第4話 介抱そして翌朝

『失礼しますね』


『おい、ちょっと』


 どうしてこうなったんだ?

 

🔸


『で?何故ここに来た?というかどうやって住所知った?』


 一階にあるリビングで机を挟んで向かい合う俺と如月さん、流石に俺の部屋に入るのは何とか食い止めた、お茶を出そうかとも思ったが『いらないです、病人は大人しくしていてください』と一喝されてしまいお茶も出さず問い詰めるハメになった


『まず、勝手に家の中へ入ったことに謝罪を…』


 これは少し意外だった。先ほどの強引さを似ていると謝られるとは思っていなかったから驚いてしまった。


『意外そうですね?』


俺の驚いた様子を見て顔を傾けながら疑問を口にする如月さんは細かい仕草まで可愛らしく見える


『……あの?』


『え?あぁーいやー、まぁー確かにさっきの強引な姿を見た後だと少し意外だなぁ、と思ったが』


 言ったあとで後悔した。確かに多少強引だったとはいえ見舞いに来てくれた人にこの対応はいただけなかった。しかし意外に彼女の反応は軽かった


『ふふ、確かにあの態度ではそう思っても仕方ないですね』


 ‥‥なぜ楽しそうなのか?よくわからんが失礼に思っていないのなら良かった。


『話を戻してもいいか?』


 楽しそうにしているとことに水を差すようで悪いんだが、今は一刻も早く寝ていたいから手短に済ませたいという気持ちが先行してしまった


『あっ、そうでしたねそれでは話します』


 俺の気持ちが伝わったのか話し始めてくれる彼女


『ではまずあなたの質問に答えます、ここに来た理由ですが二つあります』


 二つも俺の家に来る理由があるのか?なんて考えていると彼女はどんどんと話し始めてしまう


『まず一つ目、昨日あなたから借りた傘を返すため』


『…………は?』


 途轍もなく真面目な顔で言った内容は、別にいつでもいいような内容だった。たった一本の傘を返すためにわざわざよく知りもしない男の家にやってきたという


『それを返すためにわざわざここまで?』


 それが本当だったらなんて頑固なんだ


『当たり前です、昨日明日絶対に返すと言いました、でしたら返すのは今日です。それに私が持っていてまた雨が降ったらあなたはまた濡れてしまうハメになってしまいます』


 言い方は少し刺々しいが会話の端々から優しさが滲み出ている、融通が効かないのはちょっとどうかと思うが


『そして二つ目、あなたが風邪を引いていると聞きしてお礼と謝罪の意味をこめてお見舞いに』


『俺が風邪を引いているのは誰から?自慢じゃないが俺の知り合いは途轍もなく少ないし、友達なんて二人ぐらいしかいないぞ?』


『本当に自慢になってないですね、まず同じ学校ということと、名前、そして容姿も大体わかっていたので事情を言って先生に聞いたら、風邪だと言うのでお見舞いに行きたいのでと言ったら住所を教えてくれました』


 そんな理由があったとしても、普通生徒に他の生徒の住所を教えるだろうか?…いや、いたな教師らしからぬ教師が一人、俺はほぼ確信している声色で聞いた


『その先生って?』


『京子先生です』


(やっぱりか〜、そんな気はしてたんだよあんの売れ残りめ!これ、俺訴訟したら勝てるよな?……やっちまうか?)


 ぎりぎりと歯軋りしながら恨めしそうに天井を見た、そんな俺を見て叱られた子供のような顔をして


『やっぱり迷惑だったでしょうか』


 なんて言ってくる如月さん、そんな顔をされたら寝たいから早く帰れなんて言えない、流石の俺にもそれぐらいの良心はある


『いいや、迷惑だなんて思わないよ、ただ事情が事情だけど簡単に人の住所を教えるダメ教師に腹が立っているだけだよ』


『そ、そうでしたか、来て迷惑だったのかと、でもそう言ってもらえて良かったです。』


 本当に良かったと、心底安心したような顔で言う、なんでそこまで?という疑問はあるが……まぁいいや


『それで?今日の目的は達成できたのか?なら玄関までになるが送るぞ』


 俺の傘を返すとこと、お見舞いに来るということは達成したはずだ。これ以上俺の家にいる理由はないはず、と、普通のことを考えたはずだが、如月さんに何言ってるの?みたいな顔をされる


『え?何を言っているのですか?まだ看病をしていませんよ?とりあえずベットに横になってください、自室に入れたくないというならあまり良くありませんがそこのソファでもいいですよ?』


 (え?看病?そんなの目的にあったっけ?)


『え?そんなのするって言ったっけ?ふつうに傘返して、挨拶して帰るもんだと』


『?…何故ですか?あなたが風邪を引いたのは私に傘を貸して濡れて帰ったからですよね?ならば私にはあなたを看病する責務があります!』


 そうなのだろうか?別にそこまでしてもらうつもりはないのだが


『いや、あのだな』


 流石に悪いと思い断ろうと少し真面目な顔をして話し始めたのだが


『いいから病人は寝てなさい…』


『はい』


 強すぎる。聞いてもらえなかった。


『流石に女の子を自室に入れるのはあまり良くないからソファーで寝てるよ』


 とくに見られて困るようなものはないがまだ片付けが終わってない、そんな部屋に人を、それも女の子を入れるのは憚られた


『そうですか、本当はベッドで寝ていたほうがいいのですけどさすがにそこまでは強制できませんね』


 そうしてソファーに移動し、横になる


(横になるとだいぶ落ち着くな)


『横になったら少し顔色が良くなりましたね』


『ああ、だいぶいい感じだ』


『よかったです。あ、台所お借りしてもいいですか?』


 急にどうしたのだろう?


『何か作るのか?』


『はい、お粥で大丈夫ですか?』


 え?まさか俺にお粥を作ってくれるのだろうか?会話的にそうだと思うが


『作ってくれるのか?』


 そう言ったら、呆れ顔をされる


『当たり前です、看病すると言って自分のぶんを作るわけないじゃないですか』


 それもそうか


『いやでもさすがに…』


『お粥でいいですね?』


『はい』


 またしても逆らえなかった


 🔸

『……さん、…じょうさん』


 誰かの呼ぶ声がする。なんだかいい匂いまで


『…じょうさん、…と、キャ!』


 なんだろうと思い手を伸ばしたら小さい悲鳴が聞こえた


『と、とと、戸条さん!!起きてください!!!』


 その大声で意識が覚醒する。そして現在の状況を理解する。


『はっ!』


『やっと起きてくれました、どうですか?大丈夫ですか?』


 起きた瞬間目の前には美しすぎる女神のような顔がありびっくりした、どうやら寝てしまっていて起こしてくれたらしい、しかしなんだか顔が赤いような?


『ああ、寝たら結構スッキリしたよ、まだ少しだるい感じはするが、それより如月さんこそ大丈夫か?顔が少し赤いようだが』


『あ、赤くなんてありません!!!勘違いです!』


 急にとてつもない声で否定する如月さん、どうしたのだろうか


『そ、そうか、ならいいや それよりどうかしたか?』


『お粥ができたので起こしたんです、食べられそうですか?』


『ああ、大丈夫 ありがとう』


『今持ってきますね』


 お粥をとりに行く如月さんを見て、[なんかいいな〜]などと考えてしまう


(…いかんな、会ったばかりの如月さんに心を許しすぎてる、もっと慎重に、冷静に、…………大丈夫落ち着いた)


『お待たせしました』


『いいや、ありがとう』


『?…どうかなさいました?』


『何が?』


『いいえ、なんでもありません…どうぞ!食べてください』


 そう言ってお鍋の蓋を開ける如月さん、中身はたまご粥のようだ、お米の白と卵の黄色そこにネギと青しそだろうか?の色がとてもよく映えている


『とても美味しそう、ではいただきます』


 もぐもぐ


(う、うっま)


 絶妙な味加減に、しその爽やかがマッチしていてとてつもなくうまい


『喜んでもらえたようでよかったです』


🔸

 どんどんと食べ進めてあっという間に完食してしまった


『ごちそうさま』


『はい、お粗末さまでした』


 こんなにうまいものを食べたのは久しぶりだった


『本当に美味しかったよ』


『ふふ、そう言ってもらえてよかったです』


 結構早めに食べたからかだいぶ眠くなってきてしまった


『寝てて構いませんよ、片付けをしたら帰りますから』


『…すまん、鍵は‥机の上にあるから…玄関の鉢の下に……』


『はい、おやすみなさい』


 その一言を聞いて俺は深い眠りにつくのだった


🔸

ちゅんちゅん、ちゅん


鳥の鳴き声と、陽の光が顔に当たり目が覚める、そして上半身だけを起こす、そうしたら目の前にタオルが落ちてきた


(湿ってる、どうやら濡れたタオルを乗せて帰ってくれたらしい、ありがたいな、

何かしらお礼しないと。)


などと考えていたら


スゥー、スゥー、


ソファー前の机の辺りから寝息が聞こえ体が硬直する、壊れたおもちゃのようにぎぎぎぎと音が立ちそうなイメージでその発生源を見れば


『ぅん』


美しい黒髪を朝日の光に反射させながらこの家にいるはずのない彼女が天使のような寝顔で机に突っ伏してスヤスヤと寝ていた


『すげー、一晩中あの格好で寝るとか…………じゃなくて!!なんで!なんでまだいるんだ!?』


現実逃避からの俺の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった‥

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