◾︎第一章ノ一 想い出と記憶の中に存在すること■ 1

 ◻️◻️年。ここ一年程で、各国各地での龍の目撃情報が相次いでいる。その姿を見たものは少なくない。この国や周辺諸国の伝承に出てくる姿とは違い、よく映画やゲームなどで見掛ける、翼のあるドラゴンやワイバーンと呼ばれる姿のようだ。


 ようだ、というのは全容を見たものは限りなく少なく、写真や動画などはSNSにもアップはされてはいるが、龍と思わしき体の一部が映っていたりするだけで、全体が撮られた事は未だにないようだ。


 某国防総省が◻️◻️年に未確認飛行物体の映像の存在を認めた事から始まり、今年の始めに宇宙生命体の存在も明らかとした。

 実は龍の存在も既に確認され、政府は知っているのかもしれないが、まだ噂の域を出ない。


 ただ、自然災害や環境汚染の悪化が、今月に入り一段と酷くなり、それを踏まえた上で架空の伝説の生き物の目撃情報は、想像もつかない様な天災が起こる前触れではないか噂されている。特に、オカルト好きや、都市伝説系動画配信者達が騒ぎ出し、一気に広まったのだ。そのせいで龍を探す人が増加し、目撃情報も増えたのは、言うまでもない。


 だが、私も見たのだ、つい先日のこと。通勤電車の窓の外、淀んだ視界の悪い空気と、曇り空の隙間、翼と爪らしきものがはっきりとそこにあったのだ。


 同じ車両で気づいたのは数人だった。殆どは目を閉じているか、スマートフォンを触っている。

 私はすかさずスマートフォンを取り出し、写真を撮ろうとしたが、高層ビル群に阻まれてしまい、見えなくなってしまった。下車してからも探したがもうどこにも居なかった。


 龍は存在すると、確信に変わった瞬間だった。そして、もう一つ重大な謎と噂が存在する。


 龍鱗皮化症りゅうりんひかしょう。そのままの名前だ。症状は、少しづつ皮膚が硬くなり、鱗に変わっていくというのだ。龍鱗皮化症りゅうりんひかしょうという名前も症状も某ネット掲示板で騒がれている情報程度に過ぎないが。


 だが、少しネットに潜ると画像を見る事ができる。少しといってもダークウェブなのだが。

 そこには、作り物としか思えないような症状の経過の画像が並べられていた。老人、中年や年少者、年齢は様々だが、初期症例はみな体の一部に、先の尖った楕円形で青灰色のうろこがあり、一ヶ月経過するとそれがさらに広がっている。


 また、半年くらい経つと肩甲骨付近に二つ突起ができ、月日が経つにつれてその突起は小さな翼の形になり、体はうろこに覆われていく。


 そして何より奇妙で奇怪なのは、龍鱗皮化症りゅうりんひかしょうが進行するにつれ見た目が幼くなっていくことだ。


 そして、すっかりうろこに覆われ、骨格まで変わり、龍にしか見えなくなった画像の頃には、赤ん坊になっているのだ。そう、龍の赤ん坊。


 さながら、◻️年前の映画で使われた、リボーンドールと呼ばれる、本物そっくりの赤ん坊の人形みたいだ。いや、むしろそうなのかもしれない。これが元人間で本物だというほうが無理がある。


 大人が赤ん坊になるのも、さながら某映画の数奇な人生のようで、完全に龍になってしまうのも無理がある。大体ネットの中での話しなのだ、画像は誰でもいくらでも作れる。


「だが、この話は一旦置いておこう。私が更に不思議に思うのは、こんな時に人々の興味や不安を煽るように始まった龍を題材にした、特番やドラマなどだ」


「レイラ、またそれ読んでるのか?」


 レイラと呼ばれた少年と、同じ年の少年が、小さなキッチンで珈琲を入れながら問いかける。ベッドに俯せに寝転がり、壁に足を上げて、分厚い手帳を読んでいるレイラは、手帳から目を離さず応えた。

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