20

絢翔あやと、そろそろ体を洗うよ。 ぼくたち臭すぎるとおもうんだ」


「ほんとだ! 臭いね」


 ペットボトルの水は限られている。乾いた空気にいつ雨が降るともしれず、水溜まりも乾ききっている。

 酷い寒さも相まって、風邪をひいては困るからと、体が臭くなるまで洗うのは我慢していた。


 二人は住み着いた家の庭先に出ると、急いで服を脱いで、ペットボトルの水を無駄にしないように布を湿らせる。

 レイラは裸になって、絢翔あやとを待つが、鈍臭い絢翔あやとはズボンがうまく脱げずにあたふたしている。


「早く脱いで、ぼくは早く洗いたいの」


「待って待って、寒いよ」


 涙目になりながら裸になった絢翔あやとに、レイラは濡れた布をあてがった。

 順番に手の届かない背中を拭き合うが、レイラは今更ながらに絢翔あやとの背中に違和感を覚えた。


「これ何、こんなのあった?」


 背骨に沿って腰辺り、丸いケロイド状になった傷痕が等間隔に三つある。


「え、え? なに?」


 レイラはそれをまじまじと見て、違和感の謎に気付いた。今まで転けた傷や傷跡がない事に。

 逃げた時に転けて膝も肘も擦りむいていたはずなのに、傷跡すら絢翔あやとの体にはなかったのだ。

 レイラの体には、瘡蓋やケロイドが数え切れないほどあるというのに。


 レイラは不思議に思ったけれど、幼い頭ではそんなに深く考えることもできず、その場限りで悩むのを諦めた。


 冬が来てからどれくらい経っただろうか。

 ベッドの所に食料や飲み物、着替えなどを大量に移動させ、極力ベッドから出ないように暖を取っていた。


 外は猛吹雪だろう。暴風が塔内に入り込み、響いて怪物が凄まじい唸り声を上げているようだ。

 時おり家の中にも、隙間風が入ってきて、寒さで震えが止まらなくなる。二人でくっついて離れないように、離さないように日が過ぎるのを、ただ待つしかなかった。


 移動した食料も瞬く間に減っていき、二人とも衰弱し始めていたが、どうする事もできない。

 人が住める塔区とうくの外は、こんなにも厳しい世界なのかと思い知る。

 会話もなく、ただベッドで過ごす日が続き、レイラが何気なく絢翔あやとを見ていると頬が痩けているのに気がついた。

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