第16話 まるで……

🔸

『さてまずは何から買うんだ?』

『そうですねまずはお野菜からみましょうあとお肉そのあとで必要な調味料の順番で回りましょうか他にも食べたくなったものがあれば行ってください』

『わかったよでも俺だけじゃなくて椎奈もな』

『はい!』

そうして二人でスーパーの中を見て回り始める、野菜の厳選をする椎奈の目線は真剣そのものだ

『野菜を選ぶのにすごい真剣だな、何か違いがあるのか?』

『そうですね、大きさだったり色だったり色々です』

『すごいな、誰に教えてもらったんだ?』

いくら椎奈でもそこまで自分で勉強したというわけでもないだろう

『お母さんと葉月さんですねお買い物に行く時はよく教えてくれるんです。そしたら自然とそうなっていまして』

家政婦の葉月さんはともかく和世さんまでそんなに目利きの知識があったとは少しだけ意外だ

『そういえばなんで葉月さんを雇ってるんだ?椎奈も和世さんも家事ができないどころか得意だろ?』

『ああ、それはうちってそれなりに広いでしょ?ですから手が回らないところをやってもらったり手伝ってもらってるんです。』

『なるほどな』

確かにあの広さの家を得意とはいえ二人でしかも椎奈は学校もあるわけだから手が回らないのも納得だ

『さて、では次はあっちです!』

楽しそうに次の目的のものを取りに行く椎奈とはべつの方向で話し声が聞こえた

〔いいわねー高校生ぐらいに見えるけどあんなに仲良くお買い物なんて〕

〔そうね〜、私も旦那とあんなふうに買い物したわ〜懐かしい〕

〔そうね、初々しくて可愛いわね〜〕

奥様方の井戸端会議に俺たちが上がってしまったようだ、彼氏彼女の関係ではないのだと言ってやりたい

『…仁くんどうしたのですか?』

『いや、なんでもないよ行こう』

とりあえず奥様方から離れることにする


🔸

『仁くん重くないですか?私も半分持ちますよ?』

『いやこれぐらいだったら全然大丈夫だよ』

俺の両手にはそれなりにパンパンの袋があった、でもこのぐらいの重さであれば全

然余裕だった

『でも、申し訳ないです』

『そんなことはない、これから料理をするんだからこれぐらいはな、それに俺は鍛えてるからな余裕だよ』

実際師匠の訓練に比べれば余裕だったりする

『そうですか?でわお言葉に甘えます。肉じゃが楽しみにしていてくださいね!』

『ああ、椎奈の料理は美味しいからな、楽しみだ』

二人で少し暗くなり始めた道を歩いていたら椎奈がだんだんソワソワし始めた

『椎奈?どうかしたか?』

『い、いえその実は…仁くんに聞いてほしいことというか、お願いがありまして』

椎奈とはまだ短い間しか付き合いはないがお願いは少し意外だった 

『お願い?どんな?』

『その‥テストでいい点を取ったらお願いしたいことが』

『ん?別にいいがどんな?』

『…いい点を取ったらお教えします』

『そうか』

椎奈の成績を聞けばいい点数を取るのは簡単だろうが椎奈にはだいぶ世話になってしまっているから椎奈の願いならある程度は叶えてやりたい

『わかったよ、頑張ろうな』

『はい!』


🔸

『では、早速作りましょう!』

『ちょっとまて、その前にやることがあるだろ?』

家につき早速料理に取り掛かろうとした椎名を止める

『…?ああ!手洗いうがいですね忘れるところでした』

その言葉にがっくりとしてしまう

『違う!まず和世さんに連絡だ!』

『はっ!そうでした』

(椎奈ってだいぶ天然入ってるよな)

カバンからスマホを出して電話をかけ始める椎名を見てそんなことを考えてしまう、実際天然なのだが

『…もしもし?お母さん私です。実はまた帰るのが遅くなりそうでして……ええ、ええ……すごいです。よく分かりますね』

なんだか会話が変なのだがスピーカーにしているわけでもないのでわからない

『はいわかりました、ああそうです仁くんからお話があるそうです。仁くんどうぞ』

そうして椎奈からスマホを受け取り和世さんと話し始める

『もしもし仁です。あのですね』

[仁くん大丈夫よ大体わかるわ、娘が強引でごめんなさいね〜でも私と葉月さん仕込みで腕は折り紙つきだから安心してね]

さっきの会話から椎奈は遅くなるとしか言っていないし俺に至っては何も言っていないのに椎奈が料理をしてくれるのを把握しているようだ、どうやったのだろうか

『は、はいそれで遅くなるようなので報告を、それと帰りはちゃんと送りますので安心してください』

[ありがとう仁くん…ところで食事代はどうなっているの?ま、さ、か、仁くんが全部はらっているなんてことはないわよね〜]

『いや、あのですねそれはちゃんとした理由が、椎奈に作ってもらうわけですから食費ぐらいは』

さすが椎奈の母親だ、実際会計の時折半だ全額だと少し揉めてしまったが周りの人が見てるからと押し切ったのだがほんとなんでわかるのだろう

[仁くんダメよ?いくら娘が作ると言っても作る場所は仁くんのお家なのでしょ?それも含めるのだからお金は受け取ってね]

『ですが…』

[娘にお金のことはちゃんとしようと言ったのは仁くんでしょ?ならちゃんとしましょ?]

グゥの根も出ないまさにそのとうりだった

『……わかりました』

[よろしい!じゃあ娘のことよろしくね〜]

(本当に和世さんの洞察力は凄まじいな)

『終わりました?』

『ああ、折半になった』

『当然です!しかし自分の母ながらちょっと怖かったです。』

確かに何も話していないのに全て知られていたのは驚きおこして怖かった、俺の家にカメラや盗聴器でもあるのだろうか

『では本当にそろそろ始めましょうこれ以上遅くなると大変です。』

『頼むよ、エプロン必要ならそこにかかってるやつ使ってくれ』

指差した先にはピンクの花柄のついた可愛らしいエプロンがあった

『……男の子にしては可愛いらしい趣味ですね?』

『違う!俺のじゃない、前に母さんが来た時に置いていったんだ決して俺のじゃない、まぁいいやそれより何か手伝うか?』

『では、デーブルのセッティングをお願いします。キッチンは危険ですので』

別に小学生というわけでもないのだから別に大丈夫だがここで変に手伝うと返って邪魔になりそうだったので大人しくテーブルに向かう

『わかった、じゃぁついでに今日やってた椎奈のノート少し手直しとアドバイスとか書き込みしてもいいか?』

『いいのですか?!ぜひお願いします!仁くんがそんなことをしてくれるのならよりガンナアハって作ります!楽しみにしてくださいね?』

食材を出して調理を始める、うちの台所で俺の母のエプロンを使って料理をしているところを見ると変な気持ちになる

(利寿じゃないが本当に新妻みたいだな)

『仁くん?どうかなさいました?』

『!いや、なんでもないよ』

(いかんいかん変なこと考えるな椎奈に悪いだろ!)

自分の中にある邪念を取り払い教科書や参考書が散乱したテーブルを片付け始める


🔸

『仁くーん!できましたよ!配膳手伝ってもらってもいいですか?』

『ああ、今行くよ』

椎奈が料理をしている間にノートの手直しと直接書きオムわけにもいかなかったので付箋を使いアドバイスなどを書き込んでいった自分のノートでよくやることだったので結構簡単だった

『うお!めっちゃいい匂いだしうまそうだ!』

『そう言ってもらうと私も嬉しいですさぁ冷めないうちに食べましょう!』

『ああ、それじゃ早速』

『『いただきます』』

リクエストしていた肉じゃがから手おつけてみる

『うまい!』

よく味の沁みた野菜たちに肉の旨みがよく馴染んでめちゃくちゃうまい、ご飯がとても進む、汁物も絶妙なバランスで飲んだだけで落ち着く味だ

『椎奈、とっても美味しいよ』

『ふふふ、美味しそうに食べてもらえて作った甲斐があります。たくさん食べてくださいね?』

『ああ、しっかしこんなにうまいなら毎日でも食べたいよ、なんてな』

冗談のつもりで軽い感じであったのだが椎奈は大きく目をぱちくりとしていてかなり驚いている

『椎奈?冗談だぞ?そんな毎日なんて普段になるようなこと言わないぞ?』

『わ、わかっています!べべべ別に勘違いなんてしていませんよ?』

『そうか、ならいいんだ』

椎奈なら冗談抜きで本当に来そうな気がする

『と、ところで道場の日っていつなのですか?』

確かに道場の日取りなどは特に言っていなかった

『あ〜実は俺の行ってる道場って不定期でな、あっちから声がかかるか俺がやりたいって言わないとやらないんだ』

『そうなのですか?なら連絡がくるか行きたくなったら連絡してくださいね?忘れたらダメですよ?』

『ああ、わかったよちゃんと連絡するよ』

俺の返事に満足したのかまたご飯を食べ始める

『そうです今度私も行ってもいいですか?』

『道場に?』

『そうです。どんなことをしているのか少し興味あります!』

椎奈に転がり回されているところを見られるのは男としていかがなものか

『……だめ、ですよね部外者の私が行くのは‥』

『そんなことはないよ、でも椎奈にカッコ悪いとこを見せたないだけだよ』

『一生懸命やっている人のことをカッコ悪いなんて思ったりしません!』

『わかってるよ、念の為今度師匠に大丈夫か聞いてみるよ』

『はい!お願いします』

(もう一つ椎奈を連れて行きたくない理由があるのだが…まぁいいだろう俺が言えばいいだけだな)

一抹の不安を残しながらも、椎奈の笑顔を見てどうでも良くなるのだった

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