第5話 異世界占いなんてやるんじゃなかった(転一)
「この家の魔法具は素晴らしいな!取っ手をひねるだけでお湯が出てきたり、ボタンを押すだけで尻を洗う専用のお湯が出て来るなんて。特にトイレだ!どれだけ快適さを求めたらあんな変態的な発想が生まれるんだ?あれは貴族連中も欲しがるぞ」
風呂上りで濡れる金髪と端整な筋肉が無駄に眩しいザインは、興奮気味に現代日本の技術を褒めた。俺が開発したわけではないけど、褒められて悪い気はしないな。ここに来る前にこれだけは譲れないと買った最新式のウォシュレットが水を吹いたぜ(ドヤァ。
しかし、残念ながら魔法具じゃあない。ただの日本のお家芸さ。
「この世界に魔法っていうのは……無いと思うんだけどな。少なくとも俺は見た事が無い。そっちなら魔法でどうにかなるんじゃないのか?」
この世界に魔法は無いかもしれないけど、あるかもしれない。というのも、占いやヒーリングなんて神秘が実際にあるわけだから、無いって言いきれないからだ。先生はその道のプロ。そして、俺も実際にその末端を経験したことがある。
異世界ものでウォシュレットを驚かれる展開はよく見た事あるんだけど、発想さえあればできるんじゃないか?とはいつも思っていたのでこの機会に聞いてみようと思った。
「できなくはない……かもしれないが、かなりの魔法の才能が無いとあんな繊細な事はできないと思うぞ。そうか、この世界には魔法が……いや待て。魔法でないなら、一体どうやってあんな仕掛けを動かしているんだ?」
「どうやって……って、普通に技術を使って……」
「技術か!どんな技術なんだ?」
金髪イケメンが興味津々といったふうに顔を輝かせているんだが、そんな無邪気な笑顔を見せないでくれ。無知な自分が恥ずかしくなるから!
「あー……んー……ごめんなさい、細かい事は勉強してないから分からない。今度調べてみるよ」
悔しいが、こういう時は正直に謝った方が誤解を招かない良いコミュニケーションだって先生は言ってた。以前の俺だったら、なんとか誤魔化そうと必死だったな。
謝った俺に対して、ザインは申し訳なさそうに目じりを下げた。こいつ良い奴だな。
「そうか。いや、すぐ分かるならと思っただけだ。俺も魔法の才能はからっきしでな。魔法のある世界だからって魔道具の説明をしろと言われても困る。俺の家は代々魔術師の家系なんだが、母親が辺境の蛮族出身の冒険者でな。俺はそっちの血を強く受け継いだらしい。顔も腕っぷしもそっくりだと周りにはよく言われるんだ。それでも魔力はそれなりにあるらしいんだが、使えないんじゃな。魔術の才能が無いものだから、剣ばかり鍛えていたら何とか冒険者として食っていけるようにはなれたわけだ」
自己紹介かな?
いや、これ俺に対するフォローのつもりなのか。フォローにさらっと自己開示混ぜるとか、こいつコミュ強だな。絶対モテるだろ。パーティーメンバー、まさか女ばっかりじゃないだろうな?聞いてみるか。
「冒険者かぁ……そういえば、ザインのパーティーメンバーってどんななんだ?」
「ああ、
ほらきた。ほーらきた。こいつハーレム主人公ですよ!
名前からして全員女ですね?
「ザイン以外、全員後衛って大丈夫なのか?」
「それはギルドマスターにもよく心配されるんだけど、必要になるとスキルっていうのは身につくらしくてな。[広域防御]っていう広範囲のダメージを肩代わりするスキルも身についたし、今日まではなんとかやってこられたんだよ」
スキル!!魔法!!どういう仕組みなの!?と聞きたいけどこらえる。多分ザインからは大した答えが返ってこない。
「今日までは……か。何があったんだ?」
「モンスター
……こいつとの会話、実際何語でこいつは話してるんだろう?聞こえるのは日本語なんだけど、異世界の言語が日本語とは思えないし。口の動きもなんか不自然だし。
なんて、今更か。とりあえず現実なんだから、受け止めるしかない。
「無謀なモンスターに挑戦した冒険者が、逃げながら道中のモンスターを引き連れて来る迷惑な現象でな。運悪く視界の悪い森の階層で、俺達の間近で力尽きたもんだから気づいた時には囲まれていた。ネビルの黒魔術で混乱させてる間に距離を稼いだんだが、1階でマイアとネビルの体力が尽きた。俺が抱えながら走れるのは1人だけ。助けなきゃならないのは2人となれば、タンクで唯一の男である俺が囮になって4人を助けるのが正しいと思ったんだ。正直死ぬかと思ったけど、実際に突っ込んでみるとモンスターの密度が高すぎて俺への攻撃が他のモンスターにつっかえて、空振りした奴が倒れて、その上に更につまづいた奴が倒れたりしてな。意外と大怪我しないで済んだんだよ。モンスターの波の上を泳ぐみたいに進めたのは、多分金属鎧だったからだな。やっぱり防具はケチっちゃダメなんだって改めて思ったよ」
徐々に熱が入ってきたザインに、こっちも乗せられてきた。ギャグ漫画かよ!!
「モンスターの上を泳いだのか!?すごッッ!!」
「はははっ!そうだろ!?その時は体のどこかに噛み付かれたりもしたから必死だったけど、生きて帰ったら一生モノの笑いネタになるなって、ちょっと楽しかったなぁ!それでモンスターの波を無理矢理超えて、とにかく逃げ回ったんだ。身軽にする為に大切な盾も捨ててな。それで、気付いたらそこの妙な扉の前だったってわけだ」
「よく生きてたもんだなぁ。奇跡だ」
「テルヒコ、君に会えた事も奇跡だよ。俺は、本当に運が良かった。ありがとう」
金髪イケメンが微笑んだ。俺、今口説かれてるのかな?
いや、これがこいつの素なんだろうなぁ。そりゃあ、ハーレムにもなるよ。一瞬ときめいたもん。俺が女だったら、このまま異世界着いてっちゃう❤ってなるもん。
「こっちも面白い話が聞けたし、運が良かった。さて、そろそろお開きにしようか」
立ち上がり食器を片付けようとした時、正面の勝手口から目に見えない圧力が全身に襲い掛かってきた
\\ | l i 川 | l i川 | l i 川 | | l i川| l i 川//
三 ザザーーイン ザイーン
三
// | l i 川 | l i川 | l i 川 l i川 | l i 川 |\\
初めて聞く女の声が頭の中で何度も何度も反響し、やがて耳元で囁かれたように聞こえた。それは、ザインを呼ぶ声だった。
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