第11話 四宮凛花視点

 私は堅苦しい家が苦手だった。母さんはユーモアがあり、楽しい人だったが父さんは寡黙で少し怖かった。そして、四宮家は姉妹で長女の紗由理は、運が良く大学で恋人ができた。


 紗由理姉の彼氏はよく我が家に来ていたが、母さんや私達を蔑んだり、我が物顔でソファーで座っていたり、全てが気持ち悪かった。


 今日は、母さんが買い物中で我が家には私と紗由理姉と.........クズが居た。



「おい、飲み物」

「分かったよ」



 紗由理姉がクズの命令で動いている事が何より嫌いだった。紗由理姉は笑顔で動いている事も私をイライラさせた。


「どうぞ」


「........」


 クズは携帯を見ながら飲み物を飲んでいたが、お礼すら言わない。台所で見ていた私は少しクズに言ってやろうと、したが、


「.....凛花どうしたの?」

「あの.......人、嫌い」


「.............こっちに来て」


 紗由理姉は私を別室に連れていき、焦った様な顔をしていた。そして、


「凛花...........邪魔しないで」


 初めて聞いた声だった。冷たく突き放した様な声だった。真剣な顔に私はただただ驚くしかなかった。男性は父さん以外に話したり一緒に居た事がないので、


「でも、父さんはあんなのじゃないよ」

「..............私は、彼が好きなの」

「でも、」


「おい、ティッシュ」


 紗由理姉はクズの大声を聞いてリビングに戻った。恋愛観は人それぞれだが、家族は違う。紗由理姉は幸せになってほしい、例え嫌われても、


「...............」


 違うよ。父さんは寡黙で怖いけど、私達を蔑んだりしないし、一緒に笑ってくれる。こんなクズを私は許せない。


「おい、何睨んでんだ」


 リビングに戻って台所で夕飯を作っていると、クズがソファーからこっちに向かって来た。怒鳴りながら言ってくるので、膝が震えたが、


「何ですか?」

「お前、俺の事睨んだろ?」

「別に」


 ..............パン、


 頬が痺れた。手で頬に触れたが少し熱かった。目の前には怒りを露わにしたクズが、もう一発ビンタしようとしていた。


「...........何、どうしたの!!」


 紗由理姉が飛んできて、クズに事情を聞いていたが、当然の様に自分の都合の良い様に喋っていた。そして、


「凛花!!!、謝って」


 初めて紗由理姉に怒られた。涙を流しながら怒られて何故か罪悪感が生まれた。何も悪くないのに、


「俺は寛大だ。土下座しろよ」

「...........」


 クズは私に土下座を命令してきたが、紗由理姉は何も言わずに立っていた。中学3年生である私は、大学生の紗由理姉を憧れていたが、今日で分かった。


「すいませんでした」


 私は膝を床に付けて、無の感情のまま頭も付けようとした時に、



 ガチャ........、


「.........ただいま」


 ドアが開く音がして、父さんの声が聞こえた。リビングに入って来たのも音で分かった。


「..........何をしている」

「ああ、コイツが俺に不快な思いをさえたから土下座を」



「.............出ていけ」

「え?」


「今すぐ我が家から出て行ってくれ」


 父さんが声を張り上げて怒っている声を初めて聞いた。生まれて聞いた事のない声だったので驚いたが、


「ここコイツの事ですよね」

「......ちょっと」


 クズは私の腕を掴んで外に出そうとしたが、父さんはクズの腕を掴んで、


「何故、娘を外に出す必要がある。これ以上我が家を汚さないでくれ」


 父さんはクズを引っ張って家から追い出した。紗由理姉はずっと無言だったが、絶望した様な顔だった。


「紗由理、すまん」


「.................」


 紗由理姉は泣きながら部屋に行った。父さんは悲しそうな顔をしながらリビングを出て行った。


「............あのクズのせいで」


 私の大切な家族がクズのせいで壊れてしまった。高校入学まで紗由理姉は父さんとは話さず、冷たい空間が我が家を漂っていた。


「凛花、明日から高校生ね」

「うん、でも........」

「紗由理は大丈夫、私達が居るから」


 母さんは大丈夫と言ってくれたが、父さんは.........ずっと紗由理姉に申し訳なさを感じている。それを生ませた私は、


「でも...」

「新山高校は寮生活だし、それに......男子も」


 元から新山高校が目標だったけど、それは男子と寮生活したい訳ではなく、私の行きたい大学に1番近い道だから、


「うん........大丈夫」

「凛花、もし........帰って来ても良いからね」

「うん」


 

 入学式は母さんと一緒に向かった。途中まで父さんが送迎してくれたが、紗由理姉とは何も会話せずじまいだった。


「体調崩さないようにな」

「うん、行ってきます」


 父さんは駐車場まで送ってくれて、私達は体育館に向かった。途中にカッコいい男子と綺麗な母親?を見かけたが、あのクズが脳裏に出てきてしまった。



「...........寝てる?」


 

 入学式が終わり寮に行き、部屋に入ったが、女子の同居人が寝ていた。それも会わずに女子の母親から聞いて、


 母さんと牧城さんが仲良く喋っていたが、私は緊張で座っているだけで精一杯だった。



 ガチャ、


「初めてまして有野志保です」



「有野洋です」



 優しい笑顔、頭を下げた挨拶、優しい声、それに駐車場で会ったカッコいい人だった。運命は以外に近かった。


 色々話して母さん達は部屋を出て行った。その際に母さんからある事を言われたが、それは勿論分かっている。けど、けど、


「(まだ、初日)」


 あのクズは有野洋君で消えそうになっていたが、まだ信じれない。これから本性を出す可能性もあるし、そうなったら私は壊れてしまう。


 そして、チャーハンを私が作り二人が美味しく食べてくれた。とても嬉しかった。有野君は私を喜ばす天才だった。



「四宮さんも観る?」

「え」


 有野君は牧城さんとアニメを観るらしく私を誘ってくれたが、アニメは見た事が無かったので、悩んでいたが、


「見るよ」

「え、でも」


 二人で楽しそうな空間を作っているのが、ズルかったので私も混ざった。結果として、物凄く良かった。



「(.......楽しい)」


 男子との生活は少し怖かったが今日1日で分かった事は、奈々未は少し天然でフワフワした子、洋君は頼りになるし優しくてカッコよくて私が家事などを当番制にしたいと言った時に快く受け入れてくれた。それにアニメを見ていて洋君が笑っている顔が可愛かった。それにそれに、一緒の空間に居て少しでも洋君が離れた時が............辛かった。


  

 だから...............、





「(絶対に洋君を............離さない)」



 

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