐに何かが出来るようになるわけではなく、そこまでの上達の道が何となく分かるだけ。


 分かりやすい話で言えば、割と一般的な技術スキルである剣技。戦士系の職業ジョブであれば持っている人が多いものであるが、これによって剣を振り回す際のコツが分かりやすく、上達が早くなる。

 あった方がありがたいものの、技術スキル持ちに一般人が絶対に敵わないかと言われればそう言ったこともなく。


 それに比べて理不尽感が強いのが魔法。というのも、職業ジョブによって魔法が使えるかどうかが決まっていて、直接戦闘系の職業ジョブでは魔法ですら使えない人たちが多かったり。身体強化系の魔法を使える人もいるけどね。


 で、更に魔法の中にも色々と区分があり、俺の場合は死霊魔法しか使えない等、使用できる魔法の種類も限られている。加えて、魔法には魔詞ワード魔陣シートのツータイプがあって、前者は感性、後者は技術。

 魔陣シートタイプの魔法は本とかで覚えられるのだが、魔詞ワードは、そのセリフを把握していたとしても実際に魔法が使えるかどうかは分からない。そこら辺は感覚の話になってくるのだと。

 レア職である屍術士ネクロマンサー魔詞ワードは勿論あまり知られておらず、自分が使えるものは一つもない。したがって、ちゃんと書けるようになった魔陣シートタイプの魔法二つを使い回し続けていた。


 と、やっとこさ鹿の群れを遠くに見つけた。音を立てないように草陰に隠れて、矢を番えて、そのまま放つ。矢継ぎ早に次を引いて、二の矢を放った。

 一つ目は上手く当たらなかったものの、二本目はその首元に刺さった。矢が刺さったまま逃げた鹿の後を追えば、数十メートルも進んだ先で倒れている。


 最初の頃は弓を引く力でさえ足りなくて苦労したのを覚えている。そう思うと、ステータス吸収の恩恵も割と受けてんでしょーね。あんま実感湧かないけど。

 そう、実はステータスを確認するためには教会に行かねばならず、俺はまだ確認したことがなかった。だから実際に自分のステータスがどうなっているのかは知らなかったり。屍術士ネクロマンサーが判明したのもステータス鑑定じゃなくて、偶然みたいなもんだったし。


 魔物の死体に近づいて、周囲の確認。先程の鹿の群れは、一体が倒されたことでちゃんと逃げ出していたので、この周囲にはもういない。魔物がいる気配もないし、安全は確保されたでしょう。

 一応魔物の死体を木の陰のところに引っ張って行き、一息つく。


 さぁ、じゃあ本業と行きましょうかね。


 記憶を辿りつつ、丁寧に魔法陣を施して行く。戦場では手書きで死体に色々と書き込んでいる暇はないので、元々用意してある簡易型の魔法陣を貼り付けるだけで対応しているのだが、今は魔力を込めたインクで、魔法陣用のペンを使って書き込んで行きます。

 やっぱりただ貼り付けただけの魔法陣よりも、実際に直接書き込んだものの方が魔力効率が良いし、色々と複雑なこともできるのでね。


 この魔法陣についても、もっとちゃんと研究されている職業ジョブなんかだと、新たな魔法陣が作り出されたりなんかもしている。

 だから、折角だし自分でも色々と理屈を調べてみたいなぁと思っていたり。現に、ステータス吸収の魔法陣は、普通は味方の強化に使うものなんだが、ちょっとだけ魔法陣を弄って自分に作用するようにしているのよね。今のところは本当にそのぐらいのちょっとした変化しか付けられないけど。


 書き終わった魔法陣を発動させる。魔力を流して、じんわりと発光した魔法陣が作用して、死体に残った生命力が吸い上げられ、更に死体の魔力が解けて、自分の体に流れ込んできた。


 このステータス吸収がどういう技術で実現しているのかは全く分からないんよねぇ。魔物は技術スキルとか魔法が使える訳でもないし、そこら辺を使って色々と向上させているってことはない。

 体力、筋力、瞬発力、魔力量、といった全般的な身体能力が向上するのは何でなんでしょうねぇ。ありがたいのは本当にありがたいんだけど。転生直後と比べたら格段に体丈夫になってるし。


 まぁ、この世界はファンタジーだし、身体能力はめちゃくちゃにピンキリだったりする。前線の雑兵だけで見ても、意味わからん規模の筋力をしてる戦士とか全然いるからね。

 前に見た時普通に剣を素手で引き千切っててびっくりしたよね。物理法則どこに行っちゃったんですかねぇ。

 ただ、自分は完全にバランス型だからねぇ。そこまでパワー特化とかの人には追い付けないかもしれない。個々の分野だけ見たら。


 とはいえ、筋力に関しては、リンゴを握り潰せるぐらいには強くなったし、体力もかなり増えて、一時間ぐらいだったら軽く走り続けられたりもする。魔力量は平均がどの程度か分からんのでどの程度上がっているかは分からないものの、少なくとも転生直後の数倍にはなっている。

 魔力は増えたところで、魔陣シートタイプの魔法は魔法陣作る時に魔力を主に使うから、あんまり戦闘中は関係なくなっちゃうんですけど。


 あー、強くなりてぇ。ってか死にたくねぇ。

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