21. 水も貴重な資源なので

 翌日。

 昨日の砂嵐が噓のように穏やかになった外に出た僕は、すぐに倒れていたイネを移動させる作業に取り掛かった。


 まずは真っすぐに立て直し、周りの土を押し固めて倒れないようにする。

 それが全て終われば、根の少し下側に水魔法で板を作り、土ごと持ち上げる。


 傍から見れば土が浮いている異様な光景だけど、水魔法があればこれくらいは難しくない。


「それも魔法ですか……?」


「はい。本来の使い方とは違いますけどね」


「本当に便利だなぁ、水魔法ってのは」


「帝国では要らない扱いでしたけどね」


 空いている水田に運んでいると声をかけられたから、苦笑いを浮かべながら言葉を返す。

 この国では誰にも羨まれる水魔法だけど、帝国での扱いは本当に酷かったんだよね……。


 だから、こうして皆に喜ばれると嬉しいし、役に立とうと頑張れる。

 やりすぎると仕事を奪うことになるけど、自分の手しか使えない今の状況なら問題にならないだろう。


「はは、帝国はそのうち痛い目を見るさ。

 レイン様が言っていた通り、水だって資源だ。無駄遣いをしていたら、いつか無くなって痛い目を見る」


「そうかもしれませんね。

 余った水はすべて海に捨てている国ですから」


「その通りだと俺も思いますよ。 

 だから、考えたんです」


「何をですか?」


「余った水も、使って汚くなった水も、綺麗に戻してもう一度使えば良いんじゃないかって。

 流石に飲み水には出来ないですが、物を洗ったりすることには使える」


「いい考えだと思いますよ。

 地下水が綺麗になっている仕組みを使えば、不可能では無いはずですからね」


 地下水――湧き水は不思議なことにそのまま飲んでも美味しいくらいに綺麗だ。

 降り注いだ雨は泥と混じって汚いのにも関わらず。


 だから水を綺麗にするには一番使える仕組みだと思っている。やろうと思ったことは無いけどね。

 僕の水魔法なら、汚れと水を綺麗に分けられるから、必要が無いんだ。


 しかし、全てを僕の魔法に頼ってしまうとこの国のためにならないから、水を何度も使えるようにする仕組みは必要になるだろう。


「そんなことが出来るんですか?

 本当なら、すぐに試してみようと思います!」


「土はソフィアに用意してもらってくださいね。

 水田の土では水が綺麗になるどころか、汚れますから」


「まずはその辺にある網と砂で試しますよ。

 砂漠の砂と言っても、細かいものから粗いものまで色々ありますからね」


「楽しみにしていますね」


 声をかけてきた人とはここで一旦お別れして、僕は水田に苗を移していく。

 そして、空いている場所には新しい苗を植えていく。


 一人の今は手で植えていたら全部を終えることなんて出来ないから、水魔法を使って一斉に済ませる。


「よし、ここは終わり」


 もう一つの水田にも同じように植えていき、僕だけで出来る作業は終わりになった。

 水田の管理は農業に関わりたいと言ってくれた人達に任せているから、これだけで済んでしまう。


 だから、ソフィアの方が上手くいっているのか、様子を見に行くことにした。


「お邪魔します」


「ああ、レイン殿か。入ってくれ!」


「ありがとうございます。

 ソフィア、交渉はどう?」


「問題なく作れるみたいだから、受け入れてもらえることになったわ」


「それは良かったよ」


 交渉は無事に終わっていたらしい。

 でも、まだここに残っているということは、問題があるのだろう。


「問題はありましたか?」


「部品が少ないのは助かるんだが、どうやって組み立てるんだ?」


「簡単ですよ。

 こことここの穴を合わせて、棒を通してから金槌で叩いて潰すんです」


「おお、本当に外れないな……」


 帝国では取り外しが出来るネジが出回っているけど、あれは高価だ。

 だから僕の家の領地で鉄の家を作るときは、こんな風にネジを使わずに済む方法を使っていた。


 一から考えた人は天才に違いない。


「これを繋げていけば、骨組みになります」


「流石は帝国の技術ですな……。

 ありがたく使わせてもらいます」


「もし大丈夫だったら、水田作りに手を貸してもらえませんか?

 僕達だけでは手が足りないんです」


「俺で良ければ、喜んで手を貸します。

 もっと人手が必要なら、他にも呼びましょう」


「助かります。四人くらい、声をかけてもらえますか?」


「分かりました。明日までには集めましょう」


 元々は部品を作ってもらうだけの予定だったけど、欲しかった人手も確保出来そうだ。

 あとは水田の作り方から苗植え、そして収穫から精米まで教えることが出来れば、コメはデザイア王国の人たちだけでも作れるようになるだろう。


 そうすれば僕達は他のことに取り掛かれる。

 水田を作りながら肥料を作るための場所は作れないから、大助かりだ。


「ありがとうございます。本当に助かります」


「マークさん、本当にありがとう」


 ソフィアと揃って頭を軽く下げると、鍛冶職人さんはくすぐったそうに頬を搔いていた。

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