閑話 解を得たなら、後は――


 あまりにも恐ろしい。


 今、ルドミラ・フォルン・ド・シュバインは、心の底から打ち震えていた。


 アルデミアの里を脱し、自領へ帰還してからすぐ。

 彼女は屋敷の自室に側近たるヴァイスを呼びつけ、情報共有を行った。


「アルデミアが抱えた、不可能を可能にする何か……」


「こちらの想定を、遙かに超えた存在でありましたな」


 詳細を掴むところまではいかなかった。


 かの人物がどこから来たのか。

 なぜアルデミアに与しているのか。


 何もかも判然としないままに、ルドミラは里を出た。


 もはや十分に、理解したからだ。

 アレを抱えている以上、アルデミアとは決して、ことを構えてはならない、と。


「ゴームの馬鹿はとんでもない奴に喧嘩を売ったようね……」


「えぇ。お聞きした内容が真実であるならば……スギタ・カズマという人物はあまりにも危険過ぎる。ゴームもろとも、帝国を滅ぼしかねないほどに」


 ルドミラは首肯を返した。


 だが、その表情に危機感はない。


 なぜならば。


「……幸運にも、彼はゴームみたいにイカレてるわけじゃない。むしろ誰よりも理知的な人物に見えた。……ちゃんと下手に出て、然るべき作法を守れば、交渉は可能だと思う」


「ある意味、それが此度の潜入における、何よりの成果であると言えましょうな」


 無論、主目的を忘れたわけではない。


 ゴーム暗殺という無理難題を可能とするヒント。これを得るために、ルドミラは自ら敵地へ潜入したのだ。


 そしてそれは、完璧な形で手に入った。


「ところで、ヴァイス。……私が言ったこと、理解出来た?」


「魔法の可能性、ですな?」


 首肯を返す。


 和馬は会議の最中、さまざまな知識を述べたうえで……


 わざと、手の内を晒してきた。


「リスウケイの知識を、風の魔法に適用する。その効力を十全に発揮出来たなら」


「えぇ。あのウラヌスとて、為す術なく沈むことになるでしょうな」


 常々、ゴームの傍に侍る、帝国最強の戦士。

 これを討てるのなら、もはや自動的に。


「ゴームの暗殺は、成る……!」


 ルドミラは再び、全身をわなわなと震わせた。


「まったく、こっちからしてみれば、値千金の情報だっていうのに……」


「相手方からすると、そんな情報すらも些末なものでしかない、と。……考えれば考えるほどに、恐ろしさが増していきますな」


 かの名将・マリケスが敗れるわけだ。


 今、アルデミアの里は世界最強の勢力へ変じている。


 杉田和馬という、謎の人物の手によって。


「……仕事は、早ければ早いほどいい。そうよね? ヴァイス」


「は。準備は既に、整っております」


「じゃあ、数日以内に実行して……その次は」


 脳裏に彼の姿を思い浮かべる。


 下手に扱えば帝国史上、最悪の敵となるであろう、その男。

 しかし、扱いを間違えなければ……


 帝国をかつてなく繁栄させるであろう、その男。


 杉田和馬の姿を想いながら、ルドミラは嘆息した。


「――ゴームの暗殺よりも、和平交渉の方が難しい問題になるとは、ね」





 ~~~~あとがき&お願い~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!

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 そうでなかった方も、お手数ですが、☆の方、

 入れていただけましたら幸いです……

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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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