22. 今の楽より未来の楽

 交渉を無事に終えた僕達は、肥料作りをする予定の場所に続く道を作るために、王都の出口へと移動した。

 道の作り方は単純で、砂の下に隠れている固い地面のところまで砂を溶かして、そのまま固めるだけで良い。


 でも、これだと傷んできた時に直すのが大変になるから、押し固めやすい土を敷いてから、その上に薄く砂を詰めてからレンガのような形の石で仕上げようと思っている。

 家の領地の道の作り方と全く同じだけど、百年以上大きな問題が出ていないから、これが一番良いはずなんだよね。


 しかし、その固い岩の位置が分からないから、用意しておいたスコップで砂を掘っていく。

 これで固い地面にぶつかれば、それを土台に道を作っていこうと考えている。


「早速始めるね」


「うん」


 声をかけてから勢いよくスコップを砂に突き立てると、僕の手の長さほど進んでから手に衝撃が走った。


「何かに当たったみたいだ……」


「そんなに浅いの?」


 もっと深いところまで柔らかい砂に埋め尽くされていると思っていたけど、この辺りは想像以上に浅いらしい。

 でも、その分砂を溶かす量が減るから、予定しているよりも早く道を作ることが出来そうだ。


「そうみたいだね。

早速だけど、砂をどかしていくね」


「私は空いたところに土を入れれば良いのよね?」


「うん。お願いするね」


 短いやり取りに続けて、水魔法を使って砂を掘り進めていく。

 そして、空いたところにソフィアが土を作り出していく。


 この作業を目的の場所までひたすら続けるだけだけど、ソフィアの魔法が間に合うような速さを調節するのに神経を使うから、退屈だと思う余裕はなかった。

 お互いのペースが乱れないように集中するだけで精一杯だから仕方がない。


 だから、砂漠の中で色が変わっている場所の近くになっても、悪臭を感じることは無かった。

 ……いや、すぐ近くまで来ているのに、臭いがしない。


「道はここまでにしよう」


「分かったわ」


「それにしても、臭くないんだね……」


「ここは風上だから、臭いが来ないの。

 反対に行ったら、鼻を抑えていないと耐えられないわ」


「そうなんだ」


 試しに風下側に回ってみたけど、臭いは強烈ではなかった。

 排泄物は必ず毎日ここに運ばれてきているようだけど、厳しい乾燥によって乾くお陰で臭いも少なくて済んでいるらしい。


 臭いが少ないのは助かるけど、乾燥したら発酵させられないから、ここも一工夫しないと厳しそうだ。


「……思ったよりも臭くないね」


「もしかして、帝国はもっと酷い臭いがするの?」


「鼻がもげそうなくらい強烈だよ。そこには魔物も寄り付かない。

 ハエだけは集まってくるけどね」


「ハエ……?」


「砂漠だと無縁だったね……。

 汚いものを好む虫のことだよ」


「そんな虫が居るのね……。

 想像しただけで鳥肌が立つわ」


 軽くショックを受けながらも、来た道を戻りながら完成に近づけていく。

 もっと人手が欲しいけど、食料が十分ではない今は贅沢なんか言えない。だから、魔法を出来るだけ活用する。


「レンガを敷き詰めるのって、こんなに大変なのね……」


「なかなか終わりが見えないね……」


 これでは魔力の限界が先に来てしまいそうだけど、ふと顔を上げると陽が傾いている様子が目に入った。

 魔力よりも先に、夜が訪れようとしているらしい。


「もうすぐ日が暮れそうだから、この辺で終わりにしよう」


「そうね。流石に疲れちゃったから、ちょうど良いわ」


 そんなわけで、今日の作業はここまでにして、僕達は押し固めた土の上を歩いて王都へと戻った。


 魔物が居ないとはいえ、夜になると真っ暗になって遭難しかねないから、この時間は家路につく人の姿が目立つ。

 初日の閑散とした様子が嘘のような賑わいを見せているけど、やっぱり帝都には見劣りする。


 でも、ここを帝都よりも賑わいのある街にするのが目標だから、人の少なさを理由に諦めるつもりは欠片も無い。

 僕を散々罪人扱いしてきた人たちに見返したいという気持ちもあるけど、生きていく場所が無くなっていた僕を受け入れてくれたソフィア達にお礼をしたいから、必ず成し遂げる。


 そう覚悟を改めるために、誰の目にも入らないところ……ソフィアの視界の外で拳を天へと掲げた。


「それ、何かの儀式?」


「見てた?」


「そんなに大きく動かれたら、気になってしまうもの」


「そ、そうか……。

 儀式みたいなものだから気にしないでくれ」


「分かったわ」


 ソフィアは触れないでくれたけど、見られたことで羞恥心が湧き上がってくる。

 砂があったら埋まりたい気分だ。


 ――砂、そこら中にあるな。

 いっそのこと埋まってしまおうか。


 ……という冗談はさておき。

今日も無事に家に戻った僕は、ソフィアと軽く拳をぶつけ合った。

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