第6話 行動すること
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『さて、この件はいいとしてあなたたちの馴れ初めを聞いてみたいわ、あの話し方からして傘を貸したことが初めてじゃないんでしょ?』
俺が如月の顔に見惚れていたらそんなことを言い始める和世さん、その顔はイタズラを仕掛ける子供、または恋バナを楽しむ女子高生のようで、とても楽しそうだ
『あの和世さん』
『何かしら?』
『俺たちは別に付き合っているわけではないので馴れ初めというのは…なぁ?如月、如月?』
横の如月を見ると、ぷくぅと頬を膨らませ「私は不満があります」という感情をありありと表していた。
『き、如月?どうした?何かあったか?』
『…………それです。』
『どれだ?如月』
『だからそれです!なぜお友達の私は苗字なのにお母さんは名前呼びなのですか!』
どうやら俺が和世さんのことを名前呼びにし如月を苗字で呼ぶことにおかんむりのようだ
(確かに区別のためとはいえ、よくなかったかしかし)
『呼んでいいのか?』
『呼んではくれないのですか?』
悲しみの顔を全面に出しているが目の奥では期待の感情を見せている
『し、椎奈』
名前を呼ぶとパッとこちらを見る椎奈、その顔は驚きの顔からだんだんご機嫌になっていき満面の笑みで
『はい!戸条くん!』
俺の名前を呼ぶ、俺の顔は今とてつもなく赤くなっているだろう
(これはやばい名前を呼ぶだけなのにめっちゃ恥ずい。…そうだ)
俺だけ恥ずかしい思いをするのは不公平だと思いイタズラを仕掛けることにする。
隣で満面の笑みをこぼしている椎奈に仕掛ける
『俺は名前呼びなのに椎奈は俺を名前で呼んでくれないんだな』
『え?』
満面の笑みからまた驚きの顔になり次第に耳まで真っ赤に染める椎奈
『じ、じ、じじ、仁くん』
『っ!』
イタズラのつもりで本当に呼んでもらえるとは思わず面食らってしまい間抜けな顔を晒す俺、その俺を少し涙目になりながら見つめてくる椎奈
『椎奈』
『仁くん』
二人して互いの名前を呼び合い見つめ合う俺たち、そこで視線に気づく
『あら、私のことは気にせず続けて♪』
『『〜〜〜〜!』』
二人して声にならない悲鳴をあげる
🔸
『なるほどね〜、そんな経緯があったなんて戸条くん改めてありがとう、それにしてもやるわね!今どきの子供にしては素晴らしい行動力だわ』
『はい、知りもしない女の子を助けに入るなんて好感が持てます』
俺と椎奈が出会った最初の経緯を話すと、純粋な褒め言葉をくれる和世さんと葉月さんここまで真っ直ぐ言われてしまうと…
『いえ本当にただの気まぐれだったんです。いつもの俺はそんなところを見ても誰かがやってくれる、俺は無関係と思って関与しないような男なんです。ですからそんなに褒めてもらうようなことは‥』
実際に俺は人と関わることに抵抗を持っている、あのことがきっかけではあるがそれでも‥誰かに褒めてもらうような人間じゃない
『仁くん、あなたは自分をとても低く見るのね確かに困っている人を無視する人はたくさんいてよくないことだけど、あなたはその中でも行動を起こしたそれが気まぐれだったとしてもいいのよ』
子供を諭すように、理解させるように真剣にそれでいて優しく、包み込むような声色で話してくれる和世さん
『でも今まで俺は』
『それこそいいのよ、今まであなたは行動を起こさなかったでも今回は動いたそれはいわゆる、成長しているっていうのよ。あなたは人を助ける成長をした、だからそこまで自分を卑下することはないのよ?』
和世さんの話は俺の心にあったしこりをスッと取ってくれた
『そうですよ。どんな経緯であれ私は助けられたんです。それに前にも言ったじゃないですか、忘れてしまったんですか?』
そを言われ喫茶店で言われたことを思い出した
『今ぐれだろうとなんだろうと動くことに意味がある、だったな…』
『ちゃんと覚えているじゃないですか、偉いです♪』
『……ありがとうございます。』
🔸
『それで?助けてもらってからどうしたの?椎奈のことだから借りは作りたくないなんて言ってその場で返そうとしたと思うんだけど?』
さすが母親ということなのか椎奈の行動をちゃんと把握しているようだ
『はい、お礼に喫茶店に入ってお茶を奢ってもらいました。』
『あら、どこの喫茶店?』
『すみません店名を忘れてしまって、あ、でも椎奈知り合いだったよな』
『はい。間さんのところです。』
『あら、間さんのところ?元気だった?』
どうやら和世さんとも知り合いだったらしい
『はいとっても』
『そう、よかったわ』
その会話を聞き時計を見ると昼前になりそうだったのでお暇することにした
『そろそろ失礼します』
『お昼食べていけばいいのに』
『そうですよ。お友達なんですから食べていきませんか?手間は変わらないので大丈夫ですよ?』
お昼を一緒にと誘ってくれるがさすがにそこまでお世話になるのも気が引けるため
午後から道場があると言って帰ることにした。
(道場があるのは本当だしバレないだろう‥あるの夕方からだけど)
『そうですか、でも病み上がりなんですからお気をつけてくださいね』
『ありがとう、それじゃこれで』
『無事に済んでよかった。ん?』
無事に椎奈のお母さんとの邂逅が終わり安堵して帰ろうとした時財布を拾った
『‥交番だな』
そう思い交番に向けて足を向ける
🔸
『う〜ん、どこだ?』
もう少しで交番に着くというところで何かを探している人がいる
無視しようかとも思ったが椎奈と和世さんとの会話を思い出し行動することにした
『何かお探しですか?』
『ん?、ああすみません実はスマホを落としまして』
財布の落とし主かと思ったがどうやら違うらしい
『ここら辺に落としたんですか?』
『ああそうです。』
『俺の方が年下なんですから敬語じゃなくていいですよ。落としたのがこらへんなら俺のスマホから電話をかけてみてください』
『すまない、ありがとう』
俺からスマホを受け取り電話番号を入力してかけるそをしたら
ブルルルルブルルルルブルルルル
どうやら茂みの中にあったらしい
『あったあったよかった』
『よかったですね』
『ああ、助かったよこれには大事な取引先の電話番号や家族の写真があるからね』
『見つかってよかったです』
『ああ本当に、しかし今日はスマホを落とすわ財布も落とすわ災難だと思ったが君のような好青年にあえてよかったよ』
そを言ってニカっと笑顔を見せる人
(ん? 財布?)
思い至りポッケからさっきの財布を取り出す
『もしかしてこれですか?』
財布を出すと驚きの顔をする
『これだよ!まさか君がひろってくれいるとは…不思議な偶然もあったものだ』
『ええ、本当に』
ほんとに俺もそう思う
『改めてありがとう、私は
握手を求める和彦さん
(如月?まさか椎奈のお父さんか?)
『俺は戸条 仁です。』
そうして握手を交わす俺と和彦さん、和彦さんの手のひらは……
(…この人)
『戸条?』
小さい声で何かを呟くが、小さ過ぎて俺の耳に入ってこない
『あの』
『ああ、すまないそれより君武道の心得があるね?何をやっているんだい?』
どうやら握手をしただけで気付いたようだ
『ええ、柔術を少ししかしあなたも何かやっていますよね?』
『おっやっぱり気づくか、ああ私は柔道を』
(やはり手の厚みや重心がしっかりしているからそっち系のやつだと思った)
『しかしうれしいね〜君ぐらいの子で武道をやる子は知り合いいなくてさ、娘も息子も興味がなくてね、息子はバスケをやっているんだよ』
『はぁ』
息子さんがいるようだ、椎名から兄弟がいるということは聞いたことがないので勘違いのようだ
『おっとすまないな、おじさんの小言に付き合ってもらって、何かお礼をしたいんだが時間がなくてね、これを渡しておくらいつでも連絡してくれ』
名刺を渡してくる和彦さんでも
『いえ、見返りを求めてやったことじゃないので』
『いやこれは正当な対価を払うべきことなんだ少し強引かもしれんが受け取ってくれ』
ちょっと強引に名刺を渡されてしまう
『それじゃこれで』
『はあ』
(どうすればいいんだこれ)
まぁ、こちらから連絡することはないしあまり気にしないようにしよう
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