第1話 竹中 平三という男

東歴1920年、戦争集結から2年が経過し、その渦中にあった西側諸国は戦災復興が本格化していた頃。

遥か極東の島国に、一人の男子が生を受けた。

名は平三へいぞう、姓を竹中たけなかという。


平三は、竹中家の三男に産まれ、戦災復興に乗じ市場を拡大し続ける極東の大帝国『あかつき』の好景気も相まって世界的に見てもそれは大層幸せな幼少期を送ったそうだ。


しかし、未だ家父長制の根強い時代である、平三は家の継げない事を思い、独立の道を模索し始めていた。

もっとも、これはこの時代ではごく当たり前の事であったし、3つ年上の次男は尋常小学校を出てすぐの12歳から丁稚でっちに出て、大工になろうとしていた。


事態を明瞭にすべく更に少し、視点を広域な物とする。


植民地を抱えて居なかった暁帝国は、1924年頃から漸減ぜんげん的に軍縮を行い続けていたのだが、

世界的に見ればこの頃はまさに植民地主義の終焉といった時代の最中であった。

それを見た暁帝国は、独立する植民地に対して軍縮で浮いた資金や武器などを有償で貸し付ける国際事業を始める。

当初は、世界各国との摩擦を避けるべく水面下で行われて居たのだが、年を追うごとに財閥の出資が増していき、1928年には財閥系の民間企業がヒト、モノ、カネを斡旋する大事業と化して居た。


戦争は変わった。


国家間の主義や思想、民族闘争に加え、永久に終わらない最大効率の消費活動という側面が戦争という物を民間にまで波及させ、

極東から始まった魔の戦争経済は世界へと拡がったのだ。

そうした変革は、世界の独立や自由のための闘争に寄生している。

これが、世界中の全人類が自由を手にするために支払い続けているである。

この犠牲は、断ち切る事のできない連鎖として暫く人類史に影を落とし続ける事となる。


さて、そのような一種の暗黒時代を生きる平三に視点を戻す。


東歴1930年、暁帝国では先述の民間傭兵企業の航空部門が独立して設置され、それに伴って航空高科学校が設立される。

これは、満12歳以上、17歳未満の男女を対象にした飛行士養成のための特別学校であるのだが、

学費がかからず、入学してからは訓練兵扱いのため給金が出るという、士官学校と同等の待遇を約束されていた。


「タダで学校に通える」


そんな噂を聞いた平三は、親に話しを聞いたのが実に10歳の時である。

無論、父母はそれを教える事に渋ったし、行くと言えば反対したが、再三の説得に根負けし、受験を許す事となる。


そもそも、平三という少年は元来、我の強い者ではなくむしろ芯のないと言われるような優男であった。

しかし、その少年を駆り立てたのは、空という浪漫への渇望か、この時代の少年たちの抱える無邪気な英雄願望か、今となっては定かではないが、

そうしたうねるような熱気が彼を強く奮い立たせたのは間違いないだろう。


そうして12歳になった平三は、尋常小学校を卒業した後、すぐさま受験をする。

倍率にして250倍とその時代の凄まじさを物語る困難を乗り越え、彼はかくして自由への翼を得るに至る。

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