第14話 山脈と平原
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『待たせた愛華はコーヒーで利寿もコーヒーにしたがにしたがいいか?』
『おう大丈夫だ』
『よしじゃあ続きをやるぞ』
利寿がやっと来て飲み物も用意したところで勉強を再開させる、はずだったのだが
『シイちゃん、なんだかご機嫌だね?飲み物入れてる時にいいことでもあった?』
『ふふふ、実はですね?仁くんのお夕飯をお作りすることになったのですよ』
椎奈の発言を聞いて俺の方を同じようなジト目で見つめてくる二人、説明しろとでも言いたげだ
『ちゃんと説明する。実はだな、俺が家での食事を惣菜やらインスタントやらで済ませてるのがバレてな、それを見かねた椎奈が健康管理に、道場がない日に作りに来てくれることになったんだ』
さっき会った会話をかいつまんで二人に説明する
『なる〜、でもそれってシイちゃんの負担大きくない?大丈夫?』
『はい、家事は結構好きですし得意なんです。二人分を作るのなんてへっちゃらです!』
そう言って見事な山を張り上げる椎奈、意識しないようにはしているがこれは男の性なので許して欲しい
『仁くん?どうかなさいましたか?』
『な!なんでもない…』
『でもそれってなんだか通いづ……むぅグゥ』
『それ以上言っちゃぁいけないよ』
愛華が何を言おうとしたのかはよくわからなかったが急にヒソヒソと話し始める、本当に仲良しだ
『それにしてもいいなーシイちゃん、私も料理できたらなー』
『私がお教えしましょうか?』
『ええ!いいの?!ぜひお願い!利寿と仁は味見役ね!』
キラキラとした目で椎奈の提案を受けて俺たちを巻き込む
『味見役じゃなくて毒味役だろ』
『違いない』
俺と利寿の意見は完全に一致し利寿は食べたことがあるのか青い顔をしている
『む〜、二人とも酷い!見てなさい、すぐにシイちゃんと同じくらいのものを作れるようになるんだから!』
椎奈と同じように胸を張って主張するが、残酷なことにこちらは主張しても平原だった、悲しきかな
『……仁、歯ぁ食いしばりな』
俺の胸ぐらを掴み片手をグゥの状態で待機させ低い声色で俺を脅しにかかる
『ち、ちょっと待て!俺何も言ってないぞ!』
何が思いはしたがそれで殴られるのは理不尽だ
『言ってなくてもその態度と哀れみの視線が物語ってるんだよ。さぁ、歯ぁ食いしばりな、それともこのことシイちゃんに言う?』
そこで椎奈の名前が上がりそちらを見ると俺と愛華を見てオロオロしている
(この件が火種でさっき椎奈のことを見てたことがバレるよりましか)
『………せめてパァーでお願いします』
『…いいだろう』
パァーン!
俺の家に乾いた音が反響する
🔸
『いっつつ』
『仁くん大丈夫ですか?』
俺の顔にできた紅葉を見て心配そうにする椎奈
『急にどうしたのかと思うましたよ、本当になぜこんなことに?』
ここで椎奈と愛華の貧富の差を比べたなどと言ったら愛華に今度はグゥで来られるだけでなく椎奈にも何されるかわからない
『…俺の名誉のために聞かなかったことにしてくれ』
『はぁ…?わかりました聞かないことにします』
『さて、休憩もいいからそろそろ再開するか』
『はい、わかりました!』
『了解!』
『はいさー!』
それぞれ返事をして作業に取り掛かる、が早速愛華のペンが止まる
『どうした愛華、開始十秒で集中力が切れたか?』
『そんなんじゃないも〜ん、ねぇ仁ここってどもうやるの?』
どうやらわからないところがあり止まっていたようだ
『ここはだな…と、なるわけだ』
『オッケー!オッケ!理解しました!ありがと仁先生!』
本当に理解したらしくスラスラと続きを解き始める
『よし、よくできたな』
『どんなもんだい!』
愛華へ教えるのがひと段落すると椎奈がこちらをぼーっと見ていた
『椎奈?大丈夫か?どこかわからないところが…』
『い、いえなんでも‥ないです』
『そうか?いつでも聞いてくれよ?』
『はいありがとうございます』
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『ダァぁぁぁ〜!腹へったー!』
利寿のその文句に時計を見ると十二時を過ぎていた
『そろそろ昼にするか、どうする?』
『私が作りましょうか?』
『いや、知ってのとうりこの家には大した材料がない、そうなると買い出しだがそれだと食べるのが遅くなってしまう………出前でも頼むか』
『サンセー!』
『俺も!』
二人からの許可が出たので椎奈に視線を移すとキョトンとしている
『出前とはどのようなものを頼むのですか?』
『特に決まったものはないが定番といえばピザ?寿司は勘弁してくれ、あとラーメンとかカレーかな?』
『私、出前食べたことないので食べてみたいです!』
椎奈の家では葉月さんや和世さんがいるからわざわざ頼むこともないのだろう
『了解、じゃあとりあえずピザにするか椎奈が選んでいいぞ』
そう言って注文の画面を椎奈に渡すと、二人の意見を聞いていないことに気づき二人を見るとアイコンタクトで承諾を得る
『む、難しいです。どれが一番いいのでしょう』
『自分の食べたいのを選べばいいさ、なんなら一枚に四種類の味にもできるぞ?』
『そうなのですか?ん〜さらに難しくなってしまいました…』
椎奈の真剣に膝を選ぶ姿が微笑ましくてつい口元が緩んでしまう
〔みてよあのだらしない顔、あれ本当に仁?〕
〔な?いつもぶっきらぼうに返事したり会話して知らん奴にはあの鋭い目つきで話しかけるなオーラ出してるのにな〜〕
〔今の態度だったら少しは友達作りやすいだろうにね〜〕
いつのまにか二人がコソコソと話し始める
『どうした?お前らも選びたかったか?』
そう言うと椎奈がパッと顔を上げて少しだけ残念そうな顔をする、やっとまとまってきたところに一人で選んでいたことに気がついて申し訳なくなったのだろう
『違う違う別の話だから大丈夫だよシイちゃん』
それを聞いて明るく笑いコクコクと頷きまた選び始める
『で?何を話してたんだ?』
『ええ?いや〜その〜』
愛華は目が泳いでいてはぐらかすが利寿は少し苦笑いをして話し始める
『いやな?お前の椎奈さんに対する態度が少しでも他の人に向けばなと思ってただけだよ』
『………そうか』
俺の椎奈に対する態度が他の奴らよりいいのは俺でも自覚しているだがそれは椎奈が俺を友人として真摯に接してくれているからであって特別な感情は特にはない
『決まりました!』
少しばかり暗くなってしまっていた空気に明るい声が差し込まれる、椎奈のピザ探しの旅が終わったらしい
『‥?どうかなさいましたか?みなさん、もしかして待ちくたびれてしまいましたか?す、すみません不慣れで……』
どうやら空気の悪さを自分のせいだと思ったらしい
『椎奈のせいじゃないから落ち込むな、大丈夫だから、じゃあ決まったなら注文するか』
『よかったです、ではお願いします』
表情を明るくしてスマホを俺に返し注文を始める
🔸
『それで二人は班決まった?』
『…………ん?』
いきなりなんのことかわからない話を振られて一瞬フリーズしてしまった
『なんのだ?』
『も〜仁あれだよあれ林間学校だよ〜』
『あ〜そういえばこの時期か、あーこの間言ってたイベントってこれのことか、面倒だなー』
俺たちの学校では、五月のこの時期に全学年参加の林間学校がありその班の話なのだろう
(正直言ってかなりめんどくさい)
『去年はどうしたの?この時期だったらまだ利寿とも知り合ってないでしょ?』
『去年は五人班のとこにあまりで入って当日はほぼ別行動してた』
『…なるほどな、じゃあ今年は大丈夫だな!俺がいるのだから』
『はいはーい私もいるよ!一緒に行こうね!』
そう言って名乗りをあげる二人
『嬉しいが愛華は別クラスだろ?』
『え?仁人知らないの?うちの学校学年が同じなら別クラスでもいいのだよ?』
『え?そうなのか、椎奈知ってたか?』
林間学校については全く興味がなかったため知らなかった椎奈はどうなのだろうと気になり聞いてみる
『私も知りませんでした、あまり興味がなかったので』
『だよな』
『もう!二人とも枯れすぎだよ、もっと高校生をエンジョイしようよ〜』
講義しながら机に突っ伏す
『確か横のつながりをもっと広げようとか京子ちゃんが言ってた気がするが、まぁそれはいいとしてどうだ?二人とも一緒に班組まないか?』
俺と椎奈は目を合わせる、キラキラした目で見てくるため大丈夫そうだ
『お前らと一緒なら楽しそうだ』
『ぜひお願いします!』
『やったー!』
俺たちの承諾を聞いてガッツポーズをして跳ね上がる愛華と、にっこにっこの利寿
『ん?でも確かひと班五人だろ?どうする?』
『あ、そっか』
『うーん俺の友達は誘ったらなー』
(なるほどな、変なのを入れると確実に椎奈のことを意識し始めるだろうな)
いろいろ悩んでいると意外なところから声が上がった
『あの…私の知り合いを誘ってもいいですか?』
『椎奈の知り合い?友達か?』
『いえ、そこまでの間からじゃないのですが、本当にちょっとした知り合いでして』
聞いたところ家同士の繋がりがありそこで少し話し、偶然同じ学校ということらしい
『どうでしょうか?』
『いいんじゃないか?椎奈が推薦するなら問題ないだろう』
『私もいいよー』
『俺も俺も!で?どんなひと?』
全員が賛同して許可を出す、すると今度はどんなひとなのか気になるようだ
『……まず、一緒に行けるか確認してみます、大丈夫なようでしたら そうですね‥来週のどこかでお昼に誘ってみますその時に顔合わせってことでいいですか?』
『構わないよ』
『いいよー、どんな子なのか楽しみ!』
『今回の林間学校はちょー楽しみになってきたぜ!』
(確かにこのメンバーなら今年は楽しめそうだ………)
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