第8話 ときめき☆特急ピンボール
まるで夢みたいだなと思った。
金髪イケメンに手を引かれて、ダンジョンの中をモンスターを掻い潜りながら走るなんて。俺が女子だったらときめいちゃう☆
だ が 男 だ 。
いやあ、なんかもう家の勝手口が消えた瞬間にお恥ずかしながら脱力しちゃいましてね?てめえ何してくれてんだってザインを怒鳴りたかったんですけど、それより必死なんですよあいつ。
そんで、こんな身勝手な事をしておきながら、人の事を全力で信じて疑わないんですよ。俺をそこまで信じてくれる奴の時間を、今更どうしようもない事で取るのは美学に反するなって思う。
まあ、安全な場所まで行くことができたら、絶対説教するし一発殴るが。
え?今ですか?
「テルヒコ!次の曲がり角は右か左か!?」
ザインの鋭い声を聞いた瞬間、右の通路を進んだ先でリザードマンっぽい何かがたむろしてるイメージが思い浮かぶ。
「あ?左」
もはや責任なんて考えることもできず、どうにでもなーれの精神で答えるんだが、これが当たってるらしくさっきから敵と真正面から衝突した事は数回しか無い。
それも、分岐のどちらを行っても敵と遭遇するイメージが湧いたケースで少数を選んできた結果だ。
なにこれ?
こんなチート能力、俺今まで知らなかったよ?いや、イメージが湧く事そのものはあったけど、ここまでハッキリしてなかったし。異世界の修羅場に来て、初めて能力開花しちゃいました的な?
「次は!?」
「正面にタックル。隠し通路を通れる」
っていうイメージが湧いたんです。ね?この通りになったら、もう明晰夢みたいなもんじゃあーりませんか?脱力するよね?俺おかしくなーい。
「……ハハッ、信じるぞテルヒコ!!」
\_,、_人_,、_人_,、_,、_/
》ドゴォッ! ! !《
/⌒Y`⌒Y`⌒Y`⌒Y`⌒\
全力疾走のまま、ザインが正面のいかにも固そうなレンガの壁に突っ込むと勢いよくその壁が回転ドアよろしく回った。ドアそのものは重かったのか、勢いがある程度殺された事でその奥の通路に入っても勢い余って倒れる事もなく走り続ける。
ヒュゥー!そっか、異世界転生俺TUEEEってこういう気分なんだな。今なら何でも分かりそう。
「素晴らしいよテルヒコ!君となら、どんな迷宮でも突破できそうだ!」
いやぁ照れるなぁ。必死なくせに、こいつ褒める事忘れないんだよな。人間できすぎだわ。
隠し通路は何故か妙に生活感が溢れる小さな通路だった。アパートの一室を思わせるような狭い通路(廊下?)の脇に更に狭い分かれ道があって、台所?脱衣所?寝室?みたいなものが一瞬見えた気がした。
一瞬しか見えないのは、ザインが好奇心を一切捨てて直進してるからだ。
せめて俺くらいは中に何があるのか見ておこうと部屋の中を一瞬覗いていくと、子供部屋のようなものが一瞬見えて、その隣の狭い部屋に視線が移った瞬間、頭が凍りついた。
浅黒い肌の少女がどう見ても洋式っぽい便器に下半身丸出しで座っていてぽけっとこっちを見ている……ように見えた。ホント一瞬なんだけど。ドアもついてたのに、開けっ放しだったように見えた。
「ドア閉めろッ!!」
思わずツッコンだ。
「あひゃぁぁぁっ!!!」
間抜けな悲鳴と同時にバンッと、過ぎた後でドアが閉まるのが見えた。おせーよ!おかげで一瞬なのにバッチリ見えちゃったよ!子供なんだね!二次性徴はまだかな!
「どうしたテルヒコ!?」
「いや、ダンジョンって不思議な所だなって」
「ああ、ダンジョンはそういう所だ。楽しくなってきたか?」
そう言うザインは、満身創痍なはずなのに野性味のある笑みを浮かべていた。
「そんな事考えられる程余裕ないよ」
「俺は楽しくなってきた。この調子なら、きっと間に合う!!テルヒコ、頼んだぞ」
前方にただの壁が見えてきた。どん詰まりのように見えて、ここに入った時と同じ回転ドアのようなものだ。
「突撃!」
俺が激を飛ばすと、にっと口の端を上げたザインが姿勢を低くする。
「了解ッ!!」
\_,、_人_,、_人_,、_,、_/
》ドゴォッ! ! !《
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丁度いい抵抗があって、俺達は回転ドアの向こうにあっさりと抜けていた。この先は、しばらく幅の広い通路だ。
ぴりぴりと危機感が眉間に刺さる。ここにも当然モンスターはいて、多くは無いがその全てを回避するのは難しそうだ。
今まではザインがなぎ倒してくれたし、範囲防御とかいうスキルで俺に向かってくる攻撃を肩代わりしてくれてたみたいだが、それも無限には続かない気がした。
続かない気はしたが、なぜか大丈夫だという予感だけが、俺の足を前へ前へと動かしていた。そういえば、随分走ってるのに疲れを感じない。それも夢を見ているような感覚になっている原因だ。
幅の広い通路に入ると、まばらにゴブリン?や蝙蝠のモンスター、弓を持ったモンスターがいるのが見て取れた。
こちらに気づいてすぐに向かってくる。
「[シールドチャージ]!!」
ボロボロの盾を前に構えたザインが鋭く声を上げ、スキルを発動させた。同時に俺達の前面を青白い光が覆い、走る速度が上がる。盾で突進するスキルってところか。
立ちふさがろうとしていたゴブリンや、放たれた矢を吹き飛ばしながらザインの突進は続く。とはいえ、一度のスキルの継続時間はもって数秒。その後はスキルの恩恵も外れて、生身のままこの危険な通路に身を晒すことになる。
じわじわと恐怖が腹を焼く。頭で考えてみれば、無事に到着する前に鎧も何もない俺に攻撃が通ってしまう可能性の方が高い。ザインだって余力は無いんだ。
それなのに、何故かそれで自分が怪我をして死んでしまうという発想に現実味は湧かなかった。時々、後ろからカラン、コツッと小さな音がしたが気にしている暇はない。今は、ここを駆け抜けないと!
幅の広い通路を抜けると、ザインは脇道に飛び込み息を整えた。
そして、俺の肩を掴むと右回りにその場で一回転するように促した。素直に回ってやると、ザインはほっとしたように柔らかな笑みを浮かべた。
「良かった……途中で範囲防御が効かなくなってたんだけど、運が良かったみたいだ。服にも傷1つついてないな」
「げっ、そんな状態で大丈夫か?」
「あぁ、少し息を整えれば大丈夫だ。聞こえるか?あのざわめきが」
ザインが耳を澄ますようにジェスチャーをするので、同じように耳を傾けると通路の曲がり角の先から沢山の生き物の足音と、金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。
そして、その中に混じって女性の声も。その中の1つは、どこか聞き覚えのある声のように感じた。
「君のおかげで、一気にここまで来ることができた。きっと、皆はまだ無事だ。だが、猶予は無い。この通路の先にきっとアイシャ達を狙ったモンスターがひしめいてるはずだ。それを突破して、彼女達と合流しなければならない。」
ここまでの、まばらに敵がいた状態とは違うってわけだ。
「どの程度の数かによるが、俺はシールドチャージでモンスターを掻き分けながら一気に突破しようと思ってる。できるだけ守りたいが、怪我をしたらすまない。死なない限りは何があっても君を守り抜くから、君の命、俺に預けてくれるか?」
じっと
「ああ、頼んだ」
できるだろう?と信じて、笑ってやる。
こういう時守られる側ができる事は、足手まといにならないようにしっかり守られてやること。託すなら、全力で託すことだ。半端になにかしなきゃなんて考えると、全力で守ろうと考えている奴の足を引っ張りかねない。
俺の手を握るザインの手が強くなった。
「よし、行くぞ。[範囲防御]、[シールドチャージ]!!」
モンスターのひしめく通路に踏み込んだザインがスキルを発動させ、俺の手を引く。ザインのスキルの範囲外に出ないよう、遅れないように全力で歩調を合わせる。
俺にできることはそのくらいだ。
ザインの予想通り、その通路にはモンスターが詰まっていた。ザインが言った通りなら、この通路の先は少し開けた部屋になっていて通路から溢れたモンスターをザインのパーティーメンバーが撃退しているはずだ。
こっちから押すことで、背の低いモンスターを押しつぶし、他のモンスターを転倒させる事もできる……できるか?いやすごい数だけど。それでも、やれる気がしてくる。モンスターをなぎ倒す予感が、頭から胸へ、胸から腹に降りて咆哮となって飛び出した。
\_,、_人_,、_人_,、_人_,、_人_,、_人_,、_人_;、_;、/
≫ウオォオオオオオオオオオオオオオオッッ≪
/⌒'Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y\
ザインも同じだったのか、2人の雄叫びは狭い通路にびりびりと響き渡り、モンスターを動揺させるのに十分な効果を発揮した。
慌てて振り返る一番手前のオークが体制を崩した所に、男2人の突貫が突き刺さる。なぜか、ザインのシールドチャージの青い光は黄金色に変わっていた。
「プギィィィィィ!?!?」
ピンボールよろしく俺より体格の良いオークが弾け飛び、他のモンスターにぶつかっても止まらず通路の中を跳ね回る。なんだこれ?とか疑問に思ってはいられない。すぐに他のモンスターに激突するが、それもオークと同様にピンボールの弾になっていった。
とにかくそうなってるんだから都合が良い!!理由は何だっていいんだ!ツッコミは後回しだ!これなら無事に突破できる!!俺だって痛いのヤダもんね!!!!
ザインも同じ気持ちなのか、勢いを更にマシマシにして突っ込んでいった。その結果――
\_,、_人_,、_人_,、_ ;、_/
》 《
《 ド ゴ ォ ッ 》
》 《 \_,、_人_, 、_/
/⌒'Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y`\ ≫ プギィ ≪
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\_,、_人_,、_人 、_/
≫ ギェピィ ≪
/⌒'Y⌒Y⌒ ;`⌒\
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\_,、_人_,、_人_,、、_/
≫ ギャギャッ ≪
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《
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それが何分程度の事だったのか分からない。
無我夢中で突進していた俺達は、気付けば通路に居たモンスターのほとんどを弾き倒し、ザインのパーティーメンバーが立て籠もった部屋に到達していたらしい。
そこら中に瀕死のモンスター(多分ザインが弾き飛ばした連中)が転がっていて、あらゆる色の体液が壁や床を彩り、部屋の奥には座り込んだ女の子が3人。そして、それを囲むようにオークが4体。うち1体は、ひと際大きな体をしていてその右手にぐったりとした金髪の女の子を抱えていた。そいつがザインの言っていたオークの小隊長だと直感する。
それを見た瞬間、ザインが俺の手を放してオークの小隊長に向かって突撃した。
いや待て周りのモンスターは瀕死とはいえ、置いてかないで!?
「アイシャアアァァ!!」
近くに転がっていたオークの遺品らしい棍棒を手に取り、ザインがオークの小隊長に突進しようとした時、俺にはオークの小隊長が楽しそうに口を歪めたのが見えた。
小隊長はその右手を振りかぶり、ザインに向かって横薙ぎに叩きつける。
その、柔らかくて重量のある金髪の鈍器には、ザインを硬直させる効果があった。
耳を塞ぎたくなるような音がして、鮮血が飛び散り、金髪の鈍器を受けたザインはその鈍器ごと壁に吹き飛ばされ、動かなくなった。
あれ?次にピンボールになるのって、俺達なのか?
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