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「パパの遺品、これしかなかったんだよ。それに前時代の事が書いてあるんだから、面白いじゃん。 分厚すぎて、まだ全然読み終えてなけど。 ぼくより絢翔あやとの方が興味あるでしょう?」


「確かに興味はあるし早く読みたいけど、レイラの次でいいよ。 いつ読み終わるかわからないけどさ」


 呆れ顔で絢翔あやとは笑った。読むのが遅いレイラに向けられた苦笑いでもあるが、なにより手帳の大きさと分厚さに向けられた苦笑いだろう。


 絢翔あやととレイラは幼馴染みというよりは、家族という表現の方が距離感が分かりやすいかもしれない。赤ん坊の頃から、ずっと共にひとつ屋根の下で育ってきたからだ。絢翔あやとは自分の珈琲だけを持って、レイラの前に腰を下ろした。


「ぼくの珈琲は?」


「いつも薄いって文句言うから入れてないよ」


 子供のように無邪気に笑うが、このご時世にとても似つかわしくないと、レイラは毎回思う。


「ええ! もう文句言わないから、お願いしまーす」


 レイラは甘えた素振りをみせてみたが、絢翔あやとには通用せず、仕方がないとため息をつかれてしまう。


「はいはい、本当は入れてあるよ」


 そう言って、キッチンから可愛い幾何学模様柄の専用のマグカップをレイラの目の前に差し出した。


 レイラはベッドに座り直し、マグカップを受け取ると、火傷しないように啜るように一口飲んだ。レイラ好みのスキムミルクと甘味料がたっぷり入ったカフェオレもどきだ。


 けれどやはり薄い「水くらい薄い珈琲だね」と文句をこぼしている。今の時代、昔の珈琲を飲める方が珍しいのだが。

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