13

 熱風が髪の水分を蒸発させ、ついでに少し冷えた体も暖めてくれる。


「はい出来たぞ。 そろそろ寝ないと明日早いからな」


 絢翔あやとはそそくさと、ドライヤーを片付けて蓄電池のスイッチを切った。


 レイラが時計を見ると、二十三時半過ぎだった。煌々と付いていた電気が消え、またランタンだけの柔らかい灯りに変わる。


「はーい、でも昼からがいいんだけど。 朝はゆっくりしたいだよ、だめ?」


 甘えるように絢翔あやとに言う。絢翔あやとが断らないのを分かっている確信犯である。


「いつも通りだろ。 ここ数年レイラが早起きできた試しがない」


 そう言って憎たらしく笑う。 レイラは拗ねてベッドに潜り込み、壁の方を向いて寝たフリをした。


 後ろから包むように抱きしめられ、耳元に絢翔あやとの吐息がかかり、鼓動が跳ねるように大きくなる。レイラの頬は熱をもち、紅潮している。


「いい加減慣れろよな」


 押し殺したように絢翔あやとは笑うが、レイラは毎回それ所ではない。たとえ人間本来の欲求なのだとしても、恥ずかしさはいつまでもなくならないだろう。


 絢翔あやと顎を引き寄せられ、覆い被さるように唇が重なった。薄く目を開けると、ランタンは消されていて、時計や壁の落書きの蓄光塗料の光で、ぼんやりと絢翔あやとの顔がわかる程度だった。


 二人が、大人の真似事のように身体を重ねるようになったのは、リアムが死んでからだ。お互いの空いた穴を埋めるかのよう不器用にぎこちなく、毎日二人で貪りあった。


 当時はなんの感情もなく、恥ずかしさもあまりなかったのだ。スキンシップが日常的に行われるせいもあるかもしれないが、いつからかレイラには別の感情が出てきたせいか、恥ずかしくて堪らなくなってしまった。


 恥ずかしい、という感情を理解するのにも時間がかかったかが、絢翔あやとに対して湧くこの感情がなんなのか、恋と呼ぶものではないのなら、皆目見当もつかないだろう。


 絢翔あやとは手馴れたようすで、Tシャツや短パンを脱がしていくが、レイラは腕で顔を隠し、もう片方の手はシーツを握っている。

 少し腕をずらして、見た絢翔あやとの顔は、余裕気にレイラを見下ろして、意地悪そうに笑っていた。




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