第32話 利寿の家

『てか、うちで飯を食って行ってくれとは言ったが……いいのか?』

『何がだ?』

浅羽さんのところで買ったもの{実質ほぼもらっただが}を手に持ち利寿の家に向かっている

『いや、椎奈さんに怒られないか?他のうちで飯を食って』

『さすがの椎名でも他の家で、それも知らない家でなく利寿の家なら何も言わないんじゃないか?』

『うーん、そう言うもんか?』

『お前はよくわからん心配をするな?』

『うーーん、お前がいいならいいけどさ、お!ここだ!』

そうこうしているうちに着いたようだ

利寿の家は左の方が通常の家となっておりその家から廊下続きで右側の方に少し大きめのユニットハウスが建っていた、どうやらそちらが美容室となっているらしい

『先に髪を切ることになってるからこっちゃこい』

そう言われてユニットハウスに入ると、観賞植物や可愛らしい人形やらが置いてある部屋が広がっていた。そして、入ってすぐ横にカウンターがあり、そこの椅子で本を読んでいる女性がいた

(……この人)

『おい!母さん!連れてきたぞ?俺の大親友戸条 仁だ』

『こんにちは、今日はよろしくお願いします。戸条 仁です。利寿さんとはよくしてもらっています。』

『やぁ、いらっしゃい。待ってたよ』

対応してくれる利寿のお母さん、長い茶髪を後で一本にまとめ口元にほくろと、かなりの美人だった、雰囲気的にはかなり静かなようだ。二人が並ぶと結構似ていて特に目がそっくりだった

『初めまして戸条くん、利寿の母の風間絢音かざまあやねです。息子から話はよく聞いているよ。こちらこそ利寿と仲良くしてくれてありがとう。』

『いえ、毎日利寿には助けてもらっています。』

『ふふ…そうなのかい?ぜひ学校での利寿の話を聞かせて欲しいな、この子なかなか学校でのことを教えてくれなくてね』

『だあぁあぁぁ!!!そう言うのは本人のいないところでしてくれ!俺父さんの手伝いしてくる!母さんあと頼んだぞ!』

目の前で自分の普段の行動が暴露されるのは恥ずかしかったのかものすごいスピードで家の方へと逃げて行った

『……じゃあ、始めようか。さっ、こっちに座って』

『はい』


🔸

『…それで?今日はどんな風にするんだい?』

『……それがまだよくわかっていないんですよ。いつも自分で少しすくくらいで、最近の流行りなんかもよくわからないんですよ。』

『なるほどね、じゃあこおいう風にして欲しいっていう漠然としたものでもいいから、何かないかな?』

(漠然とか……)

『……俺にはすごく綺麗で可愛くて、こんな俺とも優しく接して気遣いしてくれる友人がいるんです。実は明日その子と出かける予定があるんです。ですから彼女と一緒に歩いていて迷惑をかけないくらいになりたいと思っているんです。』

『…………君は、随分と自分を下に見ているんだね?』

『え?』

『君に今までどんなことがあったのかは、聞かないし聞けない。聞いても私には何もできないから。』

確かに…俺の気持ちを知っているのは俺だけだし、まだ、誰かに伝えられる勇気もない

『実はね?利寿は中学校まで友達があまりいなかったんだよ』

『え!?』

今の利寿を見ている俺としては到底信じられない言葉だった

『昔のあの子は、内気で話が得意じゃなくてね?簡単に言ってしまえばコミュ症だったんだよ』

俺の抱いている利寿のイメージは明るく周りをよくみて活気を出す、そんなイメージだった

『でも、高校に上がって少ししたくらいかな?とても嬉しそうに帰ってきたことがあったんだよ。あの時のあの子の顔はとってもキラキラしていてみているこっちが嬉しくなった』

(愛華のことだろうか?)

『そう、なんですか』

『理由を聞いたらね?あの子、「俺に友達ができた!」って報告してきたんだ』

『……それって』

『そう、君のことだ。私たち夫婦は君のことを利寿からよく聞いている、君がどんな人なのかをね。だからと言ってそれが全てだとは思わない』

確かに俺には利寿に見せていない部分、みられたくない部分がたくさんある

『けど私の息子だったりその女の子だったり君のいい部分をしっかりとみている子がいるんだ。だったらその部分を誇り磨いていきなさい、ダメなところなんてあって当たり前なんだよ?だからそんなに自分を卑下するもんじゃないよ』

『…はい、ありがとう……ございます。』

『うん!さてじゃあ私が勝手に切っちゃうけどいいかい?』

『お願いします。』


🔸

『……って感じて勉強を教えていたんです。』

『ふふふ、それはうちの息子が悪いことをしたね?』

『いえ、俺も椎奈も風花も楽しかったですから』

『そうかい、さっ、できたよこんな感じでいかがかな?』

鏡の中には今まで少し暗い印象だったが明るくさっぱりとした感じで自分で言うのもなんだが見違えた自分がいた

『さっきから思っていたがなかなかイケメンじゃないか、君』

『そうなんですかね?』

『あぁ、これなら明日の相手がどんな子かはわからないが全然大丈夫だと思うよ?』

『なら安心です。』

『うん、そのいきだ』

俺の感想に満足したのか大きく頷き片付けに入っていた

『お昼食べて行ってくれるんだよね?』

『はい、利寿から言われていたのでご馳走になります。』

『そうかい、じゃあ一旦出てあっちの玄関から入ってくれるかい?この片付けが終わったら私もすぐに行くから』

『わかりました』

言われたとおり外に出て玄関へ向かう

ピンポーン

『はいよー今出るぜー』

ガチャ

『お!いい感じじゃないかさっぱりして明るい感じだ。さっすが母さんだぜ』

『あぁ、俺も気に入ったよ』

『そっか!そいつは何よりだぜ、さっ上がってくれ父さんが待ちくたびれてるんだ』

『あぁ』

こうしてリビングの方へ通されて中へ入ると色々な料理が並んでいた、そしてそのテーブルの椅子には本を読みながら待っている人がいた。少し長めの髪をまとめ肩にかけている少し線の細い男性がいた

(絢音さんの時も思ったが雰囲気があまり利寿とは似ていないな。でも昔から変わったって言ってたしその頃なら似ているのだろうか?)

『いらっしゃい、君が仁君だね?さっ!遠慮なく座ってくれ』

『父さん挨拶挨拶』

『おや!これは失礼した。私は風間琉夜かざまりゅうやです。息子がお世話になっているようで』

さすがと言うべきか夫婦で言うセリフがほとんど同じだった

『いえ、こちらこそ』

一通りの挨拶を済ませて椅子に座る、しばらくしたら絢音さんもやってきた

『おや、ご馳走だね早速いただこう』

『よし!それじゃ!』

『『『『いただきます』』』』


🔸

『二人はどん風に知り合ったんだい?』

食事をしてしばらくすれば琉夜さんにそんなことを聞かれる、確かに利寿から話しかけてくれていたが明確に仲良くなったのはいつだろうか

『そりぁーあの時だよな〜!』

『え?あの時?』

『ええ!?覚えてねぇの?オラァ悲しいぜ〜』

『す、済まん!今思い出すから!』

(いつだ!?全く覚えてないぞ?)

『なんてな!いいんだよ思い出さなくて』

『え?でも』

『いいんだよ、俺からしたらいい思い出ってだけでお前にとってはその行動が当たり前だってだけなんだよ。俺は俺はお前のそを言う無意識な優しさが嬉しいんだよ。』

『利寿……』

『……やめやめ!ほら!そんなことよりどんどん食え食え!』

『…ありがとな』

親の前でシリアスな雰囲気になったのが恥ずかしかったのか顔を少しばかし赤らめて俺の皿にどんどん料理を乗せていく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る