第5話 如月家へ

🔸

(状況を整理しよう、昨日は如月さんが作ってくれたご飯を食べて、寝てしまい起きたら隣で如月さんが寝ている…………うん、なんで?)


昨日、帰ると言うのを確かに聞いたはずだが、どうやら眠たくなってしまったのか机につっぷしたまま寝てしまったようだ。


(とりあえず起こすか)


とりあえず起きて状況を確認してもらわなくてはと思い如月さんに近づこうとした時


『ぅんぅぅん〜』


(なんだこれ、可愛すぎる!)


いつもの凛とした雰囲気の面影はなく、子供のようなあどけなさがある可愛らしい顔があった


(これを起こすと言うのはちょっとな〜)


そんな俺の葛藤を知らんと言わんばかりに爆睡する如月さん。しかし、休日とはいえ女の子を家に上げたままはよろしくない、その後起こすかこのままにするかで4、5分悩んだあと決断した。


(起こすか)


『おーい如月さん起きてくれ。』


反応がないくて声をかけただけでは起きなそうだ、悪いとは思いつつ肩に触る


(ほっそ)


折れてしまうのではと思うくらいの細さだった、しかしだからと言って栄養失調を疑うわけではなく細いながら確かな女の子特有の柔らかさがあった。


(いかんいかん!!キモすぎるぞ……)


『如月さん起きて!起きてくれ頼む』


『…んん、……あれ?なぜ戸条さんが?』


寝起き特有のゆるい顔をみるみる赤い顔に変えていく


『え?え!?ま、まさか私、私!』


どうやら如月さんも気づかずに寝てしまったらしくすごい慌てようだ


『とりあえず落ち着け如月さん、昨日俺が寝てから何があった?』


少し冷静さを取り戻した如月さんが顔を真っ赤のままぽつりぽつりと話し始めた


『昨夜、食器などの片付けを終えて帰ろうとしたのですが。戸条さんが暑さで寝苦しそうになさっていたのでタオルをお借りして濡れタオルを作って額に乗せたのです。そして少しゆっくりしていて戸条さんの寝顔を見ていたらいつの間にか…』


(寝顔?なんで?)


そんな疑問が浮かんだが今は関係なかった


『とりあえず親御さんに連絡してくれ』


『そうでした!ちょっと失礼します』


電話を始める如月さんだいぶ焦っている様子だ


『もしもしお母さん?はい…はい…………ごめんなさい今帰ります』


どうやらだいぶ怒られてしまったようでしゅんとした顔をしている、この顔を見ると罪悪感がありありと湧いてくる


『如月さん、俺も家に連れて行ってもらってもいい?』


『へ?』


『俺のせいでこんなことになってしまったからな、説明のために俺も連れてってくれ』


『い、いえ悪いのは私ですから』


『いや、俺もちゃんと謝りたいんだ。だから、お願いします』


これは俺のけじめであり精一杯の感謝なだ、だからここは譲れない


『わかりました、でも病み上がりなのですから無理は''め!''ですよ?』


なんとも可愛らしい子供に言い聞かせるような注意をする如月さん


『わかったよ如月……あ!いやーあー如月さん』


つい呼び捨てで読んでしまい焦ってしまった


『すまない、嫌だったよな』


そんなに交流のない男からいきなり呼び捨てにされてさぞ嫌だっただろう


『なぜそうなるのですか。戸条さんなら、別にいいです。その代わり私も戸条‘くん’と呼びます!』


『あ、ああ別に構わないよ』


俺が承諾の旨お言うと笑顔を綻ばせる如月


『き、如月』


『は、、はい。戸条くん』


『……』


『……』


『そ、そろそろ行くか!?』


『そそそ、そうですね!』


2人とも居た堪れなくなり話を逸らしてしまう


『着替えてくるからここでゆっくりしていてくれ』


『はい、わかりました』


パタン


(は〜〜、やっちまった。風邪をひいて意図的ではないとはいえ如月を家に泊めることになるとは)


とてつもない後悔が押し寄せ、自分を嫌悪してしまいその場に座り込む


(…覚悟を決めよう、しっかりと謝るんだ!)


🔸


『すまない待たせた』


『いえ大丈夫です。では、行きましょう』


玄関を開けて歩き出す。


『ここからどれくらいなんだ?』


『だいたい、歩いて5分ぐらいですね』


意外と近かったようだ


『『…あの』』


かぶってしまった


『どうぞ』


『戸条くんは一人暮らしなどですか?』


『今はな』


『今は?』


(結構ぐいぐいくるな‥まぁ、これぐらいならいいか)


『前まで両親と妹と住んでいたんだ』


『…………すみません』


?どうやら不幸があったと取ってしまったようでとても落ち込んだ顔をしてしまう


『勘違いさせてしまったな、両親と妹は今は他県にいるんだ。と言うより俺がこっちに越してきたんだ』


『そうだったのですか、何故こちらへ?』


越してきたといえば間違いなくこの話になるとは思っていたが、どう返したものか悩んでいると


『大丈夫ですよ!無理に教えて頂かなくて!』


『そうか?すまない…ここまで話しておいて』


『いえ、私が不躾に踏み込んで聞いてしまったのが悪いのですから』


二人とも沈黙してしまう


『戸条くんのお話はなんだったのですか?』


『いや、服装大丈夫かなと思って』


『大丈夫ですよ。‥か、かっこいいです』


『あ、ありがとう』


急にそんなことを言われ顔に熱が集まるのがわかる、横を見れば如月も真っ赤に染めていた。


🔸

『ここです』


『‥すごいな』


『そうですか?』


如月の家はマジですごかった、和風の様式に綺麗な庭、池、丁寧に手入れされた木など、純和風のしきたりのありそうな、しかし古臭さはまったくと言っていいほど感じさせないそんな家だった


ガラガラガラ


『ただいま帰りました』


如月がそを言うと奥の方から人が出てきた


『お帰りなさいませ、お嬢…さ‥ま?』


如月の姿を見ると急に固まる人、お嬢様と呼んでいるしお母さんではないようだがかなりの美人だった。


『ただいま、葉月さんこちら私の…私たちってどう言った関係なんでしょうか?』


俺を紹介しようとして質問してくる、いや、俺も聞きたいんだが


(まぁここまで関わってしまったし…如月なら、大丈夫だと思いたい)


『如月がいいなら友人ってことになるのかな?』


返事を返すと、驚いたような顔になりそして理解したのか花が咲いたように笑顔を見せる如月


『友人の戸条仁くんです!』


上機嫌に俺を友人と紹介する、しかしまだ固まったままの葉月さんと呼ばれている人


『葉月さん?どうしました?』


如月に声をかけられハッとする葉月さんそして、綺麗に回れ右したかと思うと叫び出した


『奥様!奥様!!たた、大変です!お、お嬢様が!』


叫ぶ葉月さんそして一人の女性が出てきた、凛とした眼差し綺麗な黒髪をだんごにして纏めている、如月が大人になればこうなると思えるような人だった


(綺麗な人だ、てか若っか!姉と言われても信じるぞ!)


『どうしたの?大声を出して椎奈が帰ってきたのでしょう。椎奈ちょっとお話しが……………』


葉月さんと同じようにこちらを見て固まる


『ただいま帰りましたお母さん、こちら私の友人の戸条仁くんです』


『どうも初めまして、戸条仁です。如月さんにはお世話になりました』


『お母さんこの方が話した‥お母さん?』


こちらを見ているのに遠くを見ているような顔になりぼー、としているお母さんの後ろでニヤニヤしている葉月さん、よくわからない状況にまだ治りかけだった頭痛がぶり返しそうだった


(どうなってるんだ)


🔸


『粗茶ですが』


『いえお構いなく』


あの後意識を取り戻した如月のお母さんに案内され客間のようなところに通される


『それでこれはどう言うことなのかしら?』


ニコニコと笑ってはいるが目が全く笑っていないお母さん


『お母さん、それより自己紹介』


問い詰められていた俺に助け舟を出してくれる如月


『…そうね、私は如月和世きさらぎ かずよです。』


『改めて俺、私は戸条仁といいます。まずは娘さんには助けていただいたということの感謝と今回のことの説明をします』


『戸条?』


『あの?』


『ああ、なんでもないわ続けて』


『はぁ』


俺は経緯を話した。傘を貸したこと、そして風邪をひいたこと、その看病に如月が来てくれたこと。無意識に寝てしまったこと、勘違いが起きないよう細心の注意をしながら説明をする


『なるほど、理解しました。…戸条さん娘が迷惑をかけました』


そう言って頭を下げる和世さん


『頭を上げてください!今回のことはお、私が悪いんですから!』


『いいえ、傘を借りたのは娘でそのお礼をするのはいいとして、眠りこけてしまったのは娘です。それをあなたが謝罪するのは違います。』


『いや、しかし』


『そうですよ』


『如月』


俺と和世さんの会話に割り込んできた如月その顔は真剣そのものだった


『悪いのは私なんです。ですから戸条くんが気に止むことはないのです。わかりましたか?』


『でも…』


『わかりましたね?』


有無を言わさない鋭い目と口調に逆らえなかった


『‥はい』


『よろしいです♪』


(なんか最近の俺ものすごい女の人に負けてる気がする。)


『ありがとう如月』


俺のためにここまでしてくれたことに感謝したかった。


『さぁ?なんのことです?』


笑って答える楽しそうな如月、また俺の目はその笑顔に釘付けだった


『あらあら、フフフ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る