第11話
朝食後は改めて私の部屋へ。
確認のためクロウと、部屋を秘密基地にしていた男たちも同行させている。
「だからオレはおかしいって言ったんだよ。
なんで一等地で家具も揃ってるのに開かずの扉なんだって」
「うるせーよ最後はお前もちょうどいいって言ってたろうが」
「一人だけ抜け駆けなんてさせねーぞ」
「そこ、静かに」
「「「はいっ!」」」
なんて言っているうちに到着。
改めて見ればボスの部屋として相応しい一等地に、他よりもいい素材の扉。
……あ。それで思い出した。
【このにを】攻略キャラの一人、隣国の第二王子【アズラック・オミーリア】と恋仲になる正義ルートでは、この夜鷹の爪を討伐するイベントがある。
そのイベントで本拠地は別にあると判明するのだが、その際に表示される汎用スチルがこの扉だ。
「イベントを発生させていなくてよかった……」
とはいえイベントはRPGパートで時間がかかり、かつ夜鷹の爪関連は一切触れずにエンディングに到達も可能なのだけれど。
扉を開けて中へ。
まず昨日あった戦利品の数々は綺麗さっぱり無くなっている。
そのうえでテーブルなどには掃除された形跡があるのだが、形跡があるという時点でそれが気付ける程度の雑な仕事だということ。
「ふぅ~ん、これで掃除した気になっているのね……」
「うっ……」
「と言いたいところなのだけれど、これ以上触れさせると何かを壊す予感がするからもういいわ。
だけどちょっとニオうわよねー……」
男どもを睨むと、全員が目を逸らす。
大方戦利品で品評会でもやっていたのだろうけれど。
……おや、ディータが意味を理解していない!
そっかそっかー、ウブなオナゴよのぉ~。
男どもを使ってニオイの元となる布類を全て取っ払い、ついでだから全個室のベッドシーツを集めてお洗濯をすることにした。
いかにも悪人面な男どもが汚いシーツを運ぶ姿は何とも言えない面白さがある。
そして私も自分の洗濯物を運ぶ。
シーツ類にボロ雑巾のようになってしまった舞踏会のドレス、そして何故かどうしても捨てられない悪臭のする布。
……なんで私はこの布を捨てられないのだろう?
まさかこれも世界の修正力……?
だとした、この布にも何かしらの役割がある……?
そんなことを考えているうちに、男どもの後ろをついていきアジトの外へ。
「スゥ……ふぅ。いいお洗濯日和ね」
数日ぶりの澄み渡った青空に、ディータもぐっと背伸びをして深呼吸。
今回は、郊外の広い空き地を指定して洗濯物を集めた。
ここは四方を空き家に囲まれており、アジトを経由しなければ出入りできない。
よって洗濯物を盗まれる心配も、憲兵に見つかる心配もない。
「ちくしょうめんどくせー。だから女は……」
「悪口ならもっと聞こえるように言いなさい。
それから嫌なら無理にとは言わないわよ。お前だけ臭いって言われ続けてもいいのならばね」
「……チッ」
幹部が二人抜けても三十人以上いるのだから、露骨に私に敵意を向ける人もいる。
だからこそ私はしっかり立って、柔らかな笑顔で彼らを監視する。
精神では絶対に勝てないと分からせるために。
「お嬢ー、こっち置いとくよー」
「はーい」
そして三十人以上いれば、すっかり私に懐いている人もいる。
年齢層で言えば、中間ほど私に拒否反応を示す人が多い。
何故なのかは分からないけれど。
「オレで最後だぞー。んでお嬢、どう洗うん?」
「私は魔法が使える。となれば?」
「魔法で洗濯?」「なにそれ見てみたい!」「見学してもいいかい?」
「ええどうぞ」
結果、見学者はクロウとアルメも含めて十人以上に。
クロウとアルメの二人はたぶん監視役だろう。
山のように積まれた汚い洗濯物を前に、腕をまくって「さて」と気合を入れる。
……ちなみに今回の洗濯物に私の分は含んでいない。
さすがにこの中に一緒に混ぜるのは私もディータも嫌だったもので。
「水の精霊よ、我が眼前に水の渦を作り出したまえ。ウォーターサイクロン」
集中して詠唱を開始するとすぐさま青い魔法陣が現れ、魔法を見たことのない人たちが野太い歓声を上げる。
文字通りのウォーターサイクロン(弱)が発生し、洗濯物を巻き込んで結構な勢いで回る。
そして見た目に分かるほど水の色が濁っていく……。
水の精霊さんごめんなさい、何度か水を入れ替えないとダメそう。
「これ、この中に入ったらどうなるんだ?」
「今入ったら死ぬわね」
「ひえっ……」
実際に死ぬかは分からないけれど、この脅しは効果テキメン。
洗濯が終わるまで、見学者たちは静かに見守ってくれた。
洗濯後。
「し、白い……」
「こんな色してたんかお前……」
「逆にどんだけ汚いシーツで寝てたんだよ俺ら」
綺麗になったシーツを手に、感嘆の声を上げる構成員たち。
するとその中の一人が私の前に来て、頭を下げた。
「さっきは”だから女は”なんて言って悪かった。
なんていうか……たったこれだけでも……なんだ?」
彼は言葉が見つからなくて、恥ずかしそうにまごまごしている。
「ふふっ。きっと貴方はその白いシーツに小さな幸せを見出したのね。
そういった小さな幸せを見出せる感性、私は素晴らしいと思うわよ」
「……そっか」
恥ずかしさが限界に達したようで、素っ気ない素振りで、だけれど大切そうにシーツを持って彼は帰っていった。
「さて、あとは私の分ね」
シーツはみんなと同じく魔法で洗うけれど、下着やドレスでやると痛むし伸びる。
なので桶に水を入れて、そこに魔法で小さな火を入れてぬるま湯にして揉み洗い。
舞踏会から着替えもせずに逃げ出したので、ドレスの裾はもうボロボロ。
そんな無価値な布切れなのに、私の中のディータはこのドレスを捨てたくない。
ディータは自分の罪をはっきりと認識していて、贖罪の気持ちも大きい。
つまりこのドレスは自身に対する十字架なのだ。
「そしてこっちの布も……うわっ、改めて嗅ぐととんでもないニオイね……」
私が下水臭かったのはこの布を被っていたからでは?
とはいえ、おかげで命拾いしたという記憶もある。
そんな赤茶けた布は洗うと次第に黒くなっていき……。
「ッ!?」
布の正体に気づいた次の瞬間、布を放り投げてしまった。
「あ、あなたなんてものを拾ってるのよ!!」
思わずそう言ってしまったけれど、私はディータなので布を拾ったのは私だ。
そしてディータは今の今まで本当に布の正体には気づいていなかった。
この布がナニモノかは、私ではなくディータの知識で分かった。
この世界では葬儀の際に、亡くなった者の顔に聖者の布という純白の布を被せる風習がある。
だけれど逆に、地獄に堕としたい者にはこの黒い死神の布を被せるのだ。
「自虐するのもいい加減にしてほしいわ」
とはいえ下手に扱うわけにもいかない代物。
いわくつきかもしれないけれど、しばらくは共に行きましょう。
あなたには必ず最高の使い道が待っているはずだから。
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