第二章 幸運集めのフォークローバー 1




 期末試験が先週に終わり、夏休み前最後の水曜日。今日は午後の授業は無く、明日から夏休みが始まる。

 1Aの教室の、帰りのホームルーム。前から二列目の席。

 昨夜のことが頭を離れず、今日は朝から授業が全く手につかなかった。

 担任の稲田いなだ真一しんいち先生が黒板に書き付ける文字を、僕は近くからぼんやりと眺める。

 稲田先生は、僕たちとも歳の近い二年目の新人で、新しめのジャージをいつも着ているフレッシュな体育会系。

 その見た目に反して猫や甘いものが好きで、そういうギャップが女子生徒に人気でもある。

「グループワークの班は三人か四人で作るように。良いな?」

 稲田先生の声はよく通る。

 夏休み前ですっかり弛緩しきった生徒達の耳にも、「テーマは歌扇野関係なら基本的に自由」「提出期限は九月の半ば」という声がよく響くのか、メモを書き留めるシャーペンの音が慌ただしく教室中に走った。

 夏休み直前に始まる、グループワーク。

 歌扇野高校では、地域学習の一環として、自分たちが住む歌扇野についての調査・発表が新一年生たちの手で毎年行われる。

 発表原稿の提出期限は二ヶ月後。優秀だった班は後に市の文化会館でクラス代表として発表を行う。

 稲田先生から前に説明を受けた限りでは、早く終わらせることを推奨しているわけでもなく、運動部の大会や夏休みの予定など、ただ各々の都合に合わせて、ということだ。

 そのため、なるべくスケジュールの似通ったメンバーで班をつくることだけが求められている。

「班どうする?」「運動部の人以外と?」「サッカー部ちょうど四人だな」稲田先生が言ったのを皮切りに、教室中がざわざわとし始めた。

「はい、先生」

 昨日のことをあれやこれやと考え込んでいると、一番後ろの席の孝慈が手を上げた。

「なんだ、小野寺」

 班決めで教室が盛り上がるなか、稲田先生がチョークを持ったまま孝慈を示した。

「俺、松野と加澤とで班組みます」

 答えた孝慈に、稲田先生はうなずくと、僕と松野とを交互に見た。

「そうか、わかった。じゃあ小野寺はもう、ふたりと班になるって前もって話し合って決めてたのか?」

 僕は昨日の顛末を思い返しながら、ため息をついて孝慈の代わりに答える。

「いえ、……一方的に話はされたけど、話し合ってはないですね」

「おいおい、小野寺が勝手に決めようとしてたのかよ。とりあえず三人で話し合え」





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