第8話 優先事項

 ホームルームが終わり、2限目前の休み時間に事件が起きてしまった。佐々木先生が教室を出て、女子数人が後方に歩いてきた。


 当然分かっていたが、僕達が座っている席の近くまで来て、


「有野君.........委員長関係で何かあったら言ってね」

「私は何でも言う事聞くから」

「手触ってもいいですか?」


「「..........離れて」」


 女子達が会話を広げようとした時に僕の両隣が冷たい声で女子を拒絶した。四宮さんは僕が牧城さんと二人で遊んでいる時以上に怒っており、牧城さんは寝起きより怖かった。


「でも....」

「もし、もしですよ、私達が洋君に捨てられたら近づくのも良いですけど、今は辞めて下さい」

「少しくらいなら」

「ダメ......洋はダメ」


 女子数人対四宮・牧城さんになっていたが、僕は二人を宥めて今日の所は女子達に「ごめん」と、言い帰ってもらった。


「二人ともクラスメイトだよ」

「「.........」」


 少し怒り気味に言ってしまった。僕は二人の顔を見て自分が言った事が間違っている事に気がついた。四宮さんはハンカチで涙を拭いており、牧城さんは無の表情で泣いていた。


「二人とも」


「...........洋君が洋君が私を.......見捨てた」

「...........................」


 泣いている二人の手を握って教室を出て、僕は人が少ない渡り廊下を見つけて、


「大丈夫?もしかして不快にさせたかな」


「だって洋君が私達よりクラスメイトを優先したもん」

「..............」


 四宮さんは少し泣き止んでくれたが、牧城さんはまだ無言で泣いている。側から見れば完全に僕が泣かした様に見える。実際、理由は分かっていないが、僕が泣かしてしまった事は......決まっていた。



「洋君は私達を捨てて.......」


 四宮さんは言葉の途中で口を塞ぎ、また泣いた。今度は絶望に堕とされた様な顔だった。牧城さんはそれを見て僕に近づき、


「私は鈍臭くて寝坊ばっかりして可愛くないけど洋を誰かに渡したくないし、離したくない」

「うんうんうんうん」


 二人は共鳴した様に頷いていた。もしかして僕が二人にクラスメイトとも仲良くした方が良いよ?が、クラスメイトに優しくしている風に聞こえてしまったのか、


「....大丈夫、さっきも言ったけど3年間一緒に頑張ろうね」


「「.............うん」」


 二人から涙のハグを受けた、そして授業には遅れてしまった。佐々木先生には相当弄られたが、二人が笑顔に戻ってくれたので取り敢えず良かった。



 授業は普通に終えて昼休みになったが、初日はこれで授業が終わりなので、僕達はクラスメイトと別れを告げて教室を出た。

 僕は食堂に行ってみたいと言ったが、すぐに却下されて、部屋でご飯を食べる事にした。


 冷蔵庫には食料が1日分しかないので困っていたが、今日のホームルームで佐々木先生が「生活費は今日から月々に学校専用の部屋別口座に入れておくから」と、言っていたので、教えてもらった場所に行くと、



「「小林様....今日は何食べますか?」」

「西条さん落ち着いてください」


「「どっちですか!!!」」


 学校専用の口座窓口に着くと、小林君と女子二人が少し揉めていた。


「.....あ、有野君」


 小林君兼問題が近づいてきた。小林君は走って来ているが、それに連れて後ろの二人も走ってきた。それも怒り気味で、



「有野君も生活費貰いにきたの?」

「ああ」

「あそこに居る係の人に聞いたら貰えるよ」

「ありがとう、助かったよ」

「ううん」


 小林君は優しく言ってくれたが、横に張り紙で書いているので分かっては、いた。でも嬉しそうに言ってくる小林君の笑顔の前では言えなかった。


「洋、横の紙に書いてる」


 言ってしまった。牧城さんは生活費をどう受け取るかを書いてある張り紙を指差して笑顔で僕に言ってきた。それに気づいた小林君は少し顔を赤くしていたが、



「「小林様大丈夫ですか??」」


 二人のお姉さんが近いて手で小林君の赤い顔を冷ましていた。僕達には見向きもせずに小林君を見ているので、小林君も苦労しているんだなと感じていると、


「.....有野君、二人と知らないよね」

「そうだね」


「こちらは双子で右目の下にホクロがあるのが、西条カレンさん。左目の下にホクロがあるのが、西条ニーナさんだよ。二人ともハーフだよ」

「「宜しくお願いします」」


「「「こちらこそ」」」


 西条さんを初めて見た時は双子かなと思っていたが、予想は当たっていた。綺麗なお姉さんでありスタイルも魔王級だったので、


「「.......何見てるの?」」


 僕は四宮さんと牧城さんに両手を引っ張られながら学校専用口座に向かった。多分、怒っている。二人とも途中から僕しか見てなかったし、


「小林君またね」

「うん、有野君も頑張ってね」


 後ろを見ながら別れを告げると、小林君も西条さん達に縛られて去って行った。


「「生活費お願いします」」


「名前、学年、部屋番号をお願いします」


 部屋の中で係のお姉さんが待っており、僕達は名前などを言って、生活費の15万円から3万を受け取った。


「頑張ってくださいね」


「「「ありがとうございます」」」



 僕達は部屋を出てスーパーに向かった。新山高校から近いスーパーは何軒かあるので、携帯の地図を見て行く事にした。

 

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