第6話 晩酌
ドライブインに軽快な笑い声がこだました。
「っはっはっは!それで?」
「その後、逢坂さんは『まぁ、慣れっ子ですから。でもこうして謝ってきてくれたのは竹中君が始めてですよ』って僕の肩を叩いたあと報告に行っちゃいました」
僕は今、逢坂さんに謝罪をした後、慰問会と称して柊さんにドライブインへと連れて来られて居た。
「そっかぁ、まぁ逢坂さんはそういう人だからね~」
いつものように猫撫で声であっけらかんと喋る柊さんはいつもより何故だか上機嫌に見えた。
それはビールのせいだろうか、それとも一仕事終えた達成感だろうか。
何にせよ僕には窺い知れなかった。
「いやぁ~、それにしても配置早々翌日に襲撃とは竹中君もついてないね~」
「ほっといて下さいよ... ただでさえやらかしてしまって、申し訳なさから胸が張り裂けそうなんですから」
僕は謝り、竹中さんに許して貰った後、改めて神南司令の元へと向かったが、お咎め無しだった。
せめて何かしらの罰が欲しかった。
自分の中で自分の力だけで区切りをつけるのは苦手だ。
だから、何かしらの形を取ることで初めて次へと歩を進める事が出来る、そんなたちだった。
本来、処罰がない事は喜ぶべきなのかもしれないが僕の心は晴れずに居た。
「まぁ、その気持ちも分かるけどさ~、いっちゃなんだけど自分が悪いのはわかってるんでしょ?だから謝った訳だし、処罰も無かった分、私のサンドバッグになってよ」
柊さんは目を細めニヤニヤとしながら、いたずらっぽくいった。
「それはもう、いっそボコボコにしてください。そっちのほうが気が晴れるかも」
「なにそれ~、なんかそう真面目に受け取られると調子狂うなぁ~...」
そういって柊さんはため息を吐いたあと、僕の隣へと座ってきた。
突然距離を詰められた僕は内心驚きながらも、ただガックリとうなだれるしか無かった。
それを見かねてか柊さんが僕の肩をバシバシと叩く。
華奢な見た目だが、流石というべきか結構衝撃が大きい。
「もー、しゃきっとしなよ~!」
そういって僕の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
僕はなんだか恥ずかしくなってしまった。
「柊さん、ちょっと飲みすぎなんじゃないですか?」
「んぇ~、そうかな~?でも私は明日非番だからねー、どっかの誰かさんとは違って飲み過ぎて朝帰りとかしても問題ないもん!」
痛いところを的確に突いたと思えば、ウィスキーをぐいっとあおって僕の顔をじっと見つめる。
すると何かを思い出したかのように目を見開いて笑顔になった。
「そうだ!竹中君の下の名前教えてよ」
やはり顔が紅い。酔っているのだ。
はぁ、とため息を吐いて僕は答える。
「
「へー!ヘイゾー君か!なんだかかわいいね~!よしよししてあげよ~」
といってまた性懲りもなく頭を撫でてくる柊さん。
正直こういう場合の対処を知らないので困りものだ。
「柊さん、やっぱり酔ってらっしゃいますよね」
「そんなことないってば!」
「そんなことありますよ...誰彼構わずこんなことしたら勘違いされますよ?全く...ほら、今日は帰りましょう」
「そんなぁー!」
ブーブー言いながら頬を膨らませる柊さんを余所にウエイターさんを呼んで会計する。
「ほら、会計を済ませちゃいましたし迷惑になると申し訳ないですから行きますよ」
「もー少しくらいいいじゃん!」
「ほら、立った立った」
そういって僕は柊さんを強引に立たせてドライブインを後にする。
「マスター、世話になりました!」
「いいってことよ、また宜しくな」
そんな声を聞きながら僕は車の助手席に柊さんを押し込んで、エンジンをかけた。
「もーすこしくらい付き合ってくれてもいいじゃん...」
「いつまで言ってるんですか、さ、行きますよ」
そういって僕は車を走らせた。
柊さんは、道中やけに静かだったが、何か一言だけ呟いたような気もする。
しかし、その呟きは窓から流れ込む夜風の音にかき消され聞き取ることが出来なかった。
基地へと帰ると、神南司令が立っていた。
いつものように葉巻をふかして居る。
僕は凍りつく背筋の感覚に冷や汗を滲ませながら車を停める。
車から出て神南司令と相対する。
何を聞かれるのかとドキドキしていると思いもよらぬ質問が飛んできた。
「柊は大丈夫か」
「柊飛行士は、酔い潰れ、快眠中です」
「そうか...やはりか、世話をかけたな、竹中」
ほっと胸を撫で下ろしている様子を見ると柊さんの酒癖は悪いのだろうか。
「いえ...ただ、神南司令、質問宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「柊飛行士はお酒を飲むといつもこうなのですか?」
そう聞くと神南司令は少し笑った後に答える
「そうだな、いつも、という訳ではない。まぁ、これ以上は彼女の名誉に関わるので社外秘だ」
「社外秘、でありますか」
ぽかんとしていると、神南司令が言う。
「すまんすまん、冗談だよ。ただまぁ、あまり深堀してやるな」
神南司令が冗談を言うとは思って居なかったのでびっくりしてしまったが、詮索しないほうが良いことはわかった。
「了解」
「それじゃあ、私は柊を隊舎まで連れて行くから車は頼んだぞ。おやすみ、竹中」
「はっ、神南司令、おやすみなさい」
「それでは別れて事後の行動に、別れ」
「別れます」
そう敬礼をして、僕は柊さんが降りるのを見届ける。
「おやすみ、竹中くん。また行こうね」
柊さんが最後にそう声をかけてきた。
「はい!是非にも」
そう返すと神南司令の肩を借りて、手を振りながら隊舎へと消えていった。
一体全体、今日は何なのだろうか。
なんともパッとしない状態で、僕は車を戻し、隊舎へと戻って行った。
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