第35話 二度目の

『うーん、まだか?大丈夫だろうか…』


快晴の青空の下今俺は駅の前で待ち合わせをしている、理由は椎奈との買い物だが待ち合わせの時間より少しばかし遅れている、別にそれぐらいで不快になったりは絶対にない{常習犯が約二名いるため}が、無事か心配になる


(連絡を入れるか?…いや急かしているみたいになるだろうか)


『仁くん!』


そんなこんな考えていると少し息を切らしながらも椎奈がやってくる

今日の椎奈の装いは白の胸元に可愛らしいリボンがあしらわれた服、下は動きやすいように黒のジーンズシンプルな色合いだがところどころに装飾があり長い髪を編み肩から垂らしている髪を際立たせてとても可愛い装いだ


『お、お待たせして、すみません』


『大丈夫、全然待ってないよそれよりどうしたんだ?椎奈が遅れてくるなんて…くる途中に何かあったのか?』


『いえ、ちょっとですね…』


軽い心配事で聞いてみたんだが何故かバツの悪い感じで言い淀んでいる、でもとてつもなく深刻と言うほどでもなさそうで内心ほっとする


『…どうした?』


『笑いませんか?』


『笑わないよ』


『……昨日今日が楽しみでなかなか眠れなくて、昼ごはんを作ってから少し時間があったので少しだけ仮眠をしたのですが、寝過ごしてしまいまして』


『…………』


『あの?仁くん?なんだがとっても変な顔になっていますよ?』


特に反射するものも近くにないので自分が今どんな顔をしているかはわからないが、そんなことよりも今は


『前日に楽しみで寝られないって言う椎奈の可愛さと、無理をしていることを怒りたいが俺のためだから怒りづらいと言う感情がせめぎ合っててだな…』


『むっ!無理などしてませんよ』


『でも椎奈が寝過ごすなんてよっぽどだろ?もし途中で具合が悪そうなら今日は中止だからな?』


『そ、そんなぁ…』


俺の中止発言に絶望したような顔になってしまう。しかし、これは譲れない俺のせいで椎奈の具合が悪くなるなど俺が俺を許せなくなる。とはいえ、このしょんぼりした椎奈を見ていると自分がとてつもなく悪いことをしている気分になってしまう


『……その場合は明日だな』


『…明日も、一緒にお出かけしてくれるのですか?』


『特に予定もないしな、それに必要なものだからな。でもその日も無理しているようだったら怒るぞ?』


『はい、わかりました!』


さっきの曇天のような顔模様から一転して今日の快晴のような顔に大変身した


『じゃあ行こうか?』


『はい!』


『椎奈…』


『はい?』


『今日の服装も……すごい可愛いよ』


『あり…がとうございます』


さっきまでの輝いていた顔からまたしても一転して茹蛸のように真っ赤になってしまう、その表情の変化が可愛くて自然と笑みが溢れてしまう


(というか、俺も熱くなっているな…これは)


🔸

プシュー


ドアの開閉音と共に駅員の声が聞こえてくる


『電車なんてとっても久しぶりです』


『俺もだ…椎奈こっちに』


『え?ヒャ!』


人が大勢入ってきて奥の方に押しやられそうになり咄嗟に椎奈の腕を引き反対側のドアと壁の間に滑り込ませる


『すまん、強かったか?』


『い、いえちょっとびっくりだしだけです。』


『そうか?ならよかっ、た!?』


椎奈とのやりとりをしていたら後ろから強い衝撃が与えられる横目で後ろを見ればぎゅうぎゅうに押し込められてしまっていた、そのせいか椎奈を潰さないように壁に手をつく、いわゆる壁ドンのような体制となったが後ろからの衝撃が少し強くて手が疲れてくる


『…椎奈、悪い怖いかもしれないがちょっと我慢してくれ』


『いえ、大丈夫ですよ!……むしろ』


『何か言ったか?』


『なんでもないです』


🔸

『結構きつかったな…』


『あの、大丈夫ですか?休憩しますか?』


『いや、大丈夫だよ。だてに鍛えてないからなこのぐらいだったら全然』


俺たちが降りる駅まで数十分の間ずっとではないが結構な間後ろから押されて椎奈を守っていたが、師匠のしごきに比べれば全然余裕だった。そんなこんなで無事に目的地の大型ショッピングモールに着いた


『まずはどこから回る?』


『下から少し見ていきましょうか、良さそうなお店に入って見てみて、いいものがあったら帰りに買うと言う感じでしょうか』


『帰りでいいのか?』


『荷物になってしまいますから、数が少なくてなくなりそうでしたら取り置きしておいてもらいましょう、そうすればゆっくり回れます』


『そうだな…じゃあ行こうか、手始めにそこの店に行ってみないか?』


俺が指差した店舗は落ち着いた雰囲気の店で家具など家で使うものが多々揃っている店だった


『私も先ほどから気になっていたんです。いきましょうか』


『いらっしゃい』


店舗に入ってすぐに店員が来る、何故かニヤニヤとした感じの、よく言えばフレンドリー、悪くいえば馴れ馴れしい感じの店員だった


『今日は何をお求めで?』


『…食器類を見にきたんですが』


『こちらになります。』


『…………』


店員さんに案内されて食器類の棚についた瞬間椎奈が真剣な眼差しになっていろいろと手に取り物色している、俺はこの手の選択が得意ではないから椎名に任せっきりになりそうだ、聞かれれば答えるが


『可愛い彼女さんですね?同棲中の大学生さんですか?』


物色している椎奈を見ていたらさっき案内してくれた店員さんが話しかけてくるが……暇なのだろうか?周りにはそれなりに人がいるのだが


『……大学生じゃなくて高校生ですが』


『え!?それっていいんですか?』


『いいも何も同棲なんてしてませんし、恋人じゃないですよ』


『ええ!?…じゃあお二人の関係は?』


とてつもなくずけずけくる店員だが、ここまでしゃべってしまったし、いいだろう


『友人ですよ。』


『ええ?何故友達同士で食器を買いに来たんですか?』


『…………』


『……さすがに踏み込みすぎましたね、ごめんなさい。私はこれで失礼いたしますね?ごゆっくりお選びくださいを』


こちらの気持ちを汲み取ったのか、流石に引き際はわかっていたのかちょっとだけ申し訳なさを出しながら別のお客の方へと行く


『仁くん?どうしました?』


『いや、なんでもないよ。それよりどうだ?いいのあったか?』


『ここら辺などは気に入りましたが仁くんはどうですか?』


椎奈が刺す指の先には、シンプルながら細かい装飾が施された綺麗で機能性にも富んだいいものだった、それに男物女物に分かれていてお揃いのような感じだった


『いいんじゃないか?これにするのか?』


『うーん、他のお店も見ていいですか?』


『構わないよ、一応取り置きしてもらうか?』


『いえ、急に品切れになると言った感じではないので大丈夫そうです。では、次にいきましょう』


『ああ』


🔸

結局いろいろと回った結果最初に行った店の食器で茶碗やら小皿大皿などなどを揃えて取り置きしてもらうことになり今日の最大の目的は達成された時刻はちょうど正午の前くらいの時間になった


『そろそろお昼にしようか?』


『はい!では屋上にいきましょうか!お天気もいいのできっと気持ちいいですよ』


そう言って朝からずっと持っている、俺が持つと言っても頑なに持たせてくれないほど大切にしていたお弁当を上に上げて見せてくる。


エレベーターに乗り屋上に行く、やはりお昼時で日曜日ということもあり家族連れの人たちが多く乗っていた


ポーン


『……気持ちいいですね』


芝生の上に持ってきたレジャーシートを敷き二人で座る


『では、早速食べましょうか!』


ぱか


今日のお弁当はいろいろなおかずに昨日リクエストした卵焼きとそれとおにぎり、いかにもピクニックといった感じの内容でテンションが上がり自然と口角が上がってしまう


『ふふ、そんなに嬉しそうな顔をしていただけるともうすでに嬉しいです。』


『そ、そうか?まぁさっそく』


『『いただきます』』


やはり最初に手をつけるのは卵焼きだった、……なんか椎奈がじっとこっちを見てくるんだがなんだろうか?まぁいいや


『うまい!』


『よかったです。いつもこの瞬間は緊張してしまいます。』


『そうなのか?意外だな、椎奈の腕なら全然大丈夫だぞ?』


椎奈の料理は贔屓なしでそこらの店より美味い


『どんなに自信があっても人に食べてもらうのは緊張しますよ…それも‥な人にですから』


『ん?すまん、途中聞こえなかったが……』


『いえ、いいのですよ、さっ!どんどん食べてくださいね?』


『ああ、遠慮なくいただくよ』


🔸

『ご馳走様』


『はい、お粗末様です♪』


『いつも同じような言葉で悪いが本当に美味しかったよありがとうな、椎奈』


俺は白髪の長い髪と髭の筋骨隆々のすぐはだけるおじいさんや年がら年中着物を着た○○倶楽部の責任者ではないので料理の感想を詳しく言えない


『いいのですよ、仁くんが満足していただけたのは食べていた時のお顔を見ていればわかりますから』


『そうか?』


まぁ、だからと言ってか言葉にしないと伝わらないこともあるだろうし患者の言葉などは何度言ってもいいものだこれからも続けていく


『ふあぁ……』


弁当の片付けを終え少しばかしゆっくりしていたら椎奈の可愛らしいあくびが聞こえてくる


『眠いか?』


『……少しだけ』


昨日はあまり眠れなかったらしいしその上お弁当作りまでして、食器を選ぶために歩き回り昼食を食べポカポカとした天気にちょうどいい風、これは眠くなってもしょうがない。て言うかもうすでにコクリコクリと船をこぎ始めている


『寝ててもいいぞ?』


『でも……せっかくの‥お出かけなのに』


『……お出かけならまたすればいいさ、こんな日があってもいいだろ。なんなら膝を貸してやろうか?』


『…………お願い、しましゅ‥』


ぽふ


『………まじ?』


からかい半分であぐらを描いていた膝部分を叩いていたら椎奈がゆっくりと頭を乗せてすぅすぅと寝息を立てながら眠り始めてしまった。椎奈の眠った顔を見るのはこれで二回目になる、これは俺が悪いな。て言うか…


(これ、どんな拷問?)


🔸

『う、むぅぅ』


『…起きたか?』


『……仁くん?』


寝起きの空きそうで開かない目で蕩けた顔をしている、控えめに言って超絶可愛い!しかし、意識がはっきりしてきたのか状況を確認して段々と赤くなっている


『わ!私!ななななんてことを!』


『椎奈!落ち着け!大丈夫だから』


『あぅ、…どのくらい眠っていましたか?』


『ほんの三、四十分くらいだよ』


『仁くん…申し訳ないです‥』


『椎奈、謝らないでくれ、俺は困っていないし椎奈が頑張ってくれたんだこれぐらいのことがあっても無問題だ』


実際椎奈に無理をさせてしまったのは俺だし、冗談とは言え自分の膝を差し出したのも俺なのだから俺から何かを言うなんてお門違いというものだ


『…ありがとうございます、仁くん』


『ああ、さて、じゃあそろそろ次に行こう。次はどこにいきたい?』


『ゆっくり歩いて気になったお店に入りましょ?…あと、行ってみたいところが…』


『なら、そっちから行こう』


『え?!いいのですよ!私のは時間があったらで』


『いいんだよ、俺はこれと言っていきたいところもないし椎奈が楽しんでくれればそれで』


『…ずるいです。仁くん。じゃあいきますよ!』


なんだが少し怒った雰囲気だが、俺は髪の間から見えた少し赤らんだ耳を見逃さなかった

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