第10話 牧城奈々未視点

 何気ない家庭だった。父はおらず提供による妊娠で私が生まれた事は物心がついた辺りから分かった。ママは私を伸び伸び育ててくれた。


 ..........................


「奈々未ちゃん........起きて」


 休日、リビングで優雅な睡眠中にママが興奮した様に私を起こした。ママは1通の紙を大きく見せてきて、


「どどどどどどうしよう。奈々未ちゃんが」


 ママは涙と不安げな顔を組み込ませて私に抱きついてきた。紙には1ヶ月前に入試を行った新山高校の合格通知があり、ママはこれを喜んでいると、


「受かってよかった」

「でもでもでも、寮が........」


 合格通知の裏に青い紙が張り付いており、それをよく見ると、


「寮生活で男子あり」


「うんうんうん.........奈々未ちゃんおめでとう」


 ママが新山高校出身だったので私も受けたが、元より倍率もここら辺の高校で1番高いと分かっていたが、........まさか、男子付きだとは、


「これから忙しくなるわね」

「?」

「だって、洋服や化粧、料理、その他諸々を準備しなくちゃ」


 ママは直ぐ支度の準備して私を連れて家を出た。少し遠くのショッピングモールに行き私達は寮暮らしの為の準備をした。


 家に帰って来たのは夜だった。睡眠が至高の私はすぐにリビングに行き、ソファーに飛びついた。


「ママ......このソファー持っていきたい」

「ダメよ、ママのソファーだよ」


 私は渋々諦めて入学式までをゆっくりと過ごした。ママは日が近づくにつれて興奮気味になっていたが、私は何も感じなかった。男子と言っても、私は小中までは女子だけだったし、男子を感じられる事が無かったので、


 入学式前日に、


「ママ.....男子ってどんな感じ?」

「そうね、私はそんなに触れ合った事は無いけど.............人それぞれかな」

「答えになってないよ?」

「会えば分かるよ、それに私も寮で会うから楽しみだね」

「......、うん」


 

 入学式は人が多かった。緊張して眠れずウトウトしている人は大勢いたが、男子は一人も居なかった。入学式が普通に終わって私は睡魔からママと支えられながら素早く寮に向かった。


「奈々未ちゃん、起きて」

「ダメ」

「奈々未ちゃん、お願い」

「........」

「あ、」


 ママは誰か部屋に入って来たのでリビングに向かった。私は静かになったので眠りについた。





「ママ行くからね」


 ママの声が聞こえたので首をゆっくり縦に振り、別れを告げた。その数分後、リビングの方で話し声が聞こえたので、興味から、


「................」



「四宮凛花です」


 同居人の女子は少し硬そうだった。綺麗な女子だったけど、私を見て少し顔が怖かった。仲良くなれるかは別として、



「僕は有野洋です」


 初めて聞く男子の声に体が痺れた。後ろ姿だけしか見れないので顔はまだ分からないけど、声で私の眠気が一瞬にして消えた。


「あ..............誰?」


「..............お」


 有野君は私を見て驚いていた。私も驚いて後ろを向いた。知らない人だったので不躾な質問をしてしまった。けど、初めて分かった事がある。頬が段々熱くなるのが自分でも分かった。


 ああああああああああ.........好き、


 単純だった。声、顔を見ただけで好感度がMAXになってしまった。広告やテレビ番組で男性を偶に見るが、こんな感情は知らない。



「.......................牧城奈々未」

「僕は有野洋です」

「..........うん、分かった」



 私は運命を初めて感じた。そして、楽しい空間が私をドキドキさせた。アニメ鑑賞もご飯もとても楽しかった。少し違ったのは就寝時に、感じなかった寂しさを感じてしまった。


「洋洋洋..........会いたい」


 洋が居る壁を触りながら私は寝た。また明日会えると思って寝た。明日は私をいっぱい見てほしいからすぐに寝れた。




「牧城さん.......起きて」


 洋の優しいけど焦っている声が聞こえた。体がゆっくり揺れているけど、不快に感じなかった。ハンモックの様に睡眠欲が高まった。



「起きて.......お願い」


「抱っこ」


 試しに冗談を言った。抱っこなどしてくれないと分かっていたが、願望も加えてお願いした。だけど、


「分かったよ。ほら」


 洋は背中を見せてきたので、興奮しながら芋虫動きで綺麗な背中に向かった。初めて背中を触れて私の体はショートした。洋は気づいてないけど、私の胸がしっかり当たっている。


「(..............この唐変木)」




 洋は会って数日だけど、この人を逃したらもうチャンスは無いと理解した。でも逃す事は絶対にしない。これが私の全てだから、洋は私の..................、



「パートナーだから」


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