第28話 電話

🔸

放課後のチャイムと同時にスマホで椎奈に玄関で待つように連絡を入れる

『利寿今日は途中まで一緒に帰ろう』

『別に構わないけど、椎奈さんは大丈夫なのか?護衛になるんだろ?』

『ああ。だが、下手に二人っきりになって刺激して暴走されても困るからお前らと一緒なら多少騒がれないだろ、前からのメンバーだし』

『なる!じゃ行こうぜ!思えば帰りが揃うのなんてなかなかないしな!』

そうして帰りの支度を済ませ玄関に向かう

『おっ?きたきた、おっそいぞー』

『え〜?これでも早くきたんだぜ?多めに見て?』

『うーむ、許す!』

ついてそうそう利寿と愛華の茶番劇が繰り広げられる

『もう、愛華さん?意地悪を言ってはいけませんよ?私たちだってさっき来たばかりじゃないですか』

『えっへへ〜めんごめんご?』

『うむむ、ゆるそう!』

さっきと逆の立場で同じことを言っている

『ところでみんなで帰ろうなんて珍しいですね?』

『だよねー?でも、楽しそうだからオールオッケーだよ!』

椎奈たちには変に気を遣ってほしくないので黙っておくことに決まったのは内緒だ

『そういえば風花さんがいないな?どうしたの?』

『ああ、風ちゃんなら雉撃ちに行ったよー』

『そりゃー男だろ』

『おっ!仁よく知ってるね!』

『むしろなんでお前が知ってるんだよ。勉強できないくせに』

ほんと、なぜこんな知識はあるのだろうか?そのリソースを勉強の方に向けて欲しい

『ムキー!言ったなー!明日のテスト見てろよ!』

『はいはい、頑張りなさい頑張りなさい』

煽る形になってしまったがこのくらい言っておかないとやばそうだこいつかいい点を取ったところでいいことしかない

『仁くん仁くん』

などと考えていると傍から椎奈が裾を引っ張っている

『どうした?』

『雉を撃つってどう言う意味です?男性とは?』

『…………あ〜〜、今度愛華から聞いてくれるか?』

『ん?分かりました』

『お待たせいたしました。みなさん仲良しですね♪』

全員揃ったので下校する


🔸

『みんなは明日午後どうする?』

帰り道、明日のテストの話からそんな質問が愛華から出てくる

『勉強』

『ですね』

『私もです。』

『そうだけど、そうじゃなくて!明日の午後、テスト2日目の勉強みんなでしない?』

『おっ!いいねー!』

確かにそれなら勉強嫌いの二人もやる気を出しそうだ

『俺は別に構わないぞ』

『仁くんがいいなら私も大丈夫です。』

『私は…聞いてみないとわかりません』

『了解だよ〜。じゃあまた明日ねー』

『ああ、ちゃんと勉強しろよ?』

『ヘイホーい』

一番最初に愛華が帰って行った、その後利寿とも別れ風花も道が違うので別れた

『急に静かになってしまいましたね』

『そうだな。でも椎奈とこうして静かに話すのも好きだよ』

愛華と利寿がふざけそれに俺がつっこみその光景を椎奈と風花が笑い合うのも確かに楽しいが、椎奈と二人で何気ない話で笑い合う静かな時間も確かに好きなんだ

『……私もですよ』

『椎奈?』

『はい?』

『今日はうちのことはいいからゆっくり休んでくれ』

今日のことから椎奈を気遣い休むように言ったら椎奈が明らかに落ち込んでしまった

『どうした?』

『…わ、私のお世話はお節介でしたか?』

『そんなことはない!ありがたいし嬉しいさ、椎奈と一緒にご飯を食べるのは俺の楽しみだよ』

『では、なぜ?』

『今日怖い思いをしただろ?だから安心できるところでしっかり休め、じゃないと明日に響いてちゃんと実力が出せないかもしれないだろ?』

(ここで引き下がってくれると助かるんだが)

『いやです!前も言いましたが仁くんの世話は私の楽しみでもあるんです。ですからちゃんとお世話をさせてください!』

椎奈の性格上引き下がらない気はしていたがやっぱり予想通りだった

『しかしだな?』

『…それに、私は仁くんのお家にいるのも安心できるのです。ですから…』

『わかったよ。ただし今日は如月家に帰ったらちゃんとすぐに休むんだぞ?じゃなきゃダメだ』

『はい!わかりました!』

結局椎奈に押され敗北してしまったのだった


🔸

『すぐに準備しますから待っててくださいねー』

『ああ』

椎奈がキッチンで料理をしている最中に机の片付けを済ませておく

(にしても本当に椎奈のエプロン姿は様になってるな)

ピリリリピリリリ

机に座りひと段落したタイミングで利寿から電話が入った

『どうした?』

[いや何大丈夫だったかと思ってな?]

心配になりわざわざ連絡してくれたようだ

『大丈夫だ、何もなかったよ』

[それはよかったぜ、で?椎奈さんはちゃんと送ってったか?]

『いや、今俺の家で料理してるよ』

[……ええ〜、お前今日くらいちゃんと休ませたほうがいいんじゃないのか?]

利寿の言ってることはごもっともだった

『俺もそう言ったさ、でも』

[押し切られたわけね、まぁーいいさ元気そうならそれで。じゃぁもう切るぜー]

『ああ、心配してくれてサンキューな』

[なんのなんの!じゃぁまた明日な]

『ああ、ちゃんと勉強しろよ?』

[わかってるってー]

(こいつ本当にわかってるのか?)

利寿の態度からは疑わしかった

『どなたからです?』

『利寿だよ明日のことで電話』

『そうでしたか、さっ!できましたよ、食べましょう』

『ああ、ありがとう。今日も美味しそうだ』

『そう言っていただけると嬉しいです。では』

『『いただきます。』』

今日も椎奈の最高の食事に舌鼓を打ちつつ楽しい夕食の時間は過ぎて行った


🔸

『忘れ物ないか?』

『はい大丈夫ですよ』

片付けを済ませ椎奈を送っていくため家を出る

『仁くん』

『なんだ?』

『改めて今日はありがとうございました。』

『…いいんだよ友達を、それも女の子を助けるのは当たり前なんだ』

気にすることはないと言うことを言ったら首を振って否定されてしまった

『当たり前じゃないです。世の中には友達でも女の子でも助けようとしない人もいます。』

『それは』

『それに、私はお昼のことだけを言っているのではないのですよ?』

『そうなのか?』

『はい、仁くんは私のことを気にかけて休むように勧めたり私のわがままにも付き合ってくれて…そんなところもとっても嬉しかったのですよ』

『そう、か』

『そうですよ』

そんな会話をしているうちに椎奈の家の前についてしまった

『今日も寄っていきますか?』

『いや流石に今日は帰るよ、明日の最終確認をしないといけないからな』

『そうですか…じゃあ今日はこれでお別れですね。』

『……椎奈、これを』

『……?』

椎奈の広げた両手に銀色のあるものを乗せる

『っ!仁くん、これ!』

椎奈の手のひらにあるのはうちの合鍵だった

『本当は昼に渡そうと思ってたんだが色々あって忘れてたんだ。まぁ、俺が遅れて帰ることもあるだろうし、何かあった時の避難場所にしてくれ』

『ですが』

『受け取ってくれ、椎奈だから渡すんだ。遠慮せず使ってくれ』

『ずるいです。そんなこと言われたら断れません』

『それが狙いだからな』

『…やっぱり仁くんはずるいです。わかりましたお預かりします。』

『ああそうしてくれ、じゃあまた明日』

『ええ、また明日』


『ふぅー、ちゃんと受け取ってもらえてよかった』

本当は受け取ってもらえるか内心ドキドキだったがちゃんと受け取ってもらえたことに安堵する。とりあえず明日の準備を済ませ勉強を開始しようとしたところで着信音がなった

『なんだ?こんな時間に』

表示画面には珍しい人の名前があった

『……急になんだよ親父』

[……おい、親父じゃないだろ?]

『っ!』

どすの利いた声に少しビビってしまう

[親父じゃなくて……パパだろ!?パパと呼べ!]

これなのだ、うちの親父は声色が低く怖いのにノリがかなり軽くいまだにパパ呼びを強請ってくる

『親父、俺もう高校生だぜ?てか、パパ呼びしたことなんてないだろうが』

[いや!俺はまだお前のパパ呼びは諦めないぞ!]

『頼むから諦めてくれ。で?急になんだよ俺、明日テストで忙しいんだが?』

[いやなに、可愛い息子がどうしてるか気になってな]

『……ちゃんとやってるよ、成績も維持してるし生活もちゃんとしてる』

[…ならいい、ところで雅美から聞いたが女の子に食事の世話をしてもらってるんだって?俺の提案は断ったのに?]

一人暮らしする上で親父の提案を断固として拒否していた俺に意地悪く言ってくる

『断れなかったんだよ、でも今となっては感謝してるよ』

[…そうか。なぁ仁、もう大丈夫なんじゃないか?]

『…………親父、俺はまだ決意ができていないんだよ。俺に、そこまでの価値や自信を見出せないんだよ。情けないことを言っているのはわかってる』

[仁…]

『俺は親父や母さんのやってることを誇りに思うし憧れてもいる、だからこそこんな気持ちで簡単に継ぎたいなんて言えないんだ』

[……そうか。なら好きにしなさい、だがこれだけは覚えておけ?俺も雅美もお前の幸せを考えている、無理強いはしないし提案も極力しない。でも手助けならいくらでもする。いつでも相談しろよ?]

『ありがとう親父』

[ああ…………それと、パパな?]

『切るぞ?』

俺の尊敬の気持ちを返してほしい最後の最後に台無しだ

[ははは、じゃぁ元気でな、今度友達やその女の子も連れてこっちに帰ってきなさい雅美も会いたがってたぞ?]

『わかったよ、おやすみ』

[ああ、おやすみ愛する息子よ]

ピッ

(すまない親父……)

心に残る過去と親への罪悪感で胸が少し苦しくなり勉強に没入していくのだった

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