第一二話 どうやら上手くいったらしい


 二週目以降、特殊な条件を満たした際に攻略が可能となる隠しヒロイン。


 ルドミラ・フォルン・ド・シュバインとはそういうキャラクターであった。


 敵情視察のために里へ自ら潜入後、ゼロスにあっさりと見破られ、捕縛。

 それが切っ掛けとなって、里の面々と交流を持つようになり、最終的には味方となる。


 軍リベの結末はおよそ、ルドミラの手引きによって帝都へ入り込んだゼロスが、正面切って無双し、皇帝ゴームを一瞬にして斬り伏せるというものだが……


 ルドミラ・ルートのときだけ、シナリオが大きく異なってくる。


 彼女のシナリオは例えて言うならロミジュリといったところか。


 敵対している者同士の間に芽生えた禁断の愛。

 許されざるそれが成就するか否か。


 そんなラブロマンスだけでなく、ゼロスがあずかり知らぬところでルドミラが命の危機に直面し、あわや……といったスリリングな展開も用意されており、読み物としては正直、全てのルートの中で一番好きなシナリオだった。


 いや、まぁ、俺の感想とかはどうでもいいことではあるのだけど。


 とにかく。

 ルドミラ・ルートのシナリオにおいては、終盤の展開内容が大きく異なってくる。


 他のルートではゼロスがゴームを殺すのだが、ルドミラ・ルートでは彼女が手を下すのだ。


 そう、暗殺という形で。


 一応、彼女は専用ルート以外の場合においてもゴームの暗殺を計画しており、それを実行に移すのだが、最終的には捕縛されて窮地に陥ってしまう。


 だが専用ルートにおいてはその企てが見事に成功し、ゼロスは帝都に潜り込むことなく、アルデミアの里にてルドミラと再会。


 そして二人は夫婦となり、仲睦まじく暮らしましたとさ、的なハッピーエンドを迎えるのだった。

 めでたしめでたし。


 ……まぁ、それで、だ。


 俺は彼女を上手く利用すれば、ゴームを暗殺出来るのではないかと考えた。


 だからあえて捕縛するようなことはせず、こちらの手の内を明かしたのだ。


 ルドミラはイリアほどじゃないが魔法の天才という設定がある。

 だからイリアが出来たように、彼女もまた酸素濃度のコントロールが可能なのではないかと、そのように推測した。


 まぁ、もし出来なかったとしても、彼女の配下の中に一人でも実行可能な者が居たなら……


 きっと、計画は上手くいく。


 ……とはいえ。

 これは半ば希望的観測でしかない。


 よってルドミラの暗殺計画が成功することを前提として動くのは、まさに愚の骨頂。


 彼女が失敗したときのために、俺達は軍備を整えねばならない。


 そう。

 一〇〇万の軍勢に大打撃を与え、およそ一〇万の敵兵を屠るという無理難題。

 これを成し遂げるための、新たな力を、獲得するのだ。


 ――そして現在。


 太陽が昇ってからしばらく経ち、皆が活き活きと仕事をしている中。

 俺は里の外へと足を運んだ。


 里を守る堅牢な壁の向こうには、ネフィルが急遽建造した鍛冶工房がある。

 なぜ外にそんなものを設けたのかといえば……


 造ってもらいたいものが極めて巨大であるため、里の中では製作が困難だと判断したからだ。


「おはよう、ネフィルさん。作業進捗を見に来たんだけど」


「おうカズマ! 進捗については……まぁ、その……ボチボチってとこじゃのう」


 いつもならデッカい乳を張って、得意げな笑みを浮かべるところだが、さしものネフィルも苦戦しているらしい。


「構造自体は簡単じゃし、やってやれぬことは絶対にない。じゃが……」


「材料不足、か」


 俺は工房の傍に配置された、完成済みのパーツを目にする。


 極めて長大なは、まさにこの兵器の生命線。


 一本は完成しているようだが、もう一本は。


「イリアやマリアさんが、方々を駆けずり回ってる。だからきっと、材料不足も解決するんじゃないかな」


「うむ。ウチもそこは疑っとらんよ。ただ……」


 俺と同じようにレールへ目をやると、ネフィルは眉間に皺を寄せて呟いた。


「カズマの言葉じゃし、きっと間違いなどないのじゃろうけど」


「あ~……やっぱ、信じがたいか」


「正直に言ってしまえば、のう。少なくともウチには想像も出来んよ。お前が教えてくれたこの兵器の威力は……あまりにも、凄すぎる」


 ちょっと良くない傾向だな。

 彼女が信じ切ってくれないと、そもそもガワの段階で全部が破綻する。


 ……まぁ、かくいう俺も、成功するかどうかは賭けだと思っちゃいるんだけどね。


 けど高確率で勝てるものと踏んでいる。


 そうしたなら。


 この……は。


 きっと俺達にとっての、救世主になるだろう。



 ――――だが。



「む? 何か、遠方からやって来る、のう」


 そのとき。

 俺とネフィルの目に映った、人物が。

 胸の内にあった一抹の不安を、取り除いてくれた。


「……ずいぶんと大胆な奴じゃの。単騎でやってくるとは」


 警戒心を露わにするネフィル。

 その一方で、俺はというと。


「いや。アレは敵じゃないよ、ネフィルさん」


 こちらの目でも確認出来るほど、相手が接近してきたところで。

 喜悦の情を、口元に浮かべる。


「む。カ、カズマ? な、なぜ笑っておるのじゃ?」


「はは。これが、笑わずにいられますか」


 こっちとは別の場所で賭けていた、大博打。

 来訪者はその成功を証明するものだろう。


 果たして。

 単独で里へやって来たのは。


 ――ルドミラ・フォルン・ド・シュバイン、その人であった。





 ~~~~あとがき&お願い~~~~


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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