2話目 Holy Shit!
"どの扉を開けても便器にうんこが飛び散っている、最後に掃除をしたのは一体いつなんだよと叫びたくなるほど汚いトイレ。もしあなたがそんなトイレに足を踏み入れてしまった時は、たとえ今にも決壊しそうな殺人的便意から解放されたいとしても、すぐに立ち去り、とにかく人のいるスーパーとかコンビニのトイレを借りてほしい。ダイベン・キラーの縄張りである可能性が高いからだ。単なる流し忘れではなく「流せなくなった」のではないか、清掃を怠ったのではなく「清掃ができなくなった」のではないかと常識を疑うことが大事だ。"
うんこと会話ができる女・べギー著
「ダイベン・キラー」より引用
*
兄は近所にある公園の砂場で倒れていた。
大便まみれの茶色い体に砂がまとわりついた姿は、まるで人の形をしたゴールデンチョコレートのようだった。
私は公園の入り口でへたりこみ、もうそれ以上近付くことができなかった。
「オェッ…、お兄ちゃん…やだ…」
「モモ…?」
視界は大便に覆われて何も見えていないだろう。
かろうじて開いた口からは、ボトリと糞が吐き出て、続け様に小さなハエのようなものまで飛んだ。
「最後までばっちくて、ごめんな…」
「ヒグッ…お兄ちゃん…」
パーカーの裾で濡れた顔を拭う。兄の脂臭いパーカーが今はとても良い匂いだと思った。
「検便とるの忘れてたんだよ、バイトに出すやつ、ばかだよな、きたねえトイレはダメだって…クソ…、けどこれもウン命か…ゴホゴホ」
「お兄ちゃん!!」
「あのクソ野郎、俺のすべてを奪ったつもりか…?モモ、これを…」
何か小さなものを放り投げられて、私は反射的にそれを掴んだ。
「これって……」
「俺の、Holy Shit(聖なるクソ)…!」
男は愛する妹に検便を遺して…、亡くなった。
*
「あの、すいません、トイレ借りても良いですか?」
頷くと、男性はぺこぺこ頭を下げて歩いて行った。
最近は例の事件のこともあり誰にでも積極的にトイレを開放するように、と上からの指示だけど、彼は常連さん。
ここ"スーパーセンター トライアナル"で昼12時に出来上がる焼きいもを毎日買いに来てくれる人。
ずらっと並んだ紙袋の隙間から芋をひとつひとつ覗いて、一番大きくて蜜の溢れた上玉をレジに持ってくる。
"上大尻タクシー"と胸元に小さな刺繍が施された襟付きのシャツを着ていて、いつも少し申し訳なさそうに一万円札をトレイに載せる。
毎日来るけど、毎日「初めて来ました」って感じのよそよそしい態度なので、とくに話したことはない。
偏食家で美食家、謎多きタクシードライバーおいもくん。
10分ほどして戻ってきたおいもくんは、焼き芋機の前を素通りしてレジにまっすぐ向かってきた。
シリアスなおももちのおいもくんが私に話しかける。
「すいません、ほんと申し訳ないんですけど、うんこトイレ詰まらせちゃって、スッポン貸してもらえませんか?」
予想外の展開に思わず吹き出してしまった。
これが彼と私の美しくない馴れ初め。
「おいもくん、今日来ないな…」
3話に続く…💩
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます