18

 翌朝、絢翔あやとは尿意で目を覚ましたが、そこがどこかもわからず、周囲をうろついてみたがトイレはなく、レイラを頼るほかなかった。


「レイちゃん、レイちゃん。 起きて、おトイレいきたい」


 レイラは揺すられている感覚で目を覚ますと、すっかり景色は明るくなっていることで、夜をやり過ごしたのだと理解した。


「その辺でしてきてよ! いちいちぼくに言わないで!」


 レイラは、眠っても取れない疲労と、慣れない出来事の連続で、頭も体も痛いのを愚痴もこぼさずに、がまんしていた。

 空腹も満たされたわけではなく、泣きたいのに、それを許してはくれない現実と、両親と家を失った辛さが一気に押し寄せ、絢翔あやとに八つ当たりしてしまったのだ。


「ごめん。レイちゃん、ごめんね、ごめんなさい」


 また目に大きな涙の粒を溜めながら、物陰に移動する。その姿にさえ、レイラはとても苛立っていたが、そんな自分にも腹が立っていた。


「早くしなよ。 ご飯探さなきゃいけないんだから」


 戻ってきた絢翔あやとに、申し訳なさそうに、保存食の残りを渡し、泣きそうになったのを堪え、鳴りそうな腹を腕で押さえて、絢翔あやとが食べ終わるのを見守った。


 二人はまた歩き続けた。町だったであろう場所を抜けると、何もない荒野が続く。

 視界は悪く、足元も悪い。彼らは小さい歩幅で一歩ずつ確実に進んでいたが、口数は減り、話さない事の方が多い日が続いた。


 救いだったのは、町や小さな集落の跡地が、あったことだ。食べられそうな保存食を探し、寝る所を探し、時には新しい服を見つけて着替えたり。

 少しずつそんな生活に慣れ始めた頃、季節は夏から秋の中頃になっていた。


 環境汚染が深刻化し、氷河期といえる極寒の冬を、防寒着もなく、お腹を空かせたまま歩く事は出来ない。


 まだ雪は降っていないが、気温は一気に下がり、厚着をしていても、子供の体温を非情に奪っていく。

 雪など降り始めたら、一日で凍死するだろう。

 だが、冬目前に彼らは、運良く別の白の巨塔にたどり着いていたのだ。


 だが、そびえ立つ白い壁は一部が崩れ、入口にいるはずの軍人も見当たらない。中に入ってみるも、空気循環装置は作動しておらず、シアグル粒子の電気変換機も作動していない。

 唯一、シアグル粒子を集めて灯る、シアグル灯が灯っていることが救いである。


 人っ子一人いない白の巨塔は、まるで遺跡のように朽ちている。

 ここは何年も前に、龍の襲撃を受け、放棄せざるをえなくなった白の巨塔なのだ。

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