14

 耳元に、穏やかな寝息が聞こえてくる。レイラは珍しく目覚ましの前に目が覚めたらしく、時計を確認するとまだ早朝の五時だ。


「全然、眠れてないじゃん」


 蓄光塗料は、微かだが、まだ光を灯している。回された重い筋肉質な腕をそっと外すと、静かにベッドを降りた。

 ランタンのシアグルを灯し、キッチンにある浄水器からコップいっぱいの水を汲んで一気に飲み干した。


 暗い部屋の中、至る所の壁に貼ってあるポラロイド写真を数枚手に取った。昨日の昼間に思い出していたせいか、気分はまだ少し落ち込み気味である。


 彼らがリアムと出会った頃の、生きる事だけに必死だった幼き日の二人。リアムと出会ってから、初めて三人で撮った写真だ。


 彼は満面の笑みで二人を抱き寄せ、レイラは緊張した顔をして、絢翔あやとは恥ずかしそうにうつむき加減に写っている。


 出会う前から、今までのことを思い出し、余計なことまで思い出してしまったレイラは、顔が一気に熱くなったのを感じた。

 顔は真っ赤に染まっている。まるで恋する乙女のように。



 十二年前。

 彼らは保護区である白の巨塔、塔区とうくに住んでいた。



「ねえ、レイちゃん。 待ってよー!」


 レイラと同じ年の子なのに、嗚咽を漏らしながら追いかけてくる、きょうだい同然に一緒に育った絢翔あやと


「男でしょう、しっかりしなよ。 パパも死んじゃって家も取られて、二人で生きていかなきゃいけないんだからね」


 レイラの父が亡くなった直後。身寄りのなくなった二人の家に、軍人だとか、研究員だとかいう人達が押し寄せ、家を取られ、二人とも捕まりそうになったのを、必死になって逃げ出したのだ。


 血走った目で、理解のし難い、難解な言葉を吐き、必死に絢翔あやとを捕まえようとしてくる大人達。その中で唯一、一人だけ冷静沈着に状況を把握している、眼鏡をかけた男の人が立っていて、レイラと視線が交差した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る