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 シアグルガンの手入れに熱中していると、片付けも終わらせてシャワーも済ませた絢翔あやとが隣に腰を下ろした。


「まだ髪濡れてる。 ちゃんと拭けよな」


「長すぎて面倒臭いんだもん。 やっぱり切ろうよ」


 レイラがそう言うと、駄目だと首を横に振る。絢翔あやとは、レイラが髪を切るのを凄く嫌がる。レイラの両親が亡くなって、二人で塔区とうくから逃走し、放浪していた時に落ちていたガラス片で、絡まった髪を切ったのが、トラウマになっているようだった。


 レイラの母が気に入って伸ばしていた髪だったため、レイラも切るのはものすごく嫌だった。泣きたかったけれど、絡まってどうしようもなかった事は、覚えているのだ。そのとき、なぜか絢翔あやとが代わりに泣いていたことをレイラは覚えている。


絢翔あやとも、まだ濡れてるよ」


 濡れて束になった毛先から、雫が落ちて、太腿にぽとりと垂れた。


「俺のはすぐ乾くからいい。 それとも拭いてくれるのか?」


 絢翔あやとはふふっと含み笑いをして、冗談で言ったつもりだったのだが、レイラは体の向きをかえ、向かい合って絢翔あやとの首に掛かっていたタオルを取り、お互いの髪を拭きあった。


 物資調達の前夜は、いつも二人ともに気が滅入る。と言うよりかは、不安を誤魔化すように、お互いに構う事が多くなり、スキンシップもいつもより増える。


 軍がいた頃は、龍の応戦や、浮浪者、ゲノスと呼ばれる独立した集団の対処をしてくれ、物の奪い合いで起こる殺し合いなどを抑制してくれていたからだ。


 龍の出現地として立ち入り制限区域になった事や、軍のキャンプ地になった事、人口が激減したり塔区とうく(保護区)に人が集められた事などで、この地域にはほとんど人が居ないとはいえ、全く居ない訳ではない。


 立ち入り制限されている為か、崩壊した塔区とうくの残骸などにも、まだ物資が残っている。生活を保証された、配給のある塔区とうくから移住漏れした人々、主に浮浪者やゲノスが、それを狙って度々、漁りにやってくるのだ。

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