どろっぴん!
@droppin
1話目 はじまり
私の名前はモモ。
その日は夏休みのはじまりで、昼過ぎに起きた私は寝癖をつけたままバイトに行くお兄ちゃんをにこやかに送り出した。
誰もいないホーム・スウィート・ホームを満喫するはずが、まさかこんなことになるなんて。
*
「ほいじゃモモさん、自宅警備よろしくー」
「はいはいお兄ちゃんトットトいってらっしゃい。また遅刻すんぞ」
鍵が閉まる。よく忘れ物を取りに戻ってくるが…、10秒、20秒……、今日は全部持って出たようだ。
「サマーーーバケイションッ!!」
ソファから飛び起きて、しばし家を駆け回り反復横跳びをしたりスキップしていたらお腹がグルグル鳴ったので正気に戻りキッチンを漁る。私の中にこんな野性が秘めていたなんて…、夏休みって最高!
お、今日はこれでいいや。ずっとそこにあったけど、いつからそこにあったのかよく分からないカレーヌードルを手に取る。
ビニールをうっすら覆う埃を払い、ビーッと破いたら、蓋を半分まで開けて兄がココアを作った余りのお湯を注ぎ入れた。線のとこ、ぴったりでポットが空になった。
待ち遠しい3分が近付く。蓋の隙間から漏れ出るカレー味の湯気を吸い込んでいると、
「ピンポーン」
チャイムが鳴った。
誰だろう…、めんどいし居留守しちゃろうか。気配を消そうと身を屈めながら外に視線をやると、レースカーテン越しに訪問者のシルエットが分かった。その人は、同じ地区に住んでいる2コ上のマナカ先輩だった。
どういうこと!?駆け足で玄関へ向かいながら自分の格好が無様なことに気付いて踵を返し、よれよれのTシャツと毛玉だらけのパンティを隠すため咄嗟に床に丸まっていた兄の大きいパーカーを被る。脂くっせぇ!
気を取り直して玄関に走り、扉を開けた。
「モモちゃん…」
一目見て異変を察した。マナカ先輩はとても怯えた顔をしていた。そして真夏のグラウンドにいる時も柔らかでサラサラなびいていた長い髪は、汗で顔のいたるところにはりつき、呼吸はペースが乱れて荒い。先輩、先輩どうしたの?何かただごとではない、良くないことを今から知らされるのではないか。
夢の中にいるような、現実が曖昧になる感じがした。てかなんかうんこクッサ…。
「一体どうし…」被せて先輩が言う
「モモちゃん、お兄さんがやられた」
「どういうこ…」また被せて先輩が言う
「"ビッグ・便"に…」
*
連続殺人鬼"ビッグ・便"
まるで岩のような巨体は目撃情報によると3mを超えていて、マジで岩肌のような肌はでこぼこしていてマジで岩肌のような肌なのだという。
なんといっても一番の特徴は体臭。ものすごく人のうんこ臭いのだ。
このゲキクサ殺人鬼が現れたのは今から半年前。
"田舎町で大便まみれの変死体見つかる"という生々しい見出しは世間を震撼させた。この事件を担当した解剖医の証言がまた奇妙で、彼らの腸内は綺麗さっぱり何もなく空洞だったと語っている。
金目のものには目もくれず、どういうトリックを使っているのか分からないが便だけを全部抜く変態的シリアルキラー"ビッグ・便"の犠牲者は、この半年で15名はくだらない。
次の標的になることを恐れた人々は、消臭剤、芳香剤、香水といったいい匂い系の商品を買い占めてたちまちどこの店も連日品切れになった。
*
モモは矢の如く走り出た。
お兄ちゃん、あなたは3日おきにしか風呂に入らない。
お兄ちゃん、あなたの一本糞はスイートコーンみたいにデカくてよくトイレの水を溢れさせる。
お兄ちゃん、私が授業中に我慢できずおならを出して恥ずかしさのあまり学校に行けなくなった時、あなたは平日の真昼間に家でスマホをいじる妹の存在をちっとも不思議がらないで
「これ、多分当たりだわ」
と、"準新作"シールが貼られた得体の知れないホラー映画のDVDをチラつかせた。
私たちはテレビの前に腰かけ、再生する。…画面揺れがひどく、音声は風を拾いまくってボワボワうるさい。字幕の感じが普通の映画と違くて、なんか読みにくい。英語が分からない私でも棒読みだと分かるやる気のない役者。
「これ本当に準新作?なんか古くね?」
「いや、制作は10年前とからしい。10年越しに日本にやってくるなんてすげーね」
1時間ちょっとで映画は終わった。短いスタッフロールが流れた後、兄はレビュー書くといってノートパソコンを開いて黙ったので私は部屋に帰った。ベッドの上に横たわり、今見たものを思い返した。そしてそのままいつの間にか寝ていた。ぐっすり寝たのは久々だった。
家族がクソにまみれて死ぬなんてありえない。クソ映画じゃあるまいし。これは現実なんだ。
たまたま鳥の群れが一斉にフンをして、偶然その下にいたとか、そういうおもしろハプニングじゃないの?
だんだん臭いが強くなる。
クソクソ、クソが…。これは人のクソの臭いだ。
2話に続く…💩
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます