第2話
なぜ?真っ先にその言葉が出てくる。が、私の心は確かに踊っていた。跪く彼に見入っていた。再び成り上がるのだと、私の魂が叫んでいた。
「私は…。」
「僕としましても、エリゴルには再び成り上がっていただきたい。ですのでどうかこの手を…。」
そう、手を差し出す彼に近づく。
「待って!」
遠くでそんな声が聞こえた。が、淀んで消える。欲の前に理は無力である。そうして私はその手をとった。
「…。」
目を瞑ると枷が外れるのを感じた。今だったら何でもできそうな気がする。温かく、煌々とした炎が私の身を包んでいくような。
「燃えてる…。」
そう、まさに私自身が燃えているような。
「なぜ…炎が…?」
「…え?」
目を開けると、先の悪魔は絶句している。同室の少女は唖然とした表情。自身の手を見てようやく知ることになった。私は今本当に燃えている。
「えぇ!?」
だが熱くない。それどころか、体がいつも以上に軽やかである。
「…我が君よ。名を何と…。」
悪魔は目を丸くしてそう聞いた。どうやら私個人の名までは知らなかったようである。
「私の名は、アレル。アレル·エリゴル。」
それを聞いた悪魔は、少し動揺する。そしてアレルの名を反芻し。「なるほど、それならば」と、どこかで納得がいったようだ。
依然、炎は私を包む。鎧のようにも見えるそれは、私にとってあの日の炎とは全く別の意味を持っていた。感覚的に理解した。この力はあの悪魔との接触により引き出されたものだと。そしてこの力があれば私は、再び飛び立てると。謂わば、戒めの炎。
「私は…エリゴルを再建する。」
「はい…。」
悪魔は、その言葉に賛同した。そこで待ったをかけたのがあの少女であった。
「待ってください!そいつは悪魔なんですよ!」
「私からしてみれば、家族を処刑したあいつらの方がよっぽど悪魔よ。」
「でも…悪魔に魂を売ってしまえばその先に待つのは―――――。」
「破滅のみ。解ってる。それでも私はもう一度夢を見たい。騙されていたい。羽ばたきたい。それに私は、多分そんなに弱くない。」
「………解りました。」
彼女はそう呟き、姿を消した。いや、そうじゃない。私の目は、微かな残像をとらえた。常人では見きれないほどの高速移動と言うわけだ。
「であるならここで殺します。」
冷酷な彼女の声は、私の耳元で低く囁かれる。
どこに忍ばせていたのか、そのナイフを私の喉元に突き立てている。
「速い…。」
悪魔はそれだけ呟く。対抗できる故の様子見か、はたまた見掛け倒しのペテン師だったか。
「もとはこんなはずじゃなかったのだけれど…。」
そのナイフは私の首を撫で、頸動脈をかっさばいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます