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 眼鏡の男は裏口の扉を見てから、またレイラに視線を戻し、小さく頷いた。レイラも裏口を一瞥して頷いた。『あそこからなら逃げられる』眼鏡の男はそう伝えたかったと、幼いながらに解釈したからだ。

 運良く倒れてきた棚に、大人達が気を取られいる隙に、レイラは絢翔あやとの手首を掴み、必死に裏口から外に逃げだすことに成功した。


 絢翔あやとを庇うように道の脇に隠れ潜み、後を追ってきた大人達が、鬼の形相で絢翔あやとを捕まえようと躍起になっている。

 何がなんでも捕まるのは避けなければならない。追っ手が通り過ぎてから、人の流れとは逆の方向に走り出し、保護区を囲うようにそびえ立つ白い壁の、彼ら二人しか知らない、秘密の抜け穴から外に出ることに成功した。


 二人は、塔区とうくから逃げ出し、数時間歩き通した。

 日は暮れ、荒れた外の世界は、住んでいた白の巨塔とは比べ物にならない程に、酷く凄惨でなにもない世界。稀に存在するのは、塔区とうくに住めなかった人々が住んでいたであろう廃墟だった。地割れや、大きく陥没して地面深くまで穴の空いた所もあった。


 塔区とうくを出たことがなかった彼らには、目に映るもの全てが衝撃的かつ悲劇的だった。


 人っ子一人居ない、灯りのない視界の悪い、道無き道。空気の淀みが酷く、夜空の星明かりも届かない暗闇。恐怖で足はすくんだが、身を隠すには最適だった。

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