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 レイラは、服を着てテーブルに向かうと、美味しそうなオムライスとコンソメスープが並んでいた。オムライスと言っても生卵は手に入らないため、粉末の卵に片栗粉や小麦粉を混ぜて水で伸ばしたものを薄く焼いたものに、ご飯を包んだものだ。


 中身はフリーズドライの白米に雑穀で傘増しし、フリーズドライのミックスベジタブルを全て水で戻す。缶詰の鶏肉もどき(大豆加工)を一緒くたにフライパンで顆粒のケチャップと炒めたものだ。


 食料は八十パーセント以上がフリーズドライ製法に頼りきっている。特定の地域でしか生産できないが、この技術のおかげで軍人や塔区とうくと呼ばれる、白の巨塔の保護区の人間が生きていける。


「いつも通りフリーズドライとかに手を加えただけだからな。 ガスも節約しなきゃならないし」


 今の二人には何より物資が大切だ。寒さと飢えは幼少時代の彼らには、幼いながらにも強烈なトラウマになっている。


「はーい。 ありがたき幸せよ、いただきます」


 なんであろうと、まともなご飯が、暖かいご飯が食べられる幸せは計り知れない。ひと手間加えた絢翔あやとの手料理は、二人にとって毎日絶品だ。


「そういえば、明日は物資調達の日だからな、雨じゃなかったら決行するけど」


 絢翔あやとに様子を伺うように視線を送られ、レイラはオムライスを、ありもしない頬袋に詰め込むように頬張りながら、大きく頷いて返事をした。


 見る見るうちにオムライスは二人の胃袋に収まり、キッチンまで食器を運ぶが、片付けももちろん絢翔あやとがするのだ。かわりにレイラは二丁のシアグルガンの手入れと、シアグル粒子の集まり具合の確認。明日、食料や物資を仕入れるならば、シアグル集粒しゅうりゅうフィルターも取ってこないと心許ない様子だ。


 極秘ではあるが、キャンプ地には武器も最低限置いていってくれているのだ。キャンプ地と言っても、破棄され無人になった軍の基地を、再利用してキャンプ地にしていた。龍災りゅうさいや地震などで倒壊した建物が多く、基地としての役割は果たせないのだそうだ。


 当然だが、武器庫には鎖と鍵が厳重に掛けられている。だが、軍が街を去るさいに、鍵を二人に渡してくれたのだ。


 ただ彼らは、龍から身を守る為の自衛や対処法、狩りや動物を捌く術をリアムに教わっただけで、他の武器はからっきしだ。シアグルガンとサバイバルナイフしか使えない。普通の拳銃や武器も置いてはあるけれど、拳銃は龍になんの意味もなく、他の武器は部屋に置いておくには物騒過ぎるとのことで使い方すら知らないでいる。

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