幸運集めのフォークローバー 30

 恵実さんはふうちゃんの頭を撫でながら続ける。

「けど、まさか、ふうちゃんを作ってくれるとは。ほんと、予想外だよ。しかも真一くん本人は来ないし、生徒さんが代わりに持ってくるとか」

 恵実さんがクスリと笑うのを見て、孝慈がおそるおそると言った感じで質問する。

「あのですよ」

「うん?」

「稲田先生、ただでさえこうして見送りに遅れたじゃないですか。その上で、もし、このぬいぐるみが手渡されなかったら、恵実さんはどうしてました?」

 恵実さんは少し間を置いてから答える。

「正直、いろいろ考えてたけど、どうなんだろう。人生に『もしも』は無いからわからないけど、もしかしたら、そのまま連絡先とかいろいろ消して、音信不通にしちゃったかもしれない」

 恵実さんはけっこう重大なことをさらりと言った。

 僕は自分の手帳のメモをこっそり見る。時計台の上で和歌子が話した、不幸解決のルール。【ある程度大きな不幸でないと未来写真に写らない】。

 未来写真というかたちで稲田先生の不幸として現れたということは、それは危うく現実になるところだったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る