第三話 知識無双の「形式」について


 理数系の知識を用いて、異世界無双。

 果たしてそれは可能であるか否か。


 俺、杉田和馬はこう考える。


 おおよその場合において


 しかし、においては


 もし、この世界でのそれが前者だったなら詰み。

 後者なら……やりようによっては、ワンチャンスがある。


 帝国軍総戦力一〇〇万VS里の戦闘員三〇〇。


 赤ん坊が素手で戦車に挑むようなもんだな。


 そんな無謀すぎる戦いを勝利に導くため。

 俺はシャーロットの自宅にて、ヒロインズを交えての作戦会議に臨んでいる。


 円卓を囲み、木造の椅子……というか、丸太をちょうど良いサイズに切っただけのものに腰を落ち着けつつ、俺は口を開いた。


「口頭説明だけでは伝わらないだろうから、とりあえず設計図を描きたいんだけど」


「承知いたしました。書く物をすぐに用意いたしますわ」


 それが手元にやって来る間の時間を利用して、俺は次の言葉を放った。


「事前に、言っておきたいことがあるんだけど、さ。俺はこの里の状況だとか、世界の状況だとか、おおよそを把握してる。けどそれがなぜなのか、説明は省かせてもらいたい。異世界からの来訪者が持つ特権か何かだと理解してほしい」


 説明がね、面倒なんだよね。


 君達はエロゲのヒロインで、俺は原作やってるから色々知ってるんだよ、とか言っても伝わらないだろうし。


「うむ」


「気にはなるところですが……その説明をしてもらう時間さえ、今は惜しい」


 異議がないことを確認した頃、シャーロットが皮紙と羽根ペンを持参じて戻ってきた。


 俺はそこに設計図を描きつつ、


「今回、主に働いてもらうのは、リーナさん、貴女だ」


「おう! なんでも作ってやっから、任せとけ!」


 このやり取りに、ある人物がむくれた調子で声を上げた。


「リーナばっかりズルいのじゃ! ウチも異世界人のヘンテコ道具を作りたいっ!」


 愛らしい音色を響かせたのは、ドワーフ族の美女(ロリ巨乳)である、ネフィル・ガント。

 

 彼女はリーナと並ぶ、二大チート職人の一人、なのだが。


「え~っと。今回はその……木造の兵器が多くて。だからあんまり、ネフィルさんの出番はないかなぁ~、と」


「なんじゃとぉ~~~~っ!?」


 ぷんすかと怒る、可愛らしいドワーフ。


 見た目はマジで、ただの美幼女(ロリ巨乳)なんだけど……この人、マジでチート職人なんだよな。


 リーナと同様、原作主人公・ゼロスの引き立て役にならなかった……だけでなく、ルートによっては彼の命を救ってすらいる。


 よくよく思い返してみると、ヒロインズよりもよほど活躍してるぞ、この職人達。


 ……まぁ、それはゼロスが戦闘面においてなんでもアリのバケモンだったから、だけど。


 あいつが居ない以上、少なくともイリアとマリアには大きな役割が与えられることになるだろうな。


 前者は里一番の魔導士で、後者は里の戦士長。


 戦闘面においては、この二人を頼ることになる。


 一方、里長であるシャーロットについては……悪いけど、ぜんぜん役割が見当たらない。


 原作においても性的な活躍以外、なんの見せ場もなかったんだよな、この人。


 ……まぁ、それはさておいて。


「リーナさんに製作してもらうのは、さっきのはね釣瓶と同じく、てこの原理をもとに考案された兵器、なんだけど……設計図、こんなもんで伝わるかな?」


「ほぉ~ん…………なぁ~るほど、魔石使わねぇと無理って思ってたけど……ふんふん……こりゃあ、お前…………すっげぇなッ! 今すぐ造ってくるわッ!」


 こっちの返事も聞かずに、リーナは出て行ってしまった。


「え~……とりあえず、シャーロットさん、ちょっと聞きたいんだけど」


「なんなりと」


「この里では、作物の栽培に肥料を使ってるよね? その中に混ぜ物とか、してないかな?」


「混ぜ物、ですか?」


「うん。なんというか、こう……半透明な、石っぽいやつ」


「あぁ、それでしたら、はい。昔から混ぜてますね。作物が良く育つとのことで」


 よし。

 じゃあ後は。


「確か……近くに火山があったと、記憶してるんだけど」


 イリアが首肯を返した。


「はい。とはいえ、そこに近付くことは出来ません」


「うむ。そこへ赴くには、帝国が設けた砦を経由する必要があるからな」


 同調したマリアに問うてみる。


「砦の戦力が、こちらを完全に上回ってるってこと?」


「いや。総力を挙げてかかれば、僅差で勝てるはずだ」


 それでも渋るような顔をしているのは、犠牲者が多く出ることを危惧してのことだろう。


 実のところ……砦にそれなりの戦力が集結していること自体は、把握していた。


 何せ原作には、とあるアイテムを回収するために火山へと赴く道中、砦を制圧するといったエピソードがあったからな。


 ただし里の総力を挙げたわけじゃない。


 主人公のゼロスが単独で、それも舐めプしながら無双し、あっさりと殲滅って感じだった。


 ゆえに砦の戦力がどれぐらいのものだったのか、そうした情報はプレイヤーに開示されていなかったのだ。


「何を欲しているのかは知らんが、それを得るために戦力の大半を失ってしまったら元も子もなかろう」


 暗に諦めろと言ってくるマリア。

 これに対し、俺は次の言葉を返した。


「そうだな。……ちょっとした実験を行って、それが失敗したら、諦めよう」


「実験、だと?」


「あぁ。……イリア、君は里一番の魔導士だと記憶してるんだけど、間違いないかな?」


「ふふん。その通りです。わたし、最強なのです」


 知的でクールな美貌を笑ませながら、どやぁっと大きな胸を張ってみせる。


 やばい。

 俺の推し、めっちゃ可愛い。


「えっと……じゃあ、さ。魔法に関しての質問、なんだけど」


「はい。なんでもどうぞ。たちどころに答えて差し上げますとも」


 どやどやどやぁっと豊満な胸を張る。


 可愛いしエロい。

 やはりイリアは素晴らしい推しキャラである。


「……魔法とは発動者のイメージを現実に反映するものだと、そんなふうに記憶してるんだけど。これも、間違いないかな?」


「その通りです。さすが異世界人。実に博識ですね」


 ……やはり原作と同じ、か。


 軍リベというゲームはキャラクターやシナリオに力を入れている反面、設定まわりについては正直、なおざりだった。


 特に魔法関連。


 作品によっては「設定資料集かよ」と突っ込みたくなるような作り込みを見せるようなモノもあるが、軍リベは極端にシンプルな説明で済ませている。


 それが、先ほどイリアに問うた内容。


 発動者のイメージを現実に反映する。


 たったこれだけの内容しか、プレイヤーには開示されてはいなかった。


 人によっては物足りないと感じるであろう、設定まわり。

 だが、そうだからこそ。


 俺はそこに、活路を見出しているのだ。


「イリア。君にちょっとした理数系の知識を教えたいんだけど、いいかな?」


「はぁ。かまいませんが」


「これは、そう、なんだけど――」


 口にした内容を総じて、イリアはよく理解したらしい。


「……まさか、そのような仕組みがあったとは」


 顎に手を当て、ぶつぶつと呟く。


 そんなイリアの姿を前に、マリアは首を傾げ、


「スギタ殿。なにゆえ突然、かようなことを?」


「うん、ちょっと試したいことがあってね。それで、あ~、悪いんだけど……マリアさん、貴女に実験の手伝いをしてもらいたいんだ」


「ふむ。先ほど述べていたやつか。いったい、なんだというのだ?」


「さっきイリアに教えたこと。アレが無駄だったのか否か、それを確かめたい」


 その後。

 俺はある実験を行ったことで、一つの仮説を打ち立てるに至った。


 それはまだ確証のない、仮説の域を出ないものだったが……


 そんな段階においても、確実に断言出来ることがある。


「ごめん、マリアさん。でも、貴女が協力してくれたおかげでわかったよ。この世界の魔法は……あまりにも、自由度が高いってことが」


 件の実験により、マリアに謝罪してから、俺はイリアへと言葉を紡いだ。


「砦について、だけど。やっぱり君に出向いてもらいたいと思う」


 里の総力を挙げ、相応の犠牲を払わねば、件の砦は攻略出来ないという。

 それもこれも、チート主人公が居ないからだ。


 であれば。


 チート主人公に代わる、最強の戦士を作ってしまえばいい。


「イリア。俺の知識を得て、魔法の可能性を一段階、押し上げた君なら……かなり少数の手勢で砦を落とせるんじゃないか?」


 この問いに対して、イリアはこう答えた。


「いいえ。それはちょっと、違いますね」


 この言葉は、悲観を表すものではない。


 むしろ真逆。


 イリアは今、絶大な自信を発露させていた。


「少数の手勢では、ありません」


 そうして彼女は口にする。


 その自信を、言葉で表現するように。


「――――件の砦は、わたしが単独で破ってみせましょう」






 ~~~~あとがき&お願い~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!

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 そうでなかった方も、お手数ですが、☆の方、

 入れていただけましたら幸いです……

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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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