第18話
士気向上にもいいかと思ってファッションショーもどきを開催。
この狙いが大当たりで、みんなそれはもうやる気に満ち溢れてくれた。
「それでみんなは、どれが一番良かったかしら?」
そう軽く聞いたのが間違いだった。
「ドレスこそが完成された女の魅力ってもんだ!」
「お忍びスタイルの気負わない姿こそがオレだけに見せる本当の彼女なんだ!」
「僕っ娘の魅力が分からないとは、やはり君たちはまだまだですね」
「礼服を着て背筋を伸ばした彼女が、ふとした瞬間に気を抜いて自分にだけ笑顔を見せる。この破壊力こそが至高なんですよ!」
上からクロウ、スネイル、アルメ、ウバート。
他にも方々で不毛な言い争いが発生していて、そろそろ暴力沙汰に――。
ドカッ! バコッ!
「始まった。ほんと、男ってバカ」
とはいうもののケガをされては困るので――。
「静まれ愚物ども!」
と睨みを利かせつつ一喝してみた。
すると全員が一瞬で静かになり、姿勢を正し敬礼する者すらも。
「いい? 今度こんなろくでもない理由で喧嘩したら、一か月トイレ掃除の刑よ。
それが嫌ならば、仲間とは仲良くやりなさい。分かったわね?」
「「「イエッサー!!」」」
「ノリがいいのも考え物ね……」
この礼服というか軍服、何か妙な魔法でもかかっているんじゃない?
そう疑ってしまいたくなるほどに、彼らの統率が取れてしまった。
なので普段はこれらを組み合わせて、上はシャツに、下は動きやすいという理由からズボンにする。
……元からあまり変わってない気もするけれど。
改めて楽な格好に着替え、食堂へ。
「結局そうなったのか」
「ええ。貴方たちの前でわざわざ着飾る必要もありませんからね。
……そこ、残念そうな顔しない」
「オレのお忍びスタイルぅ~……」
どうやらスネイルは本当にあの格好が気に入ったみたい。
私もディータもあの格好が一番素の女の子でいられるけれど、だからこそ着る機会はあまり多くないだろう。
さて次の話に。
そう思った矢先、構成員の一人が私に手紙を持ってきた。
差出人はジャンク。
「なんて書いてあるんだ?」
「待って。字が汚いし誤字だらけで……。読める範囲だと……」
『――な――を――お前たち――。
――女に――なんて、――――を――――した――。
――――――――。――――――に――。
ジ――ク』
「なんも分かんねぇ……」
「どんどん字がおかしくなっていく辺りに、途中からヒートアップして行ったのが手に取るように分かるわね。
でも……ふふっ、自分の名前まで間違えるのはさすがに卑怯よ……あははっ」
徐々に面白くなってきて、ついに笑ってしまう。
そして結局この手紙は無かったものとして処理するとクロウが決め、私もその決定に従った。
ちなみにジャンクという名前の理由だけれど、本名はジャンで、それだと
確かに私もジャンという名前に筋骨隆々のイメージはないので、納得。
その日の夜に、二度目のお宅訪問へ。
潜入するのは前回と同じメンバーで、監視役を二名増員。
私と言えば、挑発の意味も込めて黒いドレス姿で出撃。
「相手は待ち構えているに違いないわ。
いくら数が減ったとはいえ、油断はしないこと。
じゃあ、始めましょう」
私の号令とともに散る構成員。
相変わらず素晴らしい動きでよどみなく配置につけば、「いつでも行けます」と合図が来た。
前回よりも手早くて……少しだけ違和感を覚える。
相手が警戒しているのならば、配置にはもっと時間がかかるはず。
――伯爵の私兵が紛れ込んでいる可能性がある?
だとしたら、どうすればそれが分かる?
……あの手紙か。
内容は解読できなかったけれど、おそらくは私を煽るようなものだったはず。
ということは……。
「罠ね。全員即時撤収!」
「わ、分かりました」
この場合起こりうる最悪のパターン。
それはジャンクのアジトにジャンク陣営がおらず、代わりにデシムラット伯爵の私兵が詰めていて、こちらを一人残らず殺したのち、伯爵への反逆行為だと難癖をつけて私たちのアジトを強襲し殲滅。
さらに助けたと思ったジャンクたちも皆殺しにすれば、夜鷹の爪の壊滅及び自身の悪事は永遠に闇の中。
「……って、ジャンクが殺されるかもしれない!?
私と御者だけ残して後は町に散って!
探すのはジャンクが匿われている伯爵の隠れ家よ!」
「ってもヒントの一つでもなきゃ探しようがありませんぜ?」
「ヒント、そうね……」
こういうのは私よりもディータのほうが気付きそう。
「あの手紙、三行目の前半は全く読めなかった。
もしかしてあそこにヒントが……?」
「お嬢、とにかく一旦アジトに戻りましょうや。もし手紙がヒントなら、実物見たほうがいいでしょうし」
「それもそうね。みんな、二転三転してごめんなさい。一旦アジトに帰るわよ」
二転三転は動転しているから。
帰るまでに頭を冷やしておかないと。
そんな私とは関係なしに迅速に撤収したのだが、去り際にジャンクのアジトから鎧を着た兵士が飛び出してくる光景を見てしまった。
私の読みも中々のものね。
そうしてアジトに帰ると、焦った様子でクロウが飛んできた。
「町に出てた奴らが襲撃された」
「やっぱり仕掛けてきたわね……。状況は?」
「襲われた奴らは幸い命に別状はない。だがしばらく仕事は無理だ。
襲ってきたのは見たことのない連中で、上等な鎧だったらしい」
「ジャンクのアジトから飛び出してきた連中と同じと考えて間違いなさそうね。
奴らはおそらくデシムラット伯爵の私兵よ。
今後を協議するから、至急全員を食堂に集めて。それとあの手紙持ってきて頂戴」
そうして数分とせず、今アジトにいる全員が食堂に集合した。
事態を把握していない者が大半だけれど、私たちのピリついた空気を察して皆真剣な表情をしている。
「ジャンクのアジトへの襲撃はキャンセルしたわ。
こんな手紙を寄越したくせに、アジトはろくに警戒がされていなかった。それはつまり私たちを誘い込む罠だってこと。
実際、間一髪で交戦には至らなかったけれど、アジトにはデシムラット伯爵の私兵が待ち構えていた。
何故そいつらが伯爵の私兵だと断定出来るかだけれど、それはジャンクのアジトにはデシムラット伯爵の連絡係が詰めていたからよ。
これは戻ってきたマルーイ陣営の人たちからの証言で確定している」
そのマルーイ陣営の人たちが大きく頷いている。
「そしてもう一つ。先ほど町に出ていた者が襲撃に遭った。
相手はおそらく待ち伏せしていた者と同じく、デシムラット伯爵の私兵よ」
「お嬢に逃げられた腹いせにそいつらを襲ったってことか?」
「いいえ、時系列的に私たちの襲撃と相手の襲撃はほぼ同時刻のはず。
これが偶然なのか、あるいは私たちに対する宣戦布告なのかは今の段階では分からないわ。
ただね、これが必然であった場合、ジャンクの命が危ないのよ」
ざわつく一同。
不安を吐露する声もある。
「伯爵はパトロンとしてジャンクに近づいたけれど、実際にはジャンクもろとも
私の出した結論に、先ほどまでのざわつきが嘘のように収まる。
それはつまり、全員の意思がジャンク救出及び伯爵潰しに固まった証拠だ。
「クロウ、あの手紙をもう一度見せて頂戴」
「ああ、これだ」
相変わらずひどい字で解読が難しい。
それで今回注目したいのは、三行目の前半。
一文字も解読できなかった部分なのだけれど、私がもしもメッセージを隠すのだとしたら、間違いなくここに隠す。
「一文字ずつ見ていきましょうか。
最初は……最初から分からない……」
「すまん、俺に見せてくれ。一応あいつの字には慣れている。逆に普通の字は読めないんだけどな」
「ある意味素晴らしい特殊技能ね。じゃあ頼むわ」
観衆の中から、ずいぶんと渋い声をしたおじさんが前に出てきた。
クロウが耳打ちで、最古参の一人だと教えてくれた。
頼りになりそうだけれど……そういえば私の軍服を見てイスから転げ落ちていた人がいたけれど、彼だ。
「うーん……これまた普段以上にやべー字になってるな」
普段以上に……ヒートアップしたわけではないとしたら……。
「えーと、最初は戦い、だな。そして……」
「急かして申し訳ないのだけれど、場所のヒントになりそうなものだけをお願い」
「だったらここだな。思いっきり字を間違えてるけど、おそらくは倉庫だ」
「倉庫街……私を襲うには絶好の場所ね」
「お嬢様を襲う輩は、このアルメが叩っ斬って差し上げます」
「ふふっ、ならば決まりね」
そういえば光り玉を回収しに倉庫街に行った時も、似たような会話をした。
人通りがなく、見通しもあまり良くない。
人を襲うには、そして人から隠れるには絶好の場所。
「みんな、倉庫街を片っ端から調べるわよ。
目的は伯爵に匿われているジャンクの確保!」
「よーし聞いたな! 総員戦闘準備!」
「「「おう!!」」」
ふふっ、やっぱり最後はクロウのほうが様になる。
ともかく、急がないと。
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