5

 階段を登りきり、ハッチを押し開けると、目の前に大きな出入口がある。シャッターがいつも通り三十センチ程を残して閉まっているが、開いている隙間からは、微かな光が入り込んでいた。


 二人は出入口と反対にある長い螺旋階段を登り、地下室の上に建てられている家屋の屋上に辿り着いた。


 高台に建てられているお陰で、三百六十度を一望出来る。見渡すといつもの荒廃した世界に、淀みきった空気。粉塵に遮られながらも、日光が少し届いていた。


「やっぱり、今日は視界がかなり悪いな」


 手を強く握ったまま、絢翔あやとは警戒しながら辺りを見渡した。もう僅かに地鳴りがする程度で、近くには居ないと分かっていたが、確認出来るまでは安心出来ず、部屋へは戻れない。


「居た。 だいぶ遠くなったな。 もうこっちまでは来ないだろうから部屋に戻ろう」


 レイラも一通り見渡してみたが、見つけられない。


「どこ?」


「あっちの方にいるだろ。 わかるか?」


 絢翔あやとが少し屈んで目線を合わせ、指した指の先を辿った。目的のやつはかなり遠くにいるみたいだが、粉塵に遮られ視界が悪い。数百メートル先では特に粉塵が舞い上がり、覗いた双眼鏡から見える景色は、濃霧のように真っ白だ。


 たまに吹き荒れる風が、運良く塵を散らしてくれると視界は多少ましにはなるのだが。根気強く覗いていると、双眼鏡を通した視界の隅に、小指先程度の大きさで、それは見えた。双眼鏡がないと本当に小さくしか見えないけれど、絢翔あやとはとても目が良く、双眼鏡を使わなくても目視できるのだ。


「早く戻ろう。 視界が悪すぎて、長時間外にいるのは危険だ」


 絢翔あやとは催促し、レイラの手を強く握り、元来た階段を降りていく。レイラは横目でもう一度、遠くのそれを見たが、背筋が凍りそうだった。


 十八歳の二人の肩にかけられた、とても重たい対物ライフルのような銃。正式名称シアグルガン。この武器を二人に与えてくれた人は、破壊力は抜群だと、安心させるように言っていた。


 十二年前にレイラの両親が死んで、絢翔あやととレイラの二人で死地をさ迷いながらも生きていた時に、この付近で拾って育ててくれた軍人だ。彼は住む場所を与え、シアグルガンの使い方や生きる術も教えこんだ。そして、生活物資や食料も援助してくれていた。


 二人と同じ歳の頃の子供が居るらしく。故郷に置いてきたと、詳しくは話さずにいたが、たまに少年たちの名前を間違える時があった。多分、我が子の名前なのだろうと、二人は思っていた。すごく良くしてもらい、二人は実の父のように慕っていた。

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