第4話 異世界占いなんてやるんじゃなかった(承二)

「それで、この先どうするんです?しばらくしたら、戻るんですか?」


 そう尋ねた俺に、ザインは眉をしかめて答えた。


「そうだな……その話をする前に、まずは君のバカ丁寧な話し方をどうにかして欲しいんだが、できるか?敬語を聞くと、どうも嫌な事を思い出すんだ」


 本気で嫌そうな顔をされたら、流石にNoとは言えない。そういう文化というなら仕方ない。郷に入っては郷に従えと言うし。……あれ?この場合従うのはザインの方じゃないか?まあ、いいけど。


「分かった。で?この先どうするつもり?」


 そうそう、そういうのでいいんだと言わんばかりに、ザインは笑って見せた。


「俺が囮を引き受けたのは1階の半ばだったから、多分仲間は無事に外に出られたはずだ。仲間がギルドに駆け込んで捜索隊という名の遺体回収の依頼がギルドに出される事になるだろう。その依頼を引き受けた連中が来るのを待って合流するしかないだろうな。1人でダンジョンを踏破するのは危険過ぎるし、俺自身どこをどう逃げ回ってここまで来たか分からないんだ。地図はあるが、現在値が分からないんじゃな……」


 はぁ……とため息をつきながら、ザインがちらちらとこちらを覗いてくる。

 おい、まさか……


「……捜索隊が来るまで、ここに居る気じゃないよな?」


「だめか?」


 捨てられた子犬みたいな顔をするなよ。あざといぞこの騎士野郎。


「……金はあるのか?」


「あるぞ」


 ベルトにつけた布袋から、ちゃりりと音がした。ザインがそこから取り出したのは、金色と銀色のコインだ。見た事もないような文様が彫られている。異世界感じるなぁ……

 大きさは、金色の方が10円玉くらい。銀色の方が500円玉くらいだ。そのまんま、金貨と銀貨かな?


「金貨1枚、大銀貨1枚。そこらの少し良い宿屋なら、10日くらいは泊まれる。異郷の価値は分からないが、これが今ある全財産だ。ギルドハウスまで戻れば、もっとあるんだが……」


「そっちでの価値は関係ないんだよ。そのまま使えるわけじゃないんだし。ちょっと待って、調べるから」


 スマホでざっと調べると金貨1枚で今の相場なら1万円くらいと考えてもいいか。重さもほぼ10円玉と同じだし、4gはあるとすれば4万円?ならまあ、いいか。


「まあ、事情も事情だし泊めてやるよ。こっちの世界じゃ銀は圧倒的に安いんだ。金貨だけ貰っておく。これでしばらく泊めてやるから、返金は期待するなよ?」


 そう言って、金貨をささっと拾ってサイフに入れる。先払いで貰わなきゃ割に合わない。売りに行く手間だってあるしな。

 何か文句を言うかと思ったが、むしろザインはほっとした顔をしていた。


「もちろんだ。ダンジョンの中で休めるだけでも助かる。鎧を脱いでもいいか?」


「あー、使ってない部屋があるからそこで脱いでくれ」


 俺も今日来たばかりだからあまり把握してないんだが、その部屋には前の所有者が置いて行ったタンスや丸テーブル、古い木の椅子がある程度だ。一応、客用布団を1つだけ持ってきて良かった。薄っぺらいが、無いよりマシだろう。


 こうして謎の異世界人同居生活が始まったわけだが、その終わりは思ったよりも早く訪れる事になる。

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