第34話 おこです。

『ただいま』


『お帰りなさい仁…くん』


出迎えるためにわざわざ玄関まで出てきてくれたのだが俺をみるや否や固まってしまったがどうしたのだろうか……ああ、そうだった


『どうだ?似合うか?』


自分のの髪をいじりながら聞いてみるけど、どうなのだろうか。これで微妙などと言われてしまったらしばらく立ちなをれないかもしれない


『椎奈?』


『ひやぁい!にに、似合ってます!とっても素敵です!…………前までの少し長い感じもクールでかっこよかったですが今回のあかるい雰囲気の髪型もいいです!』


『そ、そうか?そこまで言ってもらえるならよかったよ』


そこまで絶賛してもらえるとは思っておらず、顔に熱が集中するのがわかる


『……仁くん可愛いです。』


『ん?何か言ったか?』


『いえ…なんでも』


『そうか、じゃあ行こうか?準備は大丈夫か?』


『はい!大丈夫です。…申し訳ありません、私のわがままに付き合わせてもらって』


『別にわがままじゃないさ、椎奈が料理を作ってくれるのなら俺も買い出しとかでちゃんとやることをしないとだし、さっきも言ったとおり椎奈と一緒にいる時間は俺も楽しいし落ち着くからな』


これは俺の気持ちの全てだ、ここまで一緒にいて楽しく落ち着くのは利寿や愛華、風花の中でも椎奈が一番だ


『…………』


『椎奈?どうした?ずっと固まってるが、体調が悪いなら今日は無理しなくていいんだぞ?』


『……無理じゃありません、仁くん…いっつも女の子にそんなこと言っているのですか?』


『そんなことって?』


『一緒にいて楽しいとか落ち着くとか』


『そんなことある訳ないだろ?椎名にしか言わないさ』


なんだが、自分で言っていて少し臭いセリフのような気がしないでもないがここで照れてしまっては帰ってカッコ悪い気がするので平静を保つ、そんな感じで耐えていたら頬を膨らませながらポカポカと可愛らしい音が聞こえてきそうな感じで椎奈が俺の二の腕あたりを叩いてくる


(なんだ?この超可愛い生物は!)


『椎奈?』


『ずるいです。……これでは私は…………』


『何?』


『なんでもないです!さっ!行きますよ!!時間は有限なのです。』


そうしてプリプリ怒りながら玄関を出て外に出てはいるが俺のことを待っていて早く来いとばかりに手招きをしている、そして二人して少しだけ暗くなってきた空の下を歩く


『……仁くん』


『なんだ?』


『……叩いてごめんなさい』


『いいさ』


『お詫びに今日は仁くんの好きなものを作ってあげます。卵焼きとあと何か好きな食べ物ってありますか?』


『うーん難しいな、あっ!オムライスかな?』


卵付きの俺からすれば卵焼きと同等くらいに好きな食べ物だったりする


『オムライスですかいいでね♪…でも卵卵になってしまいます。あまり食べ過ぎは良くありませんし……』


『じゃあ卵焼きは月曜日のお弁当に入れてくれるか?』


『……月曜日と言わず明日にしませんか?明日行く予定のショッピングモールは、屋上に芝生のようなところがあったはずです。そこでお弁当を食べませんか?』


確かにあそこの屋上には芝生のようなところがあるしピクニック気分で食事をしている家族だったり‥カップルだったりをみるが……


『大変じゃないか?』


『大丈夫です!料理は趣味のようなものですし仁くんと食べるものと考えれば全然苦じゃありません』


胸の前で可愛らしくガッツポーズをしキラキラとした目で見つめてくる、なんだがここまでやる気に満ちた顔をされると悪い気持ちが逆に湧いてくるがこれを断ることは俺にはできんな


『じゃあ頼もうかな、でも無理はするなよ?』


『はい!じゃあ明日のお弁当の買い出しも一緒にしませんか?一緒に見れば他に食べたいものもできるかもしれませんし!』


『そうしようか』


『はい!』


🔸

『へいらっしゃい!!おっ?今日は椎奈ちゃんの当番なのかい?久しぶりだね!』


この間のとおりスーパーに行くものだと思っていたのだが、今日は八百屋に来ている、それにしてもいかにも八百屋のおっちゃんと言う感じのおじさんが出迎えてくれたが、前から知り合いのようだ


『お久しぶりです。今は当番ではないのです。』


『おん?そういえば後ろのにいちゃんはいったい……もしかして彼氏かい?』


『いえいえ、俺と椎奈はそんな関係じゃないですよ。俺が世話になりっぱなしなんです。俺の食生活を見かねて椎奈が料理を作ってくれているんです。』


『ムゥ……』


八百屋のおっちゃんに俺と椎奈の関係を説明したのだが椎奈が向くれてこっちを向いてくれない、てかさっきから地味にゲシゲシと足に攻撃を喰らっている


『椎奈?どうかしたのか?』


『……なんでもないです!おじさん今日はこれとこれとこれ‥あとこれもください』


『まいど!!しっかしあんちゃん、こんなに美人でいい子に世話してもらうなんて羨ましいぜー!大事にしなよ?椎奈ちゃんはこの商店街のアイドルだからな!もしなんかあったらここら辺の奴らから大目玉だぜ?』


『わかってますよ、ただでさえ椎名には助けてもらっているんですから大切にします。』


『…………もぅ』


『すげぇな…あんちゃん』


『ん?』


俺の中では当たり前のことを言ったつもりなのだが椎奈は何故か下を向いたままぶつぶつ何かを言っているし、八百屋のおっちゃんは微妙に白けた目を向けられてしまう……なぜ?


『椎奈?大丈夫か?次はどこに行くんだ?』


『……あそこのお肉屋さんです。……これははやくーーー』


『どうしたんだ?何か言ったか?』


『なんでもないです。はやく行きますよ!』


何か気に入らないのかまたしてもプリプリしながらすこしだけ離れた肉屋に向かうがよく見れば口角が少しだけ上がっているのでそこまで怒ってはいないとわかって安堵するが何におかったんだろうか?


『そういえば当番がどうとか言ってたけど買い物は当番制なのか?』


『そうですよ?基本は母か葉月さんのどちらかなのですが私の時もあるんですよ。』


『へー?そういえばあのおっちゃん椎奈のことアイドルとか言ってたな』


『あぁ……』


この話題になった途端視線を逸らし微妙そうな顔になる


『嫌なのか?』


『いやと言うわけではないのですよ?学校でよく知りもしない人たちから言われるより何倍も嬉しいです。でもアイドルと言われるのはちょっと……』


『ふーん、でもあの人もさっきから挨拶してくれてる人たちもみんな椎奈のことが好きなのが伝わってくるよ。いい人たちばっかりだな』


そうなのだ、さっき商店街に入った時から色々な人から挨拶をされる、主にと言うか全部椎奈にだが、みんないい笑顔で挨拶するか手を振ってくれている


『…そうですね!』


『じゃあそんな人たちの大切な椎奈をしっかりと守らないとだな〜?明日ははぐれないようにしろよ?』


『むぅ!!仁くん?揶揄ってますね?私は小学生ではないのですよ!はぐれたりなんてしません!それに、そんなに笑わないでください!』


またしても椎奈のぷっくり顔が見れて嬉しい反面その顔が可愛いやら面白いやらで自然と笑みが溢れてしまった


『はは、すまんすまん。おっ、あそこだろ?』


『話を逸らしましたね?』


『まっさか〜』


『もういいです!……明日のお弁当の卵焼きは無しですかね?』


揶揄われた恨みなのか俺にとっての最高の切り札を切ってくる、俺の焦った顔を見てしてやったりと笑っているが俺にとっては死活問題だったりする。


『ほ、ほんとうにすまない!許してくれ』


『何をしてくれます?』


『…………明日椎奈の言うこと一つ聞こう』


『え?それは‥なんでもと言うやつですか?』


『ああ、でも、俺のできる範囲でお願いしたい』


顔の前で手を合わせて必死に懇願する。ちらっと椎奈の方を見ればなんだか顔を赤らめてオロオロしているが……まさか


『……椎奈?』


『ヒャい!?』


『もしかして…………』


『違うのです!べべ別にこの機会に仁くんに普段してもらえないことをしてもらおうかなんて考えてないです!』


『俺は何も言ってないんだが…』


『はぅぅ……』


顔を覆い耳まで真っ赤にしながら反対側を向きしゃがんでしまう、と言うか……いったい何をお願いするつもりだったのんだ!?


🔸

とりあえず二人とも平静を取り戻し{椎奈はいまだに耳が真っ赤だが}肉屋にたどり着いたのだがケースを挟んだ向こうで恰幅のいいおばちゃんとその後ろの細いおっちゃんがニヤニヤしながらこちらを向いている


『あの……』


『いらっしゃい!!椎奈ちゃん!しばらく見ないうちにこんなかっこいいお兄ちゃんを捕まえてるなんてね〜!』


なんだがデジャブなんだが……


『あの恋人じゃないです。』


こうしてまた八百屋でやったようなやり取りを繰り返してやっと買い物ができるようになったが、さっきの八百屋より色々聞かれてしまいどっと疲れてしまった、今椎奈とおばちゃんは世間話をしている


『ご両親は元気かい?最近葉月さんがよく来てくれるんだけど、真由美さんは元気かい?』


『はい、全然元気ですよ!最近はお父さんの仕事の手伝いで少し忙しくしているんです。』


『はー、大変だね〜。また三人で来てくれよ?』


『はい!』


『お兄ちゃんもまた来ておくれ?』


『はい、また椎奈ときますよ』


普段から全くと言っていいほど料理をしない俺からしたら肉屋にくるなんで椎奈と以外ありえないだろうな


『……本当に付き合ってないんだよね?』


『そうですが……』


『ふーん?まぁいいや、ああ!これ持っていきな!』


そう言って袋を渡してくれるが中には二つの白い袋が二つ入っている上にほんのりとした温かみがある


『これは?』


『コロッケ!あったかいうちに食べなよ?』


『いいんですか?』


『いいのいいの!後ろのおっさんが椎奈ちゃんに会えたのが嬉しかったのかサービスしろって渡してきたんだから!遠慮せず食べてね!』


言われて奥の方を見ればおじさんが頭をかきながら手を振っている


『『ありがとうございます!』』


『うんうん!またきてね!』


こうして商店街での買い物は終わったが最後にあたたかい気持ちになれた


『本当にいい人たちだな……』


『はい…』

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