幸運集めのフォークローバー 29

「ねぇ――、そのぬいぐるみ」

 僕たちに声をかけてきた人がいた。

「あ! もしかして稲田先生の――」孝慈が答える。

「ええ。いつも真一くんがお世話になってます」

 その人は軽く頭を下げた。

「えーと、もしかして恋人っすか」

「……うん、一応そういうことになってます。あ、君たちは歌扇野高校の生徒だよね?」

 それを聞いて孝慈は驚嘆したようだ。

 目的の人が見つかり、僕は少しほっとした。恋人だというその人は、稲田先生と同じくらいの年齢に見える。

「私は恵実。漢字はこうよ」

 空中に書いて説明してみせてから、恵実さんは言う。

「留学するんだ。ざっと三年半」

「三年半も……ですか?」

「うん。私はデザイナー目指しててね、向こうの学校に入り直す、特別なやつなんだ」

「そうだったんですか――それで、このぬいぐるみなんですけど……」

 僕は祈りながら、恵実さんにぬいぐるみを渡した。

 恵実さんは、

「まさか、真一くんが作ったの?」

と不思議そうにじっくり見ていたが、テディベアの顔を見るなり吹き出した。

「いや、そうとしか思えないけどさ。……この無器用さは、まさしく本人だよ――ありがと」

 恵実さんは笑って受け取った。

 彼女がぬいぐるみを大切そうに撫でるのを見届けて、僕は肩の力が抜けた。

 恵実さんは言う。

「このぬいぐるみのことは、彼に三日前に話しただけだった。この際だしって思ってね」

「特別なもの、なんですか?」

「うん。このクマ、ふうちゃんって言うんだけど、ふうちゃんは元々、子供の頃に死んだ母が作ってくれたものでね。

 でも、高校の時くらいに無くしちゃって、それで、実家をいくら探しても見つからなくて。それが留学前のちょっとした心残りだって話した」

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