幸運集めのフォークローバー 28
*
いったん合流したのち、すれ違う人々の中に先生や知り合いがいないか確認しながら、気づいたことを孝慈と和歌子にも伝える。
「――それで、加澤の推理は」
僕の話を聞き終えた孝慈はゆっくりと口を開く。
「先生には、作ったぬいぐるみを渡したい相手がいて、その人は今日の一番の飛行機で遠くに行っちゃうのか。だけど、不測の事態が起きた」
僕はうなずく。
「ああ。先生は家で猫を飼っていて、せっかく作ったテディベアを引き裂かれた。たぶん、ぬいぐるみを持っていたところに猫が飛びかかってきて、スーツごと傷をつけられたんだ」
「未来写真にあった、袖の引っかき傷ですね!」
「うん。結果的に、テディベアは人に渡せないくらいズタズタになってしまった。
しかもそれが起きたのはおそらく今朝。
急いで補修しようとして、先生は空港に間にあわなくなる。
未来写真に写ってたとおり、スーツのホコリとかも気にする暇もないくらい、急いでいたんだ。
その結果が、先生がうなだれてるあの写真というわけ。
猫の毛がついてなかったのは、普段から毛並みを手入れしてたか、あるいは飼ってるのが黒猫とかで、スーツと毛の色がかぶって見えなかっただけかも。
そして今、僕らの手元には」
僕は持っていた袋を三人に示し、中のぬいぐるみを取り出した。昨日追い出された後、そのまま持ってきてしまった、稲田先生作のテディベアだ。
「大事な手がかりだから、もちろん持ってきた。稲田先生の代わりに渡せるかもしれないし。だけど、このぬいぐるみは――」
手足の長さが不揃いだし、顔のパーツもずれている。
失敗したもの、そう言おうとして、僕は思い直す。なんであれ、稲田先生が頑張って作ったものだ。
「――こうなったら、先生がこのぬいぐるみに込めた気持ちに、賭けてみるしかない」
そうは言ったものの、空港には人が多く、誰が目的の人なのかは分かりそうにない。
仕方なく、ぬいぐるみを持ってロビーをうろついていると。
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