第12話 如月家で食事

🔸

『すまなかった!』


浅羽さんから逃げるためとは言えまたしても椎奈の腕を勝手に掴んでしまった


『大丈夫ですから謝らないでください』


『わかった、すまない』


『ほら!また謝ってますよ』


本当にわざとではないのだが何度も謝ってしまい怒られてしまう


『しかしすっかり遅くなってしまいましたね、ごめんなさいこんなに遅くまで連れ回してしまって』


『気にしないでくれ俺も服を買えたからなそれと、椎奈も謝ってるぞ?』


『私に非があるのですからいいのです!』


俺が言われたことをそのまま返すと頬を膨らましてそっぽを向き拗ねてしまった


『ふふ、そうだ家の人心配してないか?』


『大丈夫ですよ今日は遅くなってしまうと言ってありますからそれに仁くんと一緒と言ったら安心してましたよ?』


『そ、そうかじゃあ家まで送って行くよ』


もうあたりは真っ暗になってしまっているため女の子がしかも椎奈ほどの容姿の子が一人で帰るのはよくない


『しかし‥悪いですよ』


『椎奈女の子が夜道に一人はいけない、少し道を外れるだけですぐに帰れるから大丈夫だよそれに、椎奈は綺麗で可愛いんだから尚更心配なんだよ』


言い終わった瞬間椎奈が顔を伏せたまま俺の肩をバシバシと叩き始めたと思ったら両手で顔を覆ってしまった


『どうした?』


『なんでもありません!!…………卑怯です仁くん』


椎奈の言っていることがよくわからなくて小首を傾げていると椎奈の家に着いた

『じゃあこれで』


『仁くん上がっていってくださいお礼もしたいですし』


『いやしかし』


『いやですか?』


またしても悲しげな顔で俺を見上げてくるこの仕草に勝てる自信はもうなくなっていた


『わかったよ、少し寄らせてもらう』


『はい、どうぞ!』


俺から肯定の言葉が出た瞬間嬉しそうにはにかむその顔に俺の心臓は跳ね上がる


(勘違いするな、椎奈は友人として俺と関わっているんだだから勘違いするな)


🔸

ガラガラ


『ただいま帰りました』


『お帰りなさい、あら戸条さんいらっしゃいませ、奥様戸条さんがいらっしゃいましたよ』


前回来た時と同じように葉月さんが出迎えてくれるそして和世さんが出てくる


『いらっしゃい仁くんこの間ぶりね』


『こんばんは、和世さん遅くなってしまいすみません』


『いいのよ戸条くんがいるなら安心だしそれに遅くなるって聞いていたら さ、上がってちょうだい』


『お邪魔します』


🔸

『それで?今日はどこにデートしてきたのかしら?』


どうやら遅くなることは言っていたようだがどこに行くかは聞いていなかったようだ


『デートじゃないですよ、今日は椎奈の私服を買いに行ったんです。椎奈はあまり私服を持っていないとのことでしたのでそれにこの間のこともありますし俺がついていくことになったんですよ』


『…やはりご迷惑でしたか?』


俺の説明にしょぼくれてしまう、全く意図してのことではないのだがさっきの言い方では誤解を招いてしまうと気づいた


『すまない、そんな意図はなかったんだ俺も楽しかったんだから気にする必要はないよ』


『‥はい!ありがとうございます』


『なるほどね、でもそれなら時間がいっぱいある土日のどっちかにいけば良かったんじゃないの?』


『その土日に仁くんの友人の方達とお勉強会をする予定なのです。とってもいいお店を紹介してもらったのですよいい買い物でした店員さんも面白い方で』


『確かにいい店員さんだったなまた今度行ってみよう逃げてしまったお詫びもしないとだしな。それから椎奈、俺の友人じゃなくて俺たちのだろ?愛華と利寿が聞いたら泣き騒ぐぞ?』


『ふふ、そうですね愛華ちゃんも風間さんも私の友人です』


『そう、良かったわね。今度私も連れて行ってちょうだいね?』


俺たちの会話を聞き優しい笑顔で椎奈を見つめる和世さん


🔸

『ああもうこんな時間か、そろそろ帰ります』


時計はすでに七時半になろうとしていた


『あら夕食も食べていけばいいじゃない』


『そうですよ?ご一緒しましょう』


二人してニコニコした顔で見てくるどうやら家に誘った時点でこうなることを予想したのだろう、二人して息のあったように言ってくる


『でも食材は人数分しかないのでは?』


『旦那様が今日は帰れなくなったとの連絡が入りましたので大丈夫です』


(マジか、なんでタイミングのいい、いやこの場合悪いのか?)


『…でも時間が』


『仕込みは皆様の分済んでいますのですぐにお出しできます』


椎奈の父親が帰ってこないのを知っているのに俺の分も用意している時点で葉月さんもグルのようだ


『……食器が』


『お客様用のものがございますのでご心配なく』


完全に俺の逃げ道をブロックしてくる葉月さん、見事に俺の進路を塞いでくる手際に諦めたような顔になってしまう


『ふふふ、それじゃ作ってきますね待っていてください』


『私もやるわ、葉月さん戸条くんのお相手をお願い』


『かしこまりました』


椎奈も和世さんもキッチンの方に行ってしまい真向かいの椅子には葉月さんが座り俺のことをまっすぐに見つめる、葉月さんとはあまり会話がなかったので緊張してしまう


『戸条さんありがとうございます』


突然感謝の言葉を言われてしまいなんのことか全くわからなかった


『それは何に対しての感謝ですか?』


突然言われて少し戸惑ったが葉月さんの真剣な眼差しに何かを感じ取った、俺に何か聞いてほしい話があるようだ


『…お嬢様と友人になってくださったことです。お嬢様は中学校の時にあったとある件から暗くなってしまわれて友人もなかなかできず毎日つまらなそうだったのです』


『とある件…とは?』


『それに関しましてはお嬢様から直接聞いてください私の一存では申せませんので、しかし戸条さんのおかげでこの頃とても楽しそうで奥様や旦那様達も私も嬉しいのです』


さっきの感謝はどうも椎奈と友人になり椎奈が楽しそうにしていることへのものらしい


『分かりました椎奈に機会を見て聞いてみます、しかし椎奈と友人でいられるのは俺も嬉しいんですよ』


『そうですか……さて、別の話をしましょう戸条さんはコーヒーと紅茶どちらがお好きですか?』


さっきまでの固くなった空気を変えるような声色で話し始める


『…俺はコーヒーより紅茶派ですね、コーヒーも好きですけど』


『そうなのですか!それは嬉しいです私も紅茶が大好きなのですここの家の方々も紅茶をお飲みになりますが皆様コーヒー党でしてなかなか力量を発揮できないのですよ』


話を聞くと葉月さんは紅茶が大好きらしく休日もわざわざ専門の店に行き茶葉を注文して買い自分の家で特製ブレンドの研究をしているのだそう


『ぜひ飲んでみたいですね、とても美味しそうです。俺も母の影響ですがとっても紅茶が好きなので』


『でしたらお嬢様のお造りになるお弁当におつけしますよ冷えても美味しいものも研究しているんです』


紅茶党の同志として味わってもらいたいようで、少し興奮気味に迫ってくる俺もぜひとも頼みたい気分だったが…


『すみません葉月さん、嬉しいのですがそれだと椎奈の負担になってしまうのでまたきた時に良かったらご馳走してください』


『…そうですね分かりましたその機会を楽しみにしております』


葉月さんと紅茶の話で盛り上がっていたらどうやらできたようでとてもいい匂いが伝わってきた


『できましたよー さ、いただきましょう』


そう言ってテーブルに並べられる料理を見るとても美味しそうな品々が並んでいる

『遠慮せず食べてくださいね、おかわりもありますから』


『ああ、ありがとうそれじゃ』


『『『いただきます』』』


一口食べるごとにご飯が進み味噌汁も完全に俺の好みの味噌とその濃さでずっと飲んでられるようだった


『おかわりをお願います』


『ふふ はい、どんどん食べてくださいね』


失礼かとも思ったが美味すぎてご飯をおかわりしてしまった結果、如月家の料理はとてつもない美味さだった


『さっきは随分と葉月さんと話が弾んでらしたけど何をお話していたのですか?』


葉月さんが食器を片付けてくれている間椎奈からそんな質問がきたしかし困ったことに椎奈の話をしていたなんてとても言えなかった


(椎奈のことは言わない方がいいだろうし、まだ聞かない方がいいと思う)


『…ああコーヒーと紅茶どちらが好きかってね、俺も紅茶が好きだから意気投合してね、それでどんなものを飲むのかとか、どう言った茶菓子が合うかなんかを話して盛り上がっていたんだ』


(嘘は言っていない、ちゃんと話した内容だ)


『へー、戸条くんは紅茶派なのねコーヒーはダメなの?』


『いえどっちも好きですが紅茶の方飲む頻度が多くてが好きなんです』


『なるほどね、じゃあ次来たら葉月さんに入れてもらうといいわ、葉月さんの紅茶はとっても美味しいんですよ』


『ええ、さっき約束しましたよ葉月さんの特製ブレンドの紅茶を飲ませてくれると』


『あら、手が早いのね♪』


不穏な言葉を言ってウィンクしてくる、動作は可愛いのに言ってることが可愛くない


『ならそれに合うお茶菓子は私が作りますね!』


今からその時が楽しみだというような顔でどんなものにしようか考えを巡らせている


『椎奈はお菓子作りも得意なんだな』


『はい!お料理もお菓子作りも両方好きです』


食後の団欒を楽しみ時間はどんどんと過ぎていった


🔸

『じゃあ俺はこれで』


『ええまたいらしてちょうだいね?』


『仁くんまた明日、おやすみなさい』


『はいまた伺います。じゃあ椎奈また明日に、おやすみ』


(本当にいいことばかりの日だった)


星の輝く空を眺めそんなことを思うのだった

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