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 朽ちているとはいえ、壁に囲まれた街。建物の半分は崩れずに残っているため、雨風をしのぐのには充分すぎるほどである。

 家や寝具もあり、工場や倉庫には、水も保存食も残っていたのだ。

 二人はここに居座る事にした。一週間ほどかけて塔区とうく内を散策したが、嬉しい事に建物の奥は、ゴーグルとマスクをしなくても過ごせる環境が一部だが残っていた。


 お風呂は使えなかったが、ペットボトルの水や、比較的綺麗な水溜まりで布をしぼり体を拭き、新しい下着や服を着て、柔らかいベッドで眠る。

 今までの普通のことが、こんなにも幸せなことなのかと、二人は現状を噛みしめる。


「ねえ、レイちゃん。 ここまで連れてきてくれてありがとう」


「なんだよ。 絢翔あやとも頑張ったからだからね」


 ベッドに潜り込み、向かい合って会話していると絢翔あやとが満面の笑みでそう言う。レイラはようやく泣く事ができたが、せきを切ったように泣いてしまい、絢翔あやとはかなり慌てた。

 レイラが泣くことが、滅多にないため、どうしてよいものかわからない。

 レイラの両親が、よくしてくれていた口付けを、おでこや頬にたくさんして、強く抱き締めた。


 二人とも、久しぶりに熟睡でき、とても気分が良いようだ。

 まだまだ周りきれていない塔区とうくを探検しようとレイラが提案し、大きな公園を見つけた。広いグラウンドにアスレチックなどがあり、二人は、自分たちが住んでいた塔区とうくを思い出し、年相応にはしゃいだ。


 そして、他にも人が住み着いているのに気がつき、レイラは警戒していた。見た感じ塔区とうくの人間ではなく、薄汚れたボロ布を足元まで巻き付け、フードを被っていた。

 しばらく距離を取り、物陰から観察していたけれど、ボロ布を巻き付けた人たちも、二人に気付いてはいたけれど、関わる気はないようで、何人かで集まり、食料や水を大量に確保し塔区とうく内の居住区の一角を根城にしているようだった。


 関わる気はない素振りを見せていたが、一人の大人が途中まで近づいてきた。

 警戒されているのを察知したのか、途中で歩みを止めて、話しかけた。

 二人が子供だったからか、集団に入りなさいと、安全だと言った。

 レイラは、フードから覗く目が異様に怖かったのと、絢翔あやとが異常に嫌がったために拒否したが、特に説得されることもなく、その後は干渉することもなくお互いに住み分けて生活していた。

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