第3話

第3話

ピピピピピピピピピピピピピピピ

 目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。

「あと5分」

ピピピピピピピピピピピピピピピ

「ほんとうるさいなぁ」

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

ガタッ

 突然、体にどこかをぶつけた様な痛みが走る。

「痛ぁ、今何時?」

 重たいまぶたを開け、部屋に掛かっている時計を見る。時刻は午後の12時26分、大遅刻だ。

 本来だと朝からの予定なので8時には起きる予定だったのに、4時間以上も遅くに起きてしまった。

「終わった………

 なんで先輩は起こしてくれなかったんだろう」

 とりあえず先輩に電話をかける。

プルルルル………………

 3コール目、以外にも早く出た先輩の声色は、愉快そのものだった。

「もしもし〜〜やっと起きたの?w」

「なんで起こしてくれなかったんですか、」

「いや珍しく気持ちよさそうに寝てるから〜」

「なんですかそれ、てか珍しくって普段から人の寝てる姿見てるんですか?」

「いやいやレオたまーに寝坊するじゃん、いつも大体はしかめっ面してるんだよね〜」

「そうだったんですね、最悪だ、シワになる」

「そんなこと気にしてたの?まあでも今日は珍しかったからほっといたんだよ〜〜、優しいでしょ?」

「あーはいはいそうですね、そんな優しさいりません!実際、寝坊して皆さんに迷惑かけてるんですから!」

「それはごめんて、謝ったから許して?ね?」

「まあいいですよ、でも、次はちゃんと起こしてください」

「りょーかい、てか昨日は気にしてなかったけど、服とか化粧とかどーすんの」

「どーすんのって言われてもどーにもならないよ?何も出来ないんだし」

「服は元々中性的だったから良しとして、下着はしっかり付けなさいよw」

「そこまで行くと男としての尊厳が……」

「今は女なんだし良くない?」

「良くない!!!中身は男だよ??」

「まあいいか、いったん嫌なら無しで過ごしてみな、辛いから」

「辛いって何?怖いんだけど」

「まあそのうちわかるよ、化粧とかはできる?まあ無理だろうけど」

「無理だよ、出来るわけない」

「まあそーだよね、いきなりやれって言われてもか……まあ顔とかは整ってる方だと思うから、そのままでもいいんじゃない?後でナチュラルでいいならメイク教える」

「いいよそんなに、めんどくさいし」

「素材がいいのに勿体ないよ?」

「素材がいいのは認めるけど……」

「そこは太鼓判押させてもらう」

「他人の事なのに自信満々ですね」

「まあ、レズなりにこだわりはあるし、女の子の顔にはうるさいからね?」

「あ〜はいはい」

「まあいいや、早く服着て準備だけして早く来な!1人凄くカンカンな子がいるから」

「あっそーだ、レオのこと正体明かさないつもりでいるから、慌てて来て変に口滑らせないでね?」

「りょーかいです、爆速で向かいます」

「ほんじゃ、また後で!首長くして待ってるよ」

――――――――――――――――――

 準備は昨日夜してたら、とりあえず服着てご飯食べて行くだけなんだけど、めんどくさいから下着とかも今までのでいいか。とにかく急がなきゃ。

 今日集まる予定だった場所は一つ隣の駅近くにある。

自転車で行けばすぐの距離ではあるが、性別が変わったせいか体力が持たなくなっていた。

 ただこの距離で駅を使う訳にも行かず、息を切らしながら全力で漕いでいると、全力なのにいつもより遅くに到着した。やはり、体力の衰えや筋肉量の減少がでかいのかもしれない。

 そんなこんなで受付に話を通し、周りに気を使いながらみんなの待っている部屋へ駆け足で向かった。

 緊張のせいか扉の前で数秒立ち尽くした後にドアノブに手をかける。普段使っているスタジオのはずなのにドアは重く、ようやく開いたと思ったら扉の向こうには地獄のような空気が漂っていた。

「遅れてごめんなさい!!」

「意外と早かったじゃんw」

「遅すぎ、何時だと思ってる?もう昼だぞ?」

「落ち着いてね〜?」

「本当にごめんなさい」

「レオの代理か誰か知らないけど?人としてどうなの」

「うぅ……すいません」

「とりあえずお名前聞いてもいいですか?」

「あー……えっと…」

 やばい、そーいえば名前決めてなかった……

急いで決めないと…………

「先にこっちから名乗らない?聞いてる側なんだし、私は知ってないとおかしいかな?レオの紹介で何回か会ってるし……一応言っとくね?私は一ノ瀬瑞希です!確かレオは先輩って呼んでたかな?よろしくね!」

 先輩ナイスアシストです!

「私は花見香織です〜、一応このバンドのドラムやってます、あとさっきの瑞希ちゃんはギターだよー」

「……………………」

「ほらータマちゃんもー」

「……ギターやってる、佐々木環」

「よく出来ました!」

「ウザイ」

「酷いなぁタマちゃんは、はなみ〜タマちゃんが虐めてくるー」

「タマちゃんはうちのバンドのギターボーカルなんですよ〜、歌ってる姿がカッコイイと話題になってたりしてるんですよ」

「意外と女の子のファンも多かったりね」

「うるさい」

「あっそーでした、そちらの方もお名前聞いてもいいですか?」

「あっすいません!えーっと、い、五十嵐澪です……」

 危ない何とか思い浮かんだ。

親戚の仲良い人の名前だけどいいよね?ごめんなさい許して!!

「澪ちゃんって呼ばせてもらいますねー」

「私はそのまま変わらず澪って呼ばせてもらうよ、タマちゃんはどうする?」

「どうも何も、初顔合わせで遅れてくるんだし苗字で十分」

「うぅ」

「許してあげな〜?きっと色々あって疲れてたんだよ」

「そうですよー?いつまで経っても意地はってると周りから嫌われますよー」

「そんなの分かってる……」

「ハイハイ、おしまい!そんなことはどうでもいいでしょ?バンドなんだし、1回実力測るためにも少し弾いてもらわない?」

「いいですねー」

「賛成」

「じゃあ準備の方お願いね〜」

 そう先輩から言われて、ベースを取り出す。

「そのベース……」

「お!タマちゃんよく気づいたね」

「何かあったんですか?」

「レオが使ってたのと同じ」

「正解!今ベース壊れてるっぽくてとりあえずレオの貸してるんだよね〜」

「そーなんだ……」

「もちろん許可は取ってるよー」

 ナイスアシスト先輩!!!(2回目)

あっ、気引き締めなきゃ顔に出ちゃうよ。

「どーゆーの弾けばいいですか?」

「なんでもいいんじゃない?とりあえず得意なフレーズでよろ」

「分かりました」

 とりあえずチューニングしてっと

「うわっ、耳でチューニングしてる」

「凄いですねー」

「やっぱり澪は相変わらずだね〜」

「チューナー使うの面倒じゃないですか、まあ精度は悪いのでライブの時とかはちゃんとしますよ」

「まあそれはそーしてもらわないと……」

 とりあえず短いフレーズをちょろっと弾いてみる

「地味」

「やっぱ地味だね」

「もう少し激しめなフレーズ弾いて貰えますかー?」

 すっごいストレート

「うっ分かりました」

 言われた通りにもう一度ベースを弾く。

 ベースを弾き出したら突然、香織さんがドラムを叩き出す。それに煽られてか、先輩やタマちゃんもギターを手にして演奏し出した。

 

 数分後


「ふぅ、久しぶりにライブ並に全力で弾いたわ」

「やっぱりタマちゃんはいい声ですね〜」

「うるさい!ギターはアレンジ入れすぎ、主張激しくなってた、ドラムはサビ前少し走ってた」

「ベースはどうだったー?」

「悪くは無い、ただ、音が少し弱いから、もう少し力入れて弾いて欲しい」

「りょーかい」

「了解です」

「わかりました」

 相変わらず弾いたあとは凄いなタマちゃん、指示が的確すぎるよ。本当に有能、神。

「全力だったせいで疲れたよー、1回休憩にしよ?」

「いいですねそーしましょう、流石に私も疲れました」

「わかった」

「ではいったん各々自由にしましょうか」

「さんせー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男の方が好きなんで! R1n/Nanase @R1ND0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ