第2章 農業に必要な物を揃えます

20. 病を避けるための場所

. 実験用の水田を作り終えてから二週間。

 苗が少し育ってきたところで、植えてから二度目の砂嵐が訪れてしまった。


 窓から外を見てみると、ガラスで守られていない方のイネが風に負けて倒れている様子が目に入る。

 ガラスで囲っている方は無事だから、このまま乗り切ってくれるはずだ。


「レイン、イネは大丈夫かしら?」


「ガラスで囲っていない方は全滅だったよ」


「やっぱり砂嵐には耐えられなかったのね……。

 ここまで枯れずに育ってくれたから、なんだか悲しいわ」


「まだ植えなおせば何とかなるかもしれないから、砂嵐がおさまったら直ぐに直してみるよ」


 まだ根が張っていない今なら、直すことも難しくないだろう。

 そのあとに枯れてしまう可能性の方が大きいけど、苗を無駄にはしたくない。


 この苗だってかなりのお金がかかっているはずだから、肥料を作るための炉を作る作業は後回しにしようと心の中で決める。


「そういえば、この国では排泄物はどこで処理しているんだ?」


 水道が整備されている帝国でも、使った後の水を流すための設備は無いから、基本的は窓から外に捨てている。

 それが疫病の原因になっていると訴えている学者もいたそうだけど、すぐに失踪したらしい。


 遺体はまだ見つかっていないというが、おそらく国に抹消されたのだろう。

 帝国はそういう場所だから、画期的な発明をしても僕達国民の生活は絶対に良くならない。


 ここデザイア王国は、思い付きであっても最初は受け入れられ、実験などを経て生活に応用されているから、食事が貧しいながらも生活に苦労することは無かった。


「お手洗いの下に貯めておく入れ物があって、定期的に遠くに捨てに行っているの。

 病気の原因になるから、正直に言って肥料には使いたくないわ」


「肥料にした後なら誰も病気にならないんだけど、そういう風にしているなら、肥料を作る場所は王都から離れたところにした方が良さそうだね」


「ええ、その方がみんなに納得してもらえると思うわ」


「それなら、普段から排泄物を捨てている場所の近くに作ろう」


 帝国では農家が各々で肥料作りをしていた。

 でも、一か所にまとめているなら、肥料作りも一か所にまとめた方が効率が良くなるだろう。


 肥料の作り方はあまり難しくなく、枯草を使って水分量を調節してから数か月おきにかき混ぜるだけだ。

 ただ、臭いが酷くなるから……町の中では絶対にやりたくない。


 完成すれば乾いた土のようになって臭いも無くなるんだけどね……。

 発酵させている最中はかなり熱くなって、病の原因になる汚れも消えると言われているから、素手で触っても問題はないはずだ。


 あとは苗を植える半月以上前に水田に撒けば、しっかりとイネが育ってくれる。

 他の野菜のやり方は知らないけど、同じやり方でも大丈夫だと信じたい。


「歩いて一時間くらいかかるけれど、大丈夫かしら?」


「馬車だとどれくらい?」


「十分くらいで着くわ」


「作りに行くときに馬車は借りられる?」


 足場の悪い砂漠で往復二時間というのは、深い森の中を移動するよりも大変だ。

 水魔法で自分を運ぶという手もあるけど、作業前に疲れたくはないから、出来ることなら楽をしたい。


「馬車だと車輪が嵌まって動けなくなってしまうの。

 誰も使っていないけれど、隣国までは道があるから馬車でも大丈夫だけれど、それを外れたらラクダの力を借りても動けなくなるわ」


「そうだったんだ。

 それなら、まずは道を作るところから始めるよ」


「道を作るの!?」


「うん。

 砂を溶かして固めるだけだから、すぐに出来ると思う」


「そんなに沢山溶かせる自信は無いわ……」


「時間はかかるかもしれないけど、毎日少しずつ進めれば良いと思う。

 今は完成している水田に苗を植えることの方が大事だからね」


 ガラスで覆っている水田は十二個まで増やせていて、すでに十個は苗を植え終えた。

 残る二つに植えられれば、大人百二十人が一年間食べるコメを賄えられるようになる。


 乾燥していてネズミが居ないデザイア王国なら、荒らされる心配をせずに済むから、枯れさえしなければ四カ月後には食事が少しだけ豪華になるだろう。

 問題は野菜なんだけど、これは王妃様が作り方を学びに隣国に行っているから、その成果待ちだ。


「早くみんなで食べたいもの。頑張らなくちゃ」


「そうだね。欲を言えば、皆で水田も作っていきたいけど……」


「鍛冶職人さんなら、部品をたくさん作ってくれるかもしれないわ。

 明日、聞いてみるね」


「分かった。僕は残る苗を植え切るよ」


 そう言葉を交わしていると、久しぶりに美味しそうな香りが漂ってきた。

 今日の食事は豪華になるみたいだ。

 

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